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- 家計消費の動向(~2024年7月)-物価高で食料や日用品を抑え、娯楽をやや優先だが温度差も
2024年09月19日
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1――はじめに~個人消費はやや改善傾向だがコロナ禍前より低水準、課題は可処分所得の持続的増加
2024年7月の個人消費は、依然としてコロナ禍前の水準を下回るものの、年初と比べれば僅かに改善傾向を示している(図表1)。この要因には、可処分所得に改善の兆しが見えてきたことがあげられる。消費者物価指数の上昇率は高水準で推移しているが、ピーク期と比べれば落ち着いており、昨年春頃から賃上げの機運が高まっていることで、実質賃金(賞与等を含む「現金給与総額」)は2024年6月に2年3カ月ぶりにプラスへと転じ(前年比+1.1%)、7月も上昇幅は縮小されたもののプラスの状況が続いている(同+0.4%:速報値)。また、6月には所得税・住民税の定額減税が実施された。
一方で個人消費の回復に勢いが欠ける背景には、主に基本給から成る「きまって支給する給与」が未だマイナスで推移しており(同▲0.8%:速報値)、現在のところ、消費者は可処分所得の増加は一時的なものと考えていることや、歴史的な円安は修正局面に入ったが、米国景気の減速懸念から金融市場が不安定な動きを見せる中で、根強い先行き不安が存在する影響などがあげられる。
このような中で、本稿では総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降、2024年7月までの二人以上世帯の消費動向について分析する。
一方で個人消費の回復に勢いが欠ける背景には、主に基本給から成る「きまって支給する給与」が未だマイナスで推移しており(同▲0.8%:速報値)、現在のところ、消費者は可処分所得の増加は一時的なものと考えていることや、歴史的な円安は修正局面に入ったが、米国景気の減速懸念から金融市場が不安定な動きを見せる中で、根強い先行き不安が存在する影響などがあげられる。
このような中で、本稿では総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降、2024年7月までの二人以上世帯の消費動向について分析する。
2――二人以上世帯の消費支出の概観~全体で低迷、食料や日用品を抑え、娯楽を比較的優先か
まず、二人以上世帯の消費支出、および内訳の主な費目(大分類として示されるもの)の概況を捉え、次節にてコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)の状況を分析する。
コロナ禍前の2019年同月と比べた二人以上世帯の消費支出は、2022年以降は10月1を除く全ての月で2019年を下回っている(図表3(a))。2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症分類が5類に引き下げられ、消費行動が平常化に向けて動き出したことで、消費の改善が期待されたが、実際には減少幅はやや拡大傾向にある。この要因には、前述の通り、賞与の増加や定額減税の実施によって可処分所得が増えた世帯もあるものの、物価高が継続する中で、基本給の増加が十分ではないことがあげられる。可処分所得の増加が持続的なものであるとの認識に至っていないために、消費が抑制されている可能性がある。
なお、図表2に示す総消費動向指数と、二人以上世帯の消費支出の動きが異なるようだが、これは、前者は二人以上世帯だけでなく、単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当するもの)であることに加えて、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されたものであるためだ。いずれにしろ、2024年7月の時点では、コロナ禍前の水準に戻らずに低迷している状況は同様である。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍前をおおむね下回るのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)であり、コロナ禍前をおおむね上回るのは「住居」や「保健医療」である(図表3(b)~(f))。
なお、コロナ禍前をおおむね下回る費目のうち「食料」や「家具・家事用品」、「その他の消費支出」は2023年に入った頃から減少(悪化)傾向を示しているが、「被覆及び履物」と「教養娯楽」は、おおむね横ばい(あるいは若干増加(改善)傾向)で推移している。よって、消費行動が平常化へ向かうとともに、物価高が継続して、実質的には目減りしてきた可処分所得の使途として、食料や日用品などの日常的な消費は抑制される一方、コロナ禍で控えられてきた旅行・レジャーなどの娯楽のような非日常的な消費や、それに付随する消費は比較的優先されるなど(とはいえコロナ禍前より低水準)、消費者の選択性が高まっている可能性がある。
次節では、これらの大分類で見えにくい変化の詳細を捉えるために、特にコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目しながら、足元までの状況を分析する。
コロナ禍前の2019年同月と比べた二人以上世帯の消費支出は、2022年以降は10月1を除く全ての月で2019年を下回っている(図表3(a))。2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症分類が5類に引き下げられ、消費行動が平常化に向けて動き出したことで、消費の改善が期待されたが、実際には減少幅はやや拡大傾向にある。この要因には、前述の通り、賞与の増加や定額減税の実施によって可処分所得が増えた世帯もあるものの、物価高が継続する中で、基本給の増加が十分ではないことがあげられる。可処分所得の増加が持続的なものであるとの認識に至っていないために、消費が抑制されている可能性がある。
なお、図表2に示す総消費動向指数と、二人以上世帯の消費支出の動きが異なるようだが、これは、前者は二人以上世帯だけでなく、単身世帯や三世代世帯なども含む総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当するもの)であることに加えて、コロナ禍前との比較ではなく、2020年=100として指数化されたものであるためだ。いずれにしろ、2024年7月の時点では、コロナ禍前の水準に戻らずに低迷している状況は同様である。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍前をおおむね下回るのは「食料」や「家具・家事用品」、「被服及び履物」、「教養娯楽」、「その他の消費支出」(交際費や仕送り金など)であり、コロナ禍前をおおむね上回るのは「住居」や「保健医療」である(図表3(b)~(f))。
なお、コロナ禍前をおおむね下回る費目のうち「食料」や「家具・家事用品」、「その他の消費支出」は2023年に入った頃から減少(悪化)傾向を示しているが、「被覆及び履物」と「教養娯楽」は、おおむね横ばい(あるいは若干増加(改善)傾向)で推移している。よって、消費行動が平常化へ向かうとともに、物価高が継続して、実質的には目減りしてきた可処分所得の使途として、食料や日用品などの日常的な消費は抑制される一方、コロナ禍で控えられてきた旅行・レジャーなどの娯楽のような非日常的な消費や、それに付随する消費は比較的優先されるなど(とはいえコロナ禍前より低水準)、消費者の選択性が高まっている可能性がある。
次節では、これらの大分類で見えにくい変化の詳細を捉えるために、特にコロナ禍の影響を受けた個別費目(主に小分類)に注目しながら、足元までの状況を分析する。
1 消費税率引き上げによる反動減の影響が大きな2019年10月との対比であるため、各年10月はプラスを示しやすい。
(2024年09月19日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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