2024年05月16日

家計消費の動向(~2024年3月)-実質賃金マイナスで全体では低迷、外出型消費は改善傾向だが温度差も、マインドは上向き

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 実質賃金が低迷する中で個人消費は2024年3月の時点でもコロナ禍前の水準を依然として下回っている。総務省「家計調査」にて二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍で大幅に減った外出型消費(旅行やレジャー、外食、交通費、メイクアップ用品など)は、いずれも改善傾向を示す。ただし、5類引き下げ以降というよりも、2022年頃から改善傾向が続いているものが多い(「飲酒代」除く)。
     
  • 外出型消費はいずれも改善傾向にあるが温度差がある。「宿泊料」や「遊園地入場・乗物代」、「鉄道運賃」はコロナ禍前の水準を上回るが、海外旅行を含む「パック旅行費」や「映画・演劇等入場料」、「バス代」、「タクシー代」、外食、アパレルなどは下回る。これはコロナ禍による行動変容や中長期的な需要の変化や供給側の制約の問題に加えて、物価高で消費対象がより選択的になっている影響が指摘できる。
     
  • 一方、コロナ禍の巣ごもり生活で支出が増えた中食やデジタル娯楽については、前者は世帯構造の変化(共働きや単身など利便性を重視する世帯の増加)、後者はデジタル化の進展という中長期的な流れに沿う需要に基づくために堅調に推移していた。一方、内食(自炊)に関わる費目で減少傾向を示すものもあり(「生鮮肉」)、前述の通り、物価高の継続による消費者の選択意識の高まりの影響もうかがえた。
     
  • 実態で見れば個人消費は低迷しているが、消費者マインドは2024年3月にコロナ禍前の水準を超え、可処分所得が実際に増えれば個人消費は改善する可能性が高い。この春の春闘は昨年を超える高水準だったが、組織の規模が小さいほど賃上げ率は低い。従業員の約7割を占める中小企業の賃上げ率が大企業並みに改善され、それが持続的に実現されるような支援が政策として一層、求められるところだ。
     
  • また、年代別にマインドを見ると若いほど見通しは明るい。必ずしも消費額が多いわけではないが、将来の日本の消費市場を牽引するのは若い世代だ。労働力不足による人材獲得競争の中で若年雇用の待遇は改善されているものの、少子高齢化が進展する中で若者の将来の経済不安は強い。将来を担う世代が継続的に収入は増えていくという実感を持てるようになると、自ずと消費は動くのだろう。


■目次

1――はじめに
 ~コロナ禍後の家計消費、2024年2月でもコロナ前を下回って低迷が続く
2――二人以上世帯の消費支出の概観
 ~全体では低迷、食料や教養娯楽等が減少、保健医療等が増加
3――コロナ禍の影響を受けた主な費目の動き
 ~外出型消費は改善傾向だが多くはコロナ禍前を下回る
  1|コロナ禍で減少した支出
   ~外出型消費は改善傾向だが国内旅行以外はコロナ禍前を下回る
  2|コロナ禍で増加した支出
   ~コロナ禍をきっかけに出前需要が大幅伸長・定着、デジタル娯楽需要は堅調
4――おわりに
 ~実態は低迷だが消費マインドは上向き、中小の賃上げと若者の経済基盤安定化が鍵

(2024年05月16日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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