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2025年11月05日

新たな局面に入るロシア制裁・ウクライナ支援

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  1. ロシアのウクライナ侵攻開始から3年8カ月。ここにきて、欧米によるロシアへのエネルギー制裁の強化、ウクライナ支援における欧州の比重の高まり(下記図表)、さらに凍結したロシアの資産の活用をめぐる議論の本格化など、新たな展開が見られる。
     
  2. EU理事会は、10月に「ロシア産天然ガスの輸入を段階的に廃止する規制案」 で合意、ロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入禁止を盛り込んだ対ロシア制裁を採択した。
     
  3. ロシアによる天然ガスの武器化はEUへの非対称的ショックとなり、ドイツは成長モデルの転換を迫られた。厳しい調整のプロセスを経て、EUのロシア産天然ガスへの依存度は低下している。28年からの禁輸によって、EUは、ようやくウクライナを支援する一方、ロシアにエネルギー輸入代金を支払い続け、継戦能力を支える矛盾を解消できる。
     
  4. 米国も第2期トランプ政権で初となるロシアへの金融制裁を発動した。今後、どのような形で運営されて行くのかは、ロシア以外にも影響を及ぼすだけに注視が必要である。
     
  5. ウクライナ支援では、欧州諸国の支援負担の増大と財政制約を背景に凍結したロシアの資産の活用を模索する動きが強まっている。運用収益の活用の制度化に続く補償ローンでの合意の行方は次回12月の首脳会議の焦点の1つだ。
     
  6. EU懐疑派政権の増加はEUのロシア制裁・ウクライナ支援継続のリスクである。中欧の政治の変化にも注目したい。

 
ウクライナ向け軍事、金融、人道支援の累計額(22年1月24日~25年8月31日)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月05日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
    ・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
    ・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
    ・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹

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