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2024年10月08日
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1―2四半期ぶりのプラス成長
2024年4-6月期の実質GDPは前期比0.7%(前期比年率2.9%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。物価高による下押し圧力は依然として強いが、不正問題発覚による生産・出荷停止の解除を受けて自動車販売が回復したことなどから、民間消費が前期比0.9%と5四半期ぶりに増加、高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比0.8%と2四半期ぶりに増加した。
2024年4-6月期のプラス成長は、1-3月期の落ち込み(前期比年率▲2.4%)の反動の側面が強く、景気が一進一退の状態から抜け出したとは言えない。特に、コロナ禍以降の家計部門の低迷は深刻で、民間消費、住宅投資は2024年4-6月期には増加したものの、コロナ禍前(2019年平均)と比べると、それぞれ▲1.2%、▲11.9%低い水準にとどまっている。日本経済の回復を確認するためには、7-9月期以降の動向を見極める必要がある。
2024年4-6月期のプラス成長は、1-3月期の落ち込み(前期比年率▲2.4%)の反動の側面が強く、景気が一進一退の状態から抜け出したとは言えない。特に、コロナ禍以降の家計部門の低迷は深刻で、民間消費、住宅投資は2024年4-6月期には増加したものの、コロナ禍前(2019年平均)と比べると、それぞれ▲1.2%、▲11.9%低い水準にとどまっている。日本経済の回復を確認するためには、7-9月期以降の動向を見極める必要がある。
2―円高による企業収益への影響
為替レートは、日米金利差の拡大などを背景に2021年頃からほぼ一貫して円安・ドル高傾向が続き、2024年6月末から7月上旬にかけては1ドル=160円台まで円安が進行した。しかし、その後は米国の消費者物価上昇率の鈍化、トランプ氏によるドル高是正宣言などから円高傾向となり、7月末に日本銀行が政策金利を引き上げたこと、8月初めに公表された米国雇用統計の結果が事前予想を大きく下回り、米国の景気後退懸念が高まったことを受けて、1ドル=140円台まで円高が急進した。
日銀短観2024年6月調査では、2024年度の経常利益計画(全規模・全産業)が前年度比▲7.5%、事業計画の前提となっている2024年度の想定為替レートが1ドル=144.77円となっている。2021年以降、実際の為替レートが想定レートよりも円安水準となっていたため、収益計画が上振れる傾向が続いてきた[図表1]。たとえば、2023年度の想定為替レートは当初計画(2023年3月時点)では1ドル=131.72円だったが、実際の為替レートは1ドル=144.6円(2023年度平均)とそれよりも10円以上円安となり、2023年度の経常利益(全規模・全産業)は当初計画の前年度比▲2.6%から同12.4%まで上振れた。
日銀短観2024年6月調査では、2024年度の経常利益計画(全規模・全産業)が前年度比▲7.5%、事業計画の前提となっている2024年度の想定為替レートが1ドル=144.77円となっている。2021年以降、実際の為替レートが想定レートよりも円安水準となっていたため、収益計画が上振れる傾向が続いてきた[図表1]。たとえば、2023年度の想定為替レートは当初計画(2023年3月時点)では1ドル=131.72円だったが、実際の為替レートは1ドル=144.6円(2023年度平均)とそれよりも10円以上円安となり、2023年度の経常利益(全規模・全産業)は当初計画の前年度比▲2.6%から同12.4%まで上振れた。
実際の為替レートが想定レートよりも円高となった場合には、企業収益の下振れにつながるリスクが高まる。現時点では、米国の利下げが続く一方、日本の政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)が現在の0.25%から2025年度末までに0.75%に引き上げられることを前提として、2025年度末にかけて1ドル=130円台半ばまで円高・ドル安が進むことを想定している。
ニッセイ基礎研究所のマクロモデルを用いて、2021年以降の為替変動による経常利益への影響を試算すると 、これまでは一貫して円安が経常利益の押し上げ要因となってきたが、累積的な押し上げ幅は2024年1-3月期をピークとして縮小傾向となる。その結果、為替変動による影響は、2024年10-12月以降、前年比でマイナスになるという結果となった[図表2]。
この試算はあくまでも為替の影響だけを取り出したもので、実際の企業収益は国内外の需要動向などにも左右される。ただ、これまでのように為替要因によって収益が上振れすることは期待できないだろう。
ニッセイ基礎研究所のマクロモデルを用いて、2021年以降の為替変動による経常利益への影響を試算すると 、これまでは一貫して円安が経常利益の押し上げ要因となってきたが、累積的な押し上げ幅は2024年1-3月期をピークとして縮小傾向となる。その結果、為替変動による影響は、2024年10-12月以降、前年比でマイナスになるという結果となった[図表2]。
この試算はあくまでも為替の影響だけを取り出したもので、実際の企業収益は国内外の需要動向などにも左右される。ただ、これまでのように為替要因によって収益が上振れすることは期待できないだろう。
3―実質賃金上昇率はプラスへ
2024年の賃上げ率は5.33%(厚生労働省調査)と2023年の3.60%を大きく上回り、1991年(5.65%)以来、33年ぶりの5%台となった。また、連合の集計によれば、ベースアップに相当する「賃上げ分」は3.56%となった。
実質賃金上昇率は2022年4月からマイナスが続いてきたが、2024年6月に前年比1.1%と2年3ヵ月ぶりにプラスに転じた後、7月も同0.4%と2ヵ月連続のプラスとなった。しかし、6、7月のプラス転化は特別給与(ボーナス)が、それぞれ前年比7.8%、同6.2%の大幅増加となったことが主因で、安定的に推移する定期給与(所定内給与+所定外給与)は6月が実質・前年比▲1.2%、7月が同▲0.8%とマイナス圏にとどまっている。8月はボーナスがほとんど支給されないため、実質賃金上昇率は再びマイナスとなる可能性が高い。
実質賃金上昇率が四半期ベースで安定的にプラスとなるのは、2024年春闘の結果が反映され、所定内給与を中心に名目賃金(現金給与総額)の伸びが前年比で3%台となる中、消費者物価上昇率(持家の帰属家賃を除く総合)が現在の3%台から2%台まで鈍化することが見込まれる2024年10-12月期以降と予想する[図表3]。
実質賃金上昇率は2022年4月からマイナスが続いてきたが、2024年6月に前年比1.1%と2年3ヵ月ぶりにプラスに転じた後、7月も同0.4%と2ヵ月連続のプラスとなった。しかし、6、7月のプラス転化は特別給与(ボーナス)が、それぞれ前年比7.8%、同6.2%の大幅増加となったことが主因で、安定的に推移する定期給与(所定内給与+所定外給与)は6月が実質・前年比▲1.2%、7月が同▲0.8%とマイナス圏にとどまっている。8月はボーナスがほとんど支給されないため、実質賃金上昇率は再びマイナスとなる可能性が高い。
実質賃金上昇率が四半期ベースで安定的にプラスとなるのは、2024年春闘の結果が反映され、所定内給与を中心に名目賃金(現金給与総額)の伸びが前年比で3%台となる中、消費者物価上昇率(持家の帰属家賃を除く総合)が現在の3%台から2%台まで鈍化することが見込まれる2024年10-12月期以降と予想する[図表3]。
4―GDP成長率の見通し
2024年7-9月期は6月から実施されている所得税・住民税減税の効果もあり、民間消費が高め伸びとなることなどから、前期比年率2.3%と2四半期連続のプラス成長となることが予想される。
ただし、南海トラフ地震臨時情報や台風の接近・上陸を受けて、一部列車の運休、旅行のキャンセル、海水浴場の遊泳禁止が相次いだこと、主要自動車メーカーが工場の稼働を停止したことなどが、減税効果の一部を打ち消してしまうだろう。
減税の効果は一時的だが、10-12月期以降は実質賃金上昇率が安定的にプラスとなることから実質可処分所得が持続的に増加し、消費を下支えすることが見込まれる。また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。
実質GDP成長率は2024年度が0.7%、2025年度が1.1%と予想する。2023年度の実質GDP成長率は0.8%となったが、内需寄与度が▲0.6%と3年ぶりにマイナスとなる一方、国内需要の弱さを背景に輸入が減少したことから、外需寄与度が1.4%と成長率を大きく押し上げた。2024、2025年度は民間消費、設備投資を中心に国内需要が堅調に推移する一方、輸入が増加に転じることから外需による押し上げ幅は縮小する。先行きは内需中心の成長が続くことが予想される。
ただし、南海トラフ地震臨時情報や台風の接近・上陸を受けて、一部列車の運休、旅行のキャンセル、海水浴場の遊泳禁止が相次いだこと、主要自動車メーカーが工場の稼働を停止したことなどが、減税効果の一部を打ち消してしまうだろう。
減税の効果は一時的だが、10-12月期以降は実質賃金上昇率が安定的にプラスとなることから実質可処分所得が持続的に増加し、消費を下支えすることが見込まれる。また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。
実質GDP成長率は2024年度が0.7%、2025年度が1.1%と予想する。2023年度の実質GDP成長率は0.8%となったが、内需寄与度が▲0.6%と3年ぶりにマイナスとなる一方、国内需要の弱さを背景に輸入が減少したことから、外需寄与度が1.4%と成長率を大きく押し上げた。2024、2025年度は民間消費、設備投資を中心に国内需要が堅調に推移する一方、輸入が増加に転じることから外需による押し上げ幅は縮小する。先行きは内需中心の成長が続くことが予想される。
5―消費者物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響などから鈍化傾向が続き、2023年9月以降は2%台で推移している。
エネルギー価格は、2024年4月に1年3ヵ月ぶりに上昇に転じた後、再生可能エネルギー発電促進賦課金単価の引き上げ、電気・ガス価格の激変緩和策終了によって、5月から7月にかけて大きく上昇した。9~11月(8~10月使用分)は「酷暑乗り切り支援策」によって、電気・都市ガス代が大きく押し下げられるため、エネルギー価格の上昇率は鈍化するが、支援策が終了する12月には再び上昇率が高まるだろう。
コアCPI上昇率は、電気・都市ガス代の伸びが鈍化する2024年10月にはいったん2%を割り込むが、支援策終了後には再び2%台となるだろう。その後は、賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形で、コアCPIの伸びは鈍化傾向が続き、2025年度には日銀の物価目標である2%を割り込むことが予想される。
財・サービス別には、2024年度後半から2025年度にかけて、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。
コアCPIは、2024年度が2.3%、2025年度が1.8%と予想する[図表4]。
エネルギー価格は、2024年4月に1年3ヵ月ぶりに上昇に転じた後、再生可能エネルギー発電促進賦課金単価の引き上げ、電気・ガス価格の激変緩和策終了によって、5月から7月にかけて大きく上昇した。9~11月(8~10月使用分)は「酷暑乗り切り支援策」によって、電気・都市ガス代が大きく押し下げられるため、エネルギー価格の上昇率は鈍化するが、支援策が終了する12月には再び上昇率が高まるだろう。
コアCPI上昇率は、電気・都市ガス代の伸びが鈍化する2024年10月にはいったん2%を割り込むが、支援策終了後には再び2%台となるだろう。その後は、賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形で、コアCPIの伸びは鈍化傾向が続き、2025年度には日銀の物価目標である2%を割り込むことが予想される。
財・サービス別には、2024年度後半から2025年度にかけて、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。
コアCPIは、2024年度が2.3%、2025年度が1.8%と予想する[図表4]。
(2024年10月08日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
斎藤 太郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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