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- 家計消費の動向(~2024年9月)-緩やかな改善傾向、継続する物価高で消費に温度差
2024年11月19日
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1――はじめに~個人消費はコロナ禍前より低水準だが緩やかな改善傾向、可処分所得の増加が鍵
2024年9月の個人消費は依然としてコロナ禍前の水準を下回っているものの、緩やかな改善傾向が続いている(図表1)。この背景には、可処分所得に改善の兆しが見えてきたことが挙げられる。消費者物価指数の上昇率は高水準で推移している一方で、実質賃金は改善傾向にあり、2024年9月の「現金給与総額」(前年比▲0.1%:速報値)もプラス転換に近づいている。特に、賞与等の影響が比較的大きい6月には、2年3カ月ぶりにプラス(同+1.1%)に転じている。
一方、個人消費の回復が力強さを欠く理由として、可処分所得は改善傾向にあるものの、使えるお金が増えていない点が挙げられる。特に、基本給が中心となる「きまって支給する給与」(同▲0.5%)が依然としてマイナス圏にあり、中長期的に所得が増加する実感は得られにくい状況だ。さらに、歴史的な円安はやや緩和されたものの、9月時点では、米国大統領選挙を控えた金融市場の不安定な動きや根強い先行き不安も影響を及ぼしている。
本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降2024年9月までの二人以上世帯の消費動向について分析する。
一方、個人消費の回復が力強さを欠く理由として、可処分所得は改善傾向にあるものの、使えるお金が増えていない点が挙げられる。特に、基本給が中心となる「きまって支給する給与」(同▲0.5%)が依然としてマイナス圏にあり、中長期的に所得が増加する実感は得られにくい状況だ。さらに、歴史的な円安はやや緩和されたものの、9月時点では、米国大統領選挙を控えた金融市場の不安定な動きや根強い先行き不安も影響を及ぼしている。
本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降2024年9月までの二人以上世帯の消費動向について分析する。
2――二人以上世帯の消費支出の概観~全体でコロナ禍前より低水準、食費等を抑制、娯楽をやや優先
コロナ禍前の2019年同月と比較した二人以上世帯の消費支出は、2022年以降、10月1を除くすべての月で2019年を下回っている(図表3(a))。2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症分類が5類に引き下げられ、消費行動の平常化が期待されたものの、実際には消費の減少幅がやや拡大する傾向にある。この背景には、前述の通り、可処分所得の増加が十分ではなく、消費が抑制されている可能性がある。
なお、図表2に示す総消費動向指数と二人以上世帯の消費支出の動きが異なるのは、総消費動向指数が二人以上世帯に加え、単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)であり、さらに、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されているためである。いずれにしても、2024年9月時点では、消費はコロナ禍前の水準に戻らず低迷している状況が続いている。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍前をおおむね下回っているのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)であり、逆にコロナ禍前をおおむね上回っているのは「住居」と「保健医療」である(図表3(b)~(f))。
なお、コロナ禍前をおおむね下回る費目のうち、「食料」や「家具・家事用品」、「その他の消費支出」は2023年に入ってから減少傾向が見られる一方、「被服及び履物」と「教養娯楽」は、おおむね横ばい、または若干増加傾向にある。したがって、消費行動が平常化するにつれ、物価高によって実質的に目減りした可処分所得の使途として、食料や日用品などの日常的な消費が抑えられる一方、コロナ禍で控えられていた旅行・レジャーなどの娯楽的支出やそれに関連する消費は、比較的優先される傾向が見られる(ただし、コロナ禍前よりも低水準)。このことから、消費者の選択性が高まっている可能性がある。
次節では、これらの大分類で見えにくい変化を捉えるため、特にコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目し、2024年9月点までの動向を詳しく分析する。
1 消費税率引き上げによる反動減の影響が大きな2019年10月との対比であるため、各年10月はプラスを示しやすい。
なお、図表2に示す総消費動向指数と二人以上世帯の消費支出の動きが異なるのは、総消費動向指数が二人以上世帯に加え、単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)であり、さらに、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されているためである。いずれにしても、2024年9月時点では、消費はコロナ禍前の水準に戻らず低迷している状況が続いている。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍前をおおむね下回っているのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)であり、逆にコロナ禍前をおおむね上回っているのは「住居」と「保健医療」である(図表3(b)~(f))。
なお、コロナ禍前をおおむね下回る費目のうち、「食料」や「家具・家事用品」、「その他の消費支出」は2023年に入ってから減少傾向が見られる一方、「被服及び履物」と「教養娯楽」は、おおむね横ばい、または若干増加傾向にある。したがって、消費行動が平常化するにつれ、物価高によって実質的に目減りした可処分所得の使途として、食料や日用品などの日常的な消費が抑えられる一方、コロナ禍で控えられていた旅行・レジャーなどの娯楽的支出やそれに関連する消費は、比較的優先される傾向が見られる(ただし、コロナ禍前よりも低水準)。このことから、消費者の選択性が高まっている可能性がある。
次節では、これらの大分類で見えにくい変化を捉えるため、特にコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目し、2024年9月点までの動向を詳しく分析する。
1 消費税率引き上げによる反動減の影響が大きな2019年10月との対比であるため、各年10月はプラスを示しやすい。
3――コロナ禍の影響を受けた主な費目のその後~物価高や行動変容で改善傾向に温度差
1|コロナ禍で減少していた費目
(1) 旅行・レジャー~国内旅行や遊園地は堅調の一方、円安で海外旅行は抑制傾向など娯楽の中でも温度差
まず、コロナ禍の影響で支出額が減少していた費目について捉える。「宿泊料」や「パック旅行費」は、コロナ禍の中でも政府による需要喚起策2の効果もあり、2023年前半頃までは増加傾向を示していた。特に「宿泊料」はコロナ禍前の水準を上回る月が多く見られた(図表4(a))。一方、2023年後半以降、コロナ禍の終息を受けて両項目ともおおむね横ばいで推移し、2024年に入ると、特に「パック旅行費」は減少傾向を示すようになっている。「パック旅行費」については、交通費を含み海外旅行の影響が大きく受けるため、2023年夏頃から進行した歴史的な円安3により、需要が強くても割高感が抑制要因となっている可能性がある。
レジャーについても旅行と同様の傾向が見られ、2023年までは増加傾向が強まっていたものの、2024年に入り「遊園地入場・乗物代」や「文化施設入場料」は横ばいで推移している(図表4(b))。一方、「映画・演劇等入場料」は2024年前半にやや減少傾向が見られたものの、夏頃に反転し、9月にはコロナ禍前を約1割上回る水準(+9.0%)となっている。
これらの旅行やレジャーの動向から、物価上昇で可処分所得の制約がある中で、娯楽費の中でも優先度や割高感の違いが影響し、消費に温度差が生じている可能性がある(国内旅行や遊園地、映画は選ばれやすい一方で、海外旅行は控えられるなど)。
(1) 旅行・レジャー~国内旅行や遊園地は堅調の一方、円安で海外旅行は抑制傾向など娯楽の中でも温度差
まず、コロナ禍の影響で支出額が減少していた費目について捉える。「宿泊料」や「パック旅行費」は、コロナ禍の中でも政府による需要喚起策2の効果もあり、2023年前半頃までは増加傾向を示していた。特に「宿泊料」はコロナ禍前の水準を上回る月が多く見られた(図表4(a))。一方、2023年後半以降、コロナ禍の終息を受けて両項目ともおおむね横ばいで推移し、2024年に入ると、特に「パック旅行費」は減少傾向を示すようになっている。「パック旅行費」については、交通費を含み海外旅行の影響が大きく受けるため、2023年夏頃から進行した歴史的な円安3により、需要が強くても割高感が抑制要因となっている可能性がある。
レジャーについても旅行と同様の傾向が見られ、2023年までは増加傾向が強まっていたものの、2024年に入り「遊園地入場・乗物代」や「文化施設入場料」は横ばいで推移している(図表4(b))。一方、「映画・演劇等入場料」は2024年前半にやや減少傾向が見られたものの、夏頃に反転し、9月にはコロナ禍前を約1割上回る水準(+9.0%)となっている。
これらの旅行やレジャーの動向から、物価上昇で可処分所得の制約がある中で、娯楽費の中でも優先度や割高感の違いが影響し、消費に温度差が生じている可能性がある(国内旅行や遊園地、映画は選ばれやすい一方で、海外旅行は控えられるなど)。
2 2020年7月下旬に「GoToトラベル」が開始され、感染拡大によって12月下旬に一旦停止。2021年4月から自県民の県内旅行を推進する「県民割」が、その後、対象を地域ブロックに広げた「ブロック割」を2022年10月上旬まで実施。その後は対象を全国に広げた「全国旅行支援」が実施されている。2023年4月以降の「全国旅行支援」は各都道府県の予算がなくなり次第、順次終了。
3 日本銀行「外国為替市況」によると、2023年5月末は1米ドル139.75円だったが、その後、一層円安が進み、2024年4月末は1米ドル160.93円へと上った。7月以降は円高方向で8月末は1米ドル144.94円。
(2024年11月19日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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