2024年10月08日

お金の流れでみる日本経済

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.331]

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1―30年も資金余剰が続く企業部門、足元では余剰が再拡大

日本における長期の資金循環を家計部門、企業部門(民間非金融法人)、海外部門、一般政府の4つの部門でみると、家計部門と企業部門は資金余剰主体、一般政府部門と海外部門は資金不足主体となっている[図表1]。
[図表1]部門別資金過不足の推移
日本の資金循環の特徴は、資金調達をして設備投資などを行う企業部門が90年後半から一貫して資金余剰主体であり続けていることである。

直近、四半期ベースの動きでも企業部門の資金余剰は14.4兆円と過去最大である[図表2]。資源・エネルギー高が一服する中で価格転嫁が進展し、売上や利益は拡大したが、設備投資は伸び悩んで来たことなどが背景にある。
[図表2]部門別資金過不足(季節調整済)
日本企業の貯蓄超過は30年近く続いている。外的環境の変化により経済はデフレからインフレ、企業もコストカットから付加価値創出に動き出し、やっとこの特殊な状況に変化が起きるかと期待していたが、足元の動きは逆方向に進んでいる。企業の設備投資は利益が拡大する中でもキャッシュフロー内の動きに留まっている[図表3]。
[図表3]設備投資とキャッシュフローの関係
国全体の設備投資は将来期待が高まらないと進まない。また、実際に投資するか、しないかは、民間企業の選択であり、第一義的には経営者がリスクを取ることが必要になる。企業の設備投資を促すには、収益力の強化を求める株主などの圧力(ガバナンス)、市場の評価(プレッシャー)も不可欠である。

足元では、経済安全保障や環境・エネルギーなど、国が主導する問題が増えている。日本の安心・安全や技術力が評価される現状は30年ぶりの大チャンスが巡って来たと感じている。今求められるのは「リスクを取るための予見性」「中長期のビジョン」であり、政治が立ち止まれる状況ではない。

2―もうひとつ心配な家計部門の資金不足

足元では、家計部門にも「インフレ負け」という不安要素が出始めている。資金循環の動きでも、家計部門が資金不足となる場面がある[図表2]。

コロナ禍では、各種給付などが家計を支え、外出規制で消費が抑制された結果、家計部門の資金余剰は確保されて来た。しかし、コロナ後には国際情勢の変化からインフレが顕著となり、収入の増加以上に支出が拡大している。

収入の面では、名目ベースの賃上げは進んでいるが、ボーナスが多い6月の直近分を除き実質ベースではマイナスが続いていた[図表4]。当研究所では、年後半10-12月以降の実質賃金プラス化を見込んでいる。
[図表4]労働者全体の資金の動き

3―好循環が実現した際の資金循環

好循環が実現すれば、家計は実質賃金がプラスになり、年後半からある程度の資金余剰をキープし、企業はもう一段の設備投資に踏み切ることで、資金不足主体へ動き出すと期待を込めて予想することができる。当然、企業の投資が増えて企業部門の資金過不足が赤字になれば、一般政府の資金余剰も見てくる可能性がある。一般政府の資金余剰は、政府部門が黒字であることを意味し、資金余剰を国債返済や将来投資に回せるようになる。

そうした場合、金融財政の正常化も、それに合わせたスピードで進めることが必要になる。日銀は、国債購入額縮小の具体的な計画を7月の決定会合で決めた。今後縮小部分すべてを金融機関が購入する訳にはいかない。つまり、財政赤字を補うために国債を発行し、日銀が消化するという、これまでのお金の流れは終了に向かう。家計、企業、政府、どの部門も変化する可能性がある局面であり、重要な時期に差し掛かっている。

(2024年10月08日「基礎研マンスリー」)

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総合政策研究部   専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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