2024年08月13日

文字サイズ

3-2.オフィスビルの新規供給見通し
日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2023年1月時点)」によれば、札幌市は、新耐震基準以前(1981 年以前)に竣工したオフィスビルの割合が35%と、京都市(35%)や福岡市(34%)と並んで高い水準にある。札幌市では、札幌オリンピック(1972年)の時期に竣工したビルが多く、築年数が経過したビルの割合が高水準となっている。

こうした状況を踏まえ、札幌市は、都心部を対象地域とした「都心における開発誘導方針17」等を策定し、容積緩和やビルの建て替えに関する補助制度を策定した。また、将来的には、北海道新幹線の全線開通(札幌駅までの延伸)が予定されていることから、札幌中心部では大規模な再開発が複数計画されている。以下では、「札幌駅周辺」と「大通駅周辺」のオフィス開発計画を概観する。
 
17 開発を誘導する期間は2032年度まで。
(1)「札幌駅周辺」のオフィス開発計画
「札幌駅周辺」では、2023年5月に、「北3西4街区」で13階建て(延床面積約1.6万m2)の複合ビル「D-LIFEPLACE 札幌」が竣工した(図表-21 ①)。また、清水建設は「北6西1街区」で「The Link Sapporo」(延床面積約1.8万m2・地上13階建て)を開発し、2023年8月に竣工した(図表-21 ②)。翌2024 年は、サッポロ不動産開発が、「北4東4街区」で「創成クロス」(延床面積約1.4万m2・地上8 階建て)を開発し、2024 年5月に竣工、8月に開業した18(図表-21 ③)。

今後も、「札幌駅周辺」では大規模開発が相次ぐ。ヒューリックは、「ヒューリック札幌 NORTH33 ビル」と「ヒューリック札幌ビル」をI期工事・II期工事として段階的に建て替えを行い、大型複合施設「ヒューリックスクエア札幌」を開発中である。I期工事は、2022 年8月に完了し、地上11階建てのオフィスビル(延床面積約1.1万m2)が開業した。II期工事では、ホテル等が入る複合ビル(20階建て・延床面積約3.3万m2(施設全体))が2025年6月に竣工予定である19(図表-21 ④)。

また、NTT都市開発は、「北1西5街区」の北海道放送(HBC)本社跡地で、高級ホテルや商業施設などが入る26階建ての複合高層ビルを建設中で、2026年6月に竣工予定である20(図表-21 ⑤)。「西武百貨店札幌店」の跡地を含む「北4西3街区」では、ヨドバシホールディングスや平和不動産を中心に、32階建ての大型複合ビル(延床面積約20万m2・高さ165m)を建設する計画で、2028年度の完成予定である21(図表-21 ⑥)。

また、JR札幌駅の東側に隣接する「北5西1・西2地区」では、札幌市所有の「西1地区」とJR北海道グループが所有する商業施設「エスタ」の「西2地区」を一体開発する計画が進んでおり、遅くとも2030年度に完成させる目標としている。当初の計画では北海道で最も高い地上43建てで高さ245メートルとする規模であったが、縮小する方向で検討しており、2024年度中に方針を決定するとしている22(図表-21 ⑦)。
図表-21 「札幌駅周辺」におけるオフィス開発計画
 
18 サッポロ不動産開発株式会社「~創成イーストエリアに新たなビジネスの拠点として誕生~オフィス・商業ビル「創成クロス」2024年8月1日開業(2024年7月29日)
19 北海道新聞 「札幌駅近のビル、地上20階建てに 東京のヒューリック建て替えへ」(2021年4月7日)
20 NTT都市開発株式会社 「「(仮称)札幌北1西5計画」の竣工時期延期について」(2023年3月16日)
21 北海道新聞 「札幌西武跡地、地上32階地下7階に 再開発組合設立 28年完成目指す」(2024年1月29日)
22 北海道新聞 「札幌駅再開発 工期変えず*JR*道新幹線延伸延期でも」(2024年5月16日)
(2)「大通駅周辺」のオフィス開発計画
「大通駅周辺」では、桂和商事が、大通西3丁目に「桂和大通ビル51」(延床面積約1.0万m2・地上14階建て)を開発し、2023年11月に竣工した。(図表-22 ①)。また、北陸銀行と北海道銀行が、大通西2丁目の北陸銀行札幌支店跡地に、「ほくほく札幌ビル」(延床面積約1.7 万m2・地上13 階建て)を開発し、2024 年2月に竣工した23(図表-22 ②)。

2025年以降も、再開発計画が複数予定されている。鹿島建設は、「南1西4街区」の「4丁目プラザ」跡地に、地上13 階建てのオフィス・商業複合ビル(延床面積約1.9万m2)を開発し、2025 年1月に竣工予定である24(図表-22 ③)。

また、札幌駅前通と大通が交差する「大通西4南地区」では、平和不動産が「道銀ビルディング」と道銀ビル西側に隣接する「新大通ビルディング」を一体開発し、高級ホテルやオフィスを併設した複合ビル(地上36階建て・延床面積約10万m2・高さ185m)を建設し、2028年度の開業を予定している25(図表-22 ④)。

2028年度は、「札幌駅周辺」の「北4西3街区」(延床面積約20万m2)と「大通駅周辺」の「大通西4南地区」(延床面積約10.0万m2)の竣工が重なる予定であり、需給環境の悪化が懸念される。
図表-22 「大通駅周辺」におけるオフィス開発計画
 
23 株式会社 ほくほくフィナンシャルグループ「「ほくほく札幌ビル」の竣工について~ほくほくフィナンシャルグループの新たな拠点が誕生しました~」(2024年2月26日)
24 鹿島建設「札幌大通地区のオフィス・商業複合ビル「(仮称)札幌4丁目プロジェクト新築計画」に本格着工」(2023年6月19日)
25 北海道建設新聞 「平和不動産が大通西4南再開発で組合設立認可申請/24年度内に発足」(2024年6月24日)
(3)札幌市の新規供給予定面積
2023年は、札幌市内において、「The Link Sapporo」や「D-LIFEPLACE札幌」等、複数の大規模ビルが竣工し、新規供給は17年ぶりに1万坪を超えて、10,600坪に達した。その後も、複数の大規模ビルが竣工予定で、2024 年から2026年にかけて、年間約1万坪の新規供給が予定されている(図表-23)。総ストック量に対する今後3年間(2024 年~2026 年)の供給割合は4.6%となり、主要地方都市の中で福岡市(7.5%)に次いで高い水準となる見込みである。
図表-23 札幌オフィスビル新規供給見通し
3-3.賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2028年までの札幌のオフィス賃料を予測した。

北海道全体の就業者は4年ぶりに増加したが、札幌市の生産年齢人口は今後も減少が続く見通しである。また、人手不足感が強い一方、コロナ禍からの企業活動の回復は鈍い傾向にある。以上のことを鑑みると、札幌市のオフィスワーカー数の拡大は今後、力強さに欠くことが予想される。

また、札幌市のオフィス需要を支えてきたコールセンターは、札幌市の新設・増設補助制度が2023年9月末で終了した。また、コロナ禍を経て、コールセンターのビジネスモデルは大きく転換する可能性がある。「テレワーク」が進むIT関連企業では、ワークプレイスの見直しが順次拡がることも考えられ、コールセンターやIT関連企業による新規需要が頭打ちするリスクに留意が必要である。

一方、札幌駅周辺を中心に高層オフィスビルの開発が複数計画されており、2024 年から2026年にかけて、年間約1万坪の新規供給が予定されている。以上を鑑みると、札幌の空室率は上昇傾向で推移すると予想する。

札幌市の成約賃料は、ファンドバブル期のピーク水準(2007年)を大きく上回り、高値圏にある。今後は新規供給の増加に伴う需給緩和の影響を受けて、下落に転じる見通しである。2023 年の賃料を100 とした場合、2024年は「98」、2028年は「86」への下落を予想する(図表-24)。ただし、2023年対比で▲14%下落するものの、2021年の賃料と同水準を維持し、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-24 札幌のオフィス賃料見通し
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年08月13日「不動産投資レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2024年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2024年)のレポート Topへ