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求められる氷河期世代の救済-経済格差は家族形成格差、高齢期の貧困・孤立問題を生む
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
- 今年の「骨太の方針」では「就職氷河期世代の支援」に焦点が当てられている。現在の30代半ばから40代半ばの就職氷河期世代は世代間・のみならず同世代内の経済格差に苦しんでいる。経済格差は家族形成格差にもつながる。また、厳しい経済状況のまま中年期を迎えた就職氷河期世代は貧困高齢者予備軍となりつつある。
- アベノミクスによる企業業績の改善で採用活動が積極化した若い年代や、「高年齢者雇用安定法」の効果もある高齢者の雇用環境は改善している。しかし、就職氷河期世代を中心とした中間年齢層では、他世代ほど非正規雇用者率や失業率が改善しておらず、アベノミクスの恩恵を受けていない様子がうかがえる。
- 景気低迷期に就職活動期を迎えた就職氷河期世代では非正規雇用者率が高い。雇用形態による年収差は年齢とともにひらき、特に男性で顕著だ。また、学歴が必ずしも経済格差を是正するわけではない。就職氷河期世代では正規雇用者でも安泰というわけではなく、10年前と比べて30~40代で賃金カーブが平坦化している。
- 30歳前後の男性の年収と既婚率は比例する。各年代の既婚率の平均値は年収300万円付近に位置し、結婚には「300万円の壁」の存在がうかがえる。非正規雇用男性の平均年収は300万円に届きにくいため、経済格差は家族形成格差につながる。
- 親から経済的に独立できないまま中年期を迎える者が増えている。生活保護受給世帯は増加傾向にあり、うち半数が高齢世帯である。親の死亡等で親の年金をあてにできなくなった年金パラサイトは生活保護に直結しやすい。また、親が生活保護となれば、独立できずに同居する中年の子も同時に生活保護受給へ移行することになる。また、高齢期の貧困は、近年、社会問題化している孤立死にもつながる。
- 経済格差は家族形成格差に、中年期の貧困は高齢期の貧困に直結する。就職氷河期世代は既に中年期を迎えており、政策として負の連鎖を断ち切るべきだ。新卒採用の通年採用化や中途採用の拡大などが進めば、就職や家族形成時期の柔軟性が増すとともに、上手くいかない時期があっても再チャレンジ可能な社会ともなるだろう。世代によらず、将来に対して明るい見通しを持てるような労働環境の整備が求められる。
■目次
1――はじめに~今年の「骨太の方針」の焦点は就職氷河期世代
2――世代間と世代内の経済格差
~年齢とともに広がる正規・非正規の格差、正規でも賃金カーブ平坦化
1|非正規雇用者の割合の推移
~氷河期世代は他世代ほどアベノミクスの恩恵を受けておらず
2|世代別に見た非正規雇用者の割合~就職氷河期世代に見られる負の「世代効果」
3|雇用形態別による平均年収の違い
~年齢とともにひらく年収差、高学歴でも経済格差を是正できず
4|正規雇用者の賃金カーブの変化~家族形成期の30・40代で賃金カーブが平坦化
3――経済格差と家族形成格差
~不安定な雇用は未婚化や子どもの産み控え、年金パラサイトにつながる
1|男性の年収と既婚率の関係~不安定な雇用で「結婚の300万円の壁」
2|親と同居の壮年未婚者の増加
~経済的独立が難しいパラサイト・シングルの増加、年金パラサイトも
4――高齢者の貧困と孤立
~生活保護受給世帯の約半数は高齢単身者、貧困は孤立問題に直結
1|生活保護受給世帯の増加~特に高齢者が増加、9割は単身世帯
2|高齢者の貧困と孤立~団塊ジュニア世代の孤立予備軍は約100万人
5――おわりに
~就職氷河期世代の負の連鎖は個人の努力でなく、政策・社会で解消すべき
(2019年07月02日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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