コラム
2024年11月12日

トランプ政権で米住宅金融市場改革は進展するか~ファニーメイ、フレディマックの再上場の可能性~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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2024年11月5日に投票が実施されたアメリカの大統領選挙で共和党の前大統領、ドナルド・トランプ候補が民主党の副大統領、カマラ・ハリス候補を破り当選したと報じられている。

アメリカでは住宅ローンの約9割が固定金利型で1、その供給に中核的な役割を果たしているのがファニーメイ2、フレディマック3という政府支援企業(GSE4)である。両社は2000年代半ばの住宅バブル崩壊で経営が悪化し、2008年9月に公的管理下(Conservatorship)に置かれ、2000億ドル近い公的資金が注入されたが、その後の住宅市場の回復に伴い財務体質も改善し(図表1)、投入された公的資金を大きく超える配当を国庫納付している(3,011億ドル)。トランプ氏は前大統領の任期中、両社の再上場を目指した。来年1月に第47代のアメリカ合衆国大統領に就任した後、再び両社の再上場を目指す可能性がある。
図表1 ファニーメイとフレディマックの損益(億ドル)
ファニーメイは1938年、フレディマックは1970年に設立され、株式を上場する民間企業でありながら連邦政府との特殊な関係(一部役員の大統領任命や財務省からの緊急融資枠等)からGSEと呼ばれてきた。

両社は半官半民の鵺(ぬえ)のような組織と揶揄され、特に政府による市場介入を嫌う共和党からは批判が強かった。一方で、その半官半民の組織形態ゆえに「利益は株主に、損失は納税者に」という利益相反の構造は根本的な治癒が必要という声が根強く、2013年8月にオバマ大統領(当時)は両社を廃止し、別の組織を新設して必要な機能を移管する方針を示したが、2014年5月に法案が身内の民主党議員の造反により廃案となった。

その後、2019年9月にトランプ大統領(第1期)からの指示で米財務省と連邦住宅都市開発省(HUD5)がGSEの資本を増強し、再民営化を促す方針を打ち出した。2012年8月以降、純利益のほぼ全額を国庫納付してきたが、この方針変更により利益の一部を剰余金として積み立てることが認められ、2024年9月末時点の純資産はファニーメイが905億ドル、フレディマックが564億ドル弱となっている。2021年1月にバイデン政権が発足した後、両社の監督当局である連邦住宅金融庁(FHFA6)の長官は更迭されたが、両社の資本増強の方針は変更されなかった。結果的に、FHFAが設定した自己資本基準を満たす見込みが高まってきている。

当初は数年で終わると見込まれていた両社の公的管理は既に16年が経過し、政治的な争点としては薄れている。しかし、再上場を目指すとなった場合は、組織の在り方そのものが再び論点となる可能性がある。総資産は2024年9月末時点でファニーメイが4.3兆ドル余、フレディマックが3.3兆ドル余と、合計するとFRB7(連邦準備制度理事会)よりも大きい8(図表2)。

まだトランプ氏自身の口から方針が示されているわけではないものの、両社を再上場すれば連邦政府には巨額の収入が入る可能性もあるが、アメリカの住宅金融市場、ひいては世界の金融市場にどのような影響が出るのか、目が離せない。
図表2 2024年9月末時点のFRBとGSEの総資産(兆ドル)
 
1 「住宅ローンの固定金利利用率、アメリカが9割超に対して日本は1割未満にとどまる~日本では低金利が続いていたからなのか~」(ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2023年9月13日)
2 Federal National Mortgage Association(Fannie Mae)
3 Federal Home Loan Mortgage Corporation(Freddie Mac)
4 Government Sponsored Enterprise
5 U.S. Department of Housing and Urban Development
6 Federal Housing Finance Agency
7 Board of Governors of the Federal Reserve System
8 FRBの総資産は2024年9月末時点で7.08兆ドル。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年11月12日「研究員の眼」)

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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

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