2023年02月28日

大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 生涯賃金推計の前提として女性の就労状況を見ると、女性雇用者の過半数は非正規雇用者である。ただし、近年の「女性の活躍」推進で54歳以下では若いほど非正規雇用率は低下し、出産前後の就業継続率が上昇している。また、第1子出産前後(出生年が2015~2019年69.5%)と比べて第2子(同87.1%)や第3子(同89.5%)の就業継続率は大幅に高く、女性の就業継続の壁は第1子出産前後にある様子が見て取れる。
     
  • 大学卒女性の生涯賃金について雇用形態別に復職した場合や出産・子育てで離職をした場合など11のケースを設定して推計した。結果、女性が大学卒業後に直ちに就職し、同一企業等で正規雇用で休職することなく働き続け、60歳で退職した場合の生涯賃金は2億5,570万円(同様の男性では2億9,492万円)となる。
     
  • 一方、2人の子を出産し産育休を各1年間利用し、フルタイムで復職すると2億2,985万円、復職時に時短勤務を子が3歳まで(2億2,057万円)、小学校入学前まで(2億1,233万円)まで利用しても2億円を超える。一方、第1子出産後に退職し、第2子就学時にパートで再就職した場合は6,489万円(「103万円の壁」を意識した働き方では最大6,081万円)となる。なお、非正規雇用で休職無しで1億1,742万円、産育休を利用し復帰すると1億1,353万円となる。
     
  • 大企業勤務や65歳で退職、男性並の賃金水準の女性の場合なども推計したところ、60歳より65歳で退職した方が、退職年齢が同じなら大企業の方が、女性より男性労働者の賃金水準の方が生涯賃金は多くなる。結果、大企業勤務・65歳で退職・男性並の賃金水準の場合、2人出産後に産育休を利用しフルタイムで復職すると3億1,457万円となる。近年、少数ながら増加傾向にあるパワーカップルの妻はこの水準を超えるものと見られる。
     
  • 本稿は、単純に大学卒女性の生涯賃金に注目して推計したものであり、当然ながら「女性の活躍」は生涯賃金の多寡によるものではなく、本人の意思が尊重されるべきものだ。また、活躍の場は職場だけではなく、家庭や社会など多様にある。一方で、就業希望があっても就業できていない女性が存在することや、将来を担う世代が結婚や子を持つことを躊躇する大きな要因には経済不安があることも事実だ。経済面が全てを解決するわけではないが、経済的な理由で結婚や出産をあきらめる状況は救済されるべきだ。
     
  • 足元では物価高が進行する中で、政府はエネルギー価格や食料価格の抑制対策や賃上げ支援、低所得世帯への給付といった物価高対策を実施しており、負担感の大きな子育て世帯に向けた給付等を行う自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることは究極の家計支援策と言える。


■目次

1――はじめに
 ~「女性の活躍推進」が言われ始めて約10年、期待される女性の経済力
2――近年の女性の就労状況
 ~「女性の活躍」推進効果で非正規雇用率低下、出産後の就業継続率上昇
  1|雇用形態の状況
   ~「女性の活躍」推進効果で若いほど非正規雇用率低下、高年齢層の就業も活発化
  2|結婚・出産前後の就業継続状況
   ~就業継続率は上昇傾向、第1子出産後は69.5%、正規は83.4%
3――大学卒女性の生涯賃金の推計方法
  1|設定した女性の働き方ケース
  2|生涯賃金の推計条件
4――大学卒女性の生涯賃金の推計結果
 ~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、男性並みの賃金水準なら3億円超
  1|60歳で退職の場合
   ~正社員で2人出産・育休・時短利用で2億円超、パート再就職で約6千万円
  2|大企業勤務かつ65歳で退職の場合
   ~男性並みの賃金水準の女性は2人出産後に復職で3億円超
5――おわりに~安心して働き続けられる環境を整備し、将来世代の経済基盤の強化を
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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