2024年09月18日

貿易統計24年8月-円高、原油安で先行きの貿易赤字は縮小へ

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.輸出入ともに低調

財務省が9月18日に公表した貿易統計によると、24年8月の貿易収支は▲6,953億円の赤字となったが、赤字幅は事前の市場予想(QUICK集計:▲13,372億円、当社予想は▲10,587億円)を大きく下回る結果となった。輸出が前年比5.6%(7月:同10.2%)、輸入が前年比2.3%(7月:同16.6%)といずれも前月から伸びが鈍化したが、輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は前年に比べ2,448億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲2.7%(7月:同▲5.2%)、輸出価格が前年比8.6%(7月:同16.3%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲3.8%(7月:同4.4%)、輸入価格が前年比6.3%(7月:同11.6%)であった。

8月は輸出入ともに低い伸びにとどまったが、上中旬は輸出(前年比12.3%)、輸入(同19.5%)ともに高い伸びとなっていた。8月末に上陸した台風10号が物流に悪影響を及ぼした可能性が考えられる。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
季節調整済の貿易収支は▲5,959億円と39ヵ月連続の赤字となったが、7月の▲6,773億円からは赤字幅が若干縮小した。輸出が前月比▲3.9%と2ヵ月ぶりに減少したが、輸入の減少幅(同▲4.3%)がそれを上回った。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 24年8月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=87.1(当研究所による試算値)と、7月の88.1から低下した。足もとの原油価格(ドバイ)は70ドル台前半で推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は、24年9月に80ドル程度、10月に70ドル台後半まで低下することが見込まれる。

先行きについては、原油価格の下落、円高の進展に伴う輸入物価の低下が貿易赤字の縮小に寄与する公算が大きい。

2.IT関連輸出が持ち直す一方、自動車輸出は低迷継続

24年8月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲7.7%(7月:同▲5.0%)、EU向けが前年比▲12.3%(7月:同▲13.8%)、アジア向けが前年比2.1%(7月:同▲4.3%)、うち中国向けが前年比▲4.9%(7月:同▲10.9%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 24年8月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲1.8%(7月:同▲2.0%)、EU向けが前月比▲0.7%(7月:同2.6%)、アジア向けが前月比0.3%(7月:同▲0.0%)、うち中国向けが前月比3.6%(7月:同▲4.9%)、全体では前月比▲1.3%(7月:同0.2%)となった。

24年7、8月の平均を4-6月期と比較すると、EU向けは0.6%高いが、米国向けが▲3.1%、アジア向けが▲1.2%、中国向けが▲4.6%低くなっている(全体は▲1.2%低い)。EU向けは持ち直しているが、4-6月期の急速な落ち込み(前期比▲8.8%)の反動によるもので、いずれの国・地域向けの輸出も低迷している。
品目別には、グローバルなIT関連財の調整進捗受けて、半導体等製造装置や半導体等電子部品等のIT関連輸出(実質ベース)は増加している一方、新たな認証不正問題の影響もあり、自動車輸出が低迷している。自動車輸出(対世界、台数ベース)は、前年比▲11.8%と4ヵ月連続の減少となり、7月の同▲6.9%から減少幅が拡大した。季節調整値(当研究所による試算値)では、前月比▲1.8%(7月:同▲0.2%)と4ヵ月連続で減少した。

海外経済の減速が続くなか、円高による下押圧力が加わることから、輸出は当面低調に推移する可能性が高い。
IT関連輸出の推移/自動車生産と自動車輸出の推移
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年09月18日「経済・金融フラッシュ」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【貿易統計24年8月-円高、原油安で先行きの貿易赤字は縮小へ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

貿易統計24年8月-円高、原油安で先行きの貿易赤字は縮小へのレポート Topへ