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求められる将来世代の経済基盤の安定化-非正規雇用が生む経済格差と家族形成格差

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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- 足元では賃上げ機運が高まり、新卒は売り手市場だが、1990年頃と比べて非正規雇用の若者が増え、25~34歳の男性の14.3%を占める(2022年)。雇用形態による年収格差は男性で顕著であり、40代後半では正規雇用者は非正規雇用者(平均約300万円)の2倍を超える。非正規雇用では大学卒でも中学卒や高校卒の正規雇用の平均年収を超えず、学歴より正規雇用であることの方が年収を高める効果が大きい。
- 雇用形態の違いは生涯賃金にも多大な差を及ぼす。働き方が多様な女性について見ると、大学卒で正規雇用の場合、2人の子どもを出産し育休や時短を活用して60歳まで就業継続すると生涯賃金は2億円を超えるが、出産時に退職しパートタイムで復帰すると約6,500万円、非正規雇用で出産等による休職なく働き続けると約1.2億円となり、住居や子どもの教育費など高額な出費を要する消費行動に多大な影響を与える。
- 正規雇用でも10年ほど前と比べて賃金が伸びにくくなっており、35~49歳で減少した累積所得は男性で約730万円と推計される。若い世代では世代間と世代内の経済格差に苦しんでおり、経済格差は家族形成格差にもつながる。経済的に自立ができずに中年期を迎えた就職氷河期世代では「年金パラサイト」も登場し、貧困高齢者予備軍とも言える。高齢期の貧困は近年、社会問題化している孤立死にもつながりやすい。
- 若者が結婚しない理由は経済的な問題だけではないが、経済的な問題で家族形成をあきらめる若者は政策等で救済されるべきあり、家事・育児の負担感の強さから躊躇する女性も同様だ。少子化が想定以上に進む中、将来を担う世代の経済基盤の安定化は急務であり、継続的な取り組みが必要だ。将来的に賃金が伸びていく、安心して働き続けられるという明るい見通しを持ててこそ、若者が家庭を持ちたいと考えるのではないか。
■目次
1――はじめに
~新卒は売り手市場で賃上げ機運も高まる中で将来を担う世代の現状は?
2――世代間と世代内の経済格差
~非正規増加、正規・非正規の賃金格差、正規の賃金カーブ平坦化
1|非正規雇用者の割合の推移
~家族形成期における非正規雇用者の増加
2|雇用形態による年収差
~正規・非正規の差は年齢とともに拡大、男性で顕著、学歴でも是正できず
3|雇用形態と女性の生涯賃金
~正規では2人出産・時短で2億円超、非正規では休職無しで1億円
4|正規雇用者の賃金カーブの変化
~30・40代で平坦化、10年前より男性で35~49歳の間に▲730万円
3――経済格差と家族形成格差
~男性の年収と既婚率は比例、就職氷河期世代の中年で増える親と同居
1|男性の年収と既婚率の関係
~年収既婚率はおおむね比例、年収300万円を超えると既婚者増加
2|親と同居の壮年未婚者の状況
~就職氷河期世代は既に中年に、増加する「パラサイト・シングル」
4――高齢者の貧困と孤立
~20年で生活保護世帯が倍増、氷河期世代の貧困は高齢期の孤立リスクにも
1|生活保護受給世帯の増加
~20年前の2倍、約半数は高齢者世帯、年金パラサイトは生活保護へ
2|高齢者の貧困と孤立
~近年、孤立死が社会問題化、団塊ジュニアの約15%が孤立リスクが高い層
5――おわりに
~将来を担う世代の経済基盤の安定化が急務、大胆な経済支援も必要
(2023年03月27日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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