2024年08月27日

改正ベトナム保険事業法(10)-設立と運営免許(その1)

保険研究部 取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――保険会社および再保険会社の設立に出資する者の条件(65条~68条)

有限責任会社の形態をとる保険会社に出資する社員は保険事業法64条に定める組織と条件を満たすほか、以下の条件を満たさなければならない(保険事業法65条)。

(1) 社員が外国法により設立された団体の場合の条件(同条1項)
a)保険会社、再保険会社、金融会社、外国保険会社であること。
b)免許申請時の直近3年間にわたって上記の会社等が本店を置く国の保険関連法の重大な違反がないことを外国保険当局に確認された者。
c)文意不明
d)設立と運営許可申請届出の直前の年度の総資産が20億ドル以上であること。
e)ベトナムに設立が予定される保険会社または再保険会社について、財務、技術、会社統治、リスク管理、会社運営の支援に注力することを約束し、保険会社または再保険会社が保険事業法に則って財務上の健全性とリスク管理の規制を確保すること。
f)上記、b)、c)、d)に定める要件を満たすa)に掲げる会社は、ベトナム国内において保険会社、再保険会社を設立する目的のための、オフショア投資業務を行う子会社を設立する権限を有する。保険会社の子会社であってオフショア投資業務を専ら行う会社は上記d)の要件を満たさなければならない。
―本項は外国資本が有限責任会社の形態をとるベトナム国内保険会社設立にあたって、設立者(=社員)の要件を定めるものである。ベトナム国内の保険会社設立のためのオフショア投資会社の設立まで規定しているところに特色がある。
保険業法では外資系資本による保険会社の設立にあたって、出資者について特別な要件を定めていない。なお、保険会社の主要株主(原則20%以上の保険会社の株式を保有)について、財産及び収支の状況に照らして、保険会社の業務の健全かつ適切な運営を損なうおそれがないことが要件とされている(保険業法271条の11第2号)。これは外資系、国内系にかかわらず適用される。

(2) 保険会社を設立しようとする、ベトナム法に基づいて設立された営利団体に対する要件としては、免許申請の前年度の総資産が2兆ドンであること(同条2項)
―これはベトナム系資本が保険会社等を設立する場合の要件である。

(3) 本条1項、2項に従い、政府が各期間に適した最低総資産を定める(同条3項)。
―1項、2項では法定の最低総資産を規定しているが、本項ではベトナム政府が最低総資産に免許付与時に必要となる総資産を上乗せすることができることとされている。
2|株式会社形態の保険会社および再保険会社の設立に出資する株主の条件(66条)
株式会社形態の保険会社または再保険会社の設立にあたっては保険事業法64条に定める一般的条件のほか、以下の条件を満たさなければならない(保険事業法66条)。

(1) 最低2名の株主が存在し、それぞれの株主(団体株主に限る)は以下の要件を満たさなければならない(同条1項)。
a)保険会社または再保険会社の定款資本の10%以上を出資すること(団体株主に限る)。
b)保険事業法65条の規定を遵守すること。

(2) 個人株主は10%を超えて出資してはならない(同条2項)。
―この条文に該当する保険業法上の規定はない。
3|ベトナムにおいて外国保険事業者が支店を設立・運営するための条件(67条)
本条はベトナム以外で立された保険事業者がベトナム国内に保険会社を設立するのではなく、支店を設置することで保険業を営む際の条件を定めている(保険事業法67条)。内容は以下の通りである。

(1) 外国損害保険業者、外国再保険業者がベトナムに支店を設ける場合には以下の条件を満たさなければならない(同条1項)。
a)ベトナムと外国保険業者等が存在する国との間でベトナム支店設置の合意、およびベトナム財務省が外国保険業者等のベトナム支店を管理監督することの合意を含んだ国際的協定に基づいていること。
b)外国保険業者等が本店の存在する国の保険監督当局からベトナムで一定範囲の業務を行うことの許可を受けたこと。
c)ベトナムで免許を与えられる保険分野で最低でも7年の事業経験があること。
d)保険事業法65条に定める最低総資産を有すること。
e)外国損害保険事業者等が免許申請前、直近3年度連続で利益を出しており、ベトナム政府の定める財務条件を満たすこと。
―保険業法でも外国で設立された保険会社(法律上、外国保険事業者という)が免許を受けて日本に支店を設けて営業することが認められている(185条1項)。この免許を受けた外国保険業者を法律上、外国保険会社等と呼ぶ(2条7項)。支店の免許申請には、本国で保険業の開始と法人の設立が適法に行われ、かつ日本で行おうとする保険事業を適法に行っているとする公的な証明書を提出することとされている。そのほかは、基本的に保険会社の保険業の免許取得と変わらない手続が必要となる(187条)。ベトナムでは支店設置にあたっては、事前に外国保険業者の設立国との間の協定等が必要であることや、外国生命保険業者がベトナムに支店を出すことは認められていない点に特徴がある。

(2) 外国損害保険会社、外国再保険会社の支店は以下の要件を満たさなければならない(同条2項)。
a)政府の要求する最低資本をベトナムドンで保有すること。
b)支店を設置する財源が法的に認められたものであって、借入金や投資信託金であってはならないこと。
c)支店の支配人、保険計理人が保険事業法81条に定める管理能力、経験、専門家の知見についての水準を満たすこと。
―保険業法では保険会社と同様の監督規定が適用されるが、特徴的な規制としては、①一定額(最低2億円)の供託(190条1項)、②日本における代表者の選任(187条2項)、③資産の国内保有義務(197条)がある。本店が国内に存在しないために、自国内(日本・ベトナム)で保険契約者の資産を確保するための工夫がなされている。

(3) 免許を受けたベトナム支店はベトナムの保険会社と同様に運営することが認められる。
―日本の保険業法においては明文で定められていないが、同様の結論となる。
4|外国投資家による出資割合(68条)
外国投資家は保険会社または再保険会社の定款資本の100%を所有することができる。
―保険業法には特段の規定がなく、ベトナムと同様に外資100%保有の保険子会社が認められる。

5――おわりに

5――おわりに

今回は保険会社の設立、支店の設立にかかわる規定をざっと見てきた。規定の細部の相違はあるが、規定の背景にある考え方は日本・ベトナムでそうは変わらないようだ。

ただし、たとえば支店として展開できるのは損害保険会社に限定され、かつ国家間の規定を要するなど厳格な規律が適用されている。欧州や日本でもそうだが、国際的な取引(国際海上保険など)が数多く行われる損害保険会社を除けば、監督の考え方として、支店ではなく、現地法人を設立する方向へ向かっている。これは、たとえば海外の親会社の経営が悪化した際に、自国内の支店に対してどのように対処すべきか、結構難しい問題が生ずることなどがあるからである。

次回は設立と運営免許(その2)を述べる。

(2024年08月27日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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