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- 推し活がはらむ「負」の側面-推しは推せる範囲で推せ
2024年08月07日
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※ 本レポートは2024年6月17日発行の基礎研レポート「推し活とお金の話-癒し、マウンティング、投げ銭、ホスト、金融商品・・・」を要約したものです。
1―推し活にはお金がかかる!!
オタ活・推し活にはお金がかかる。「推しに対して消費すること」が自身を満たすことに繋がるが故に、自身の推しに対する依存性高まるほど「消費すること」そのものに熱心になっていく。また、働くこと・勉強すること(延いては生活すること)に対するプライオリティやモチベーションが低下している生活者にとっては、自分自身の優先度が高くなり、「自分の好きなことをしている時間」と「したくない労働をしている時間」との、二極化が進み、推し活を始めとした自身を満たす消費が、やりたくない事をやるためのモチベーションとなっている。
さらに、コミュニティの存在が消費に拍車をかけている。推し活をしていく上で、コミュニティ(他のオタクとの交流)に身を置くことは避けられない。情報収集をする上では、SNSを利用する必要があるからである。ライブには定員があり、グッズや握手券などの有形物も需要が供給を上回ることが多く、日用品のようにすべての消費者の手に渡るほど供給がされない。そのため、ファンはその限られたパイをコミュニティの中で他のファンと奪い合うことが普通である。
オタクにとって他のオタクは情報源であり、時には帰属欲求や共感欲求を満たす同志としての側面を有しているが、自身の消費機会を守る上でも、また、自身のコンテンツ愛を示す上でも競い合いを避けては通れない存在である。
さらに、コミュニティの存在が消費に拍車をかけている。推し活をしていく上で、コミュニティ(他のオタクとの交流)に身を置くことは避けられない。情報収集をする上では、SNSを利用する必要があるからである。ライブには定員があり、グッズや握手券などの有形物も需要が供給を上回ることが多く、日用品のようにすべての消費者の手に渡るほど供給がされない。そのため、ファンはその限られたパイをコミュニティの中で他のファンと奪い合うことが普通である。
オタクにとって他のオタクは情報源であり、時には帰属欲求や共感欲求を満たす同志としての側面を有しているが、自身の消費機会を守る上でも、また、自身のコンテンツ愛を示す上でも競い合いを避けては通れない存在である。
2―他のファンと競い合う故に
例えばスパチャを始めとした投げ銭は、その殆どがオープンなプラットフォームであるが故に、他のオタクと同じ場に参加する必要があり、他のオタクのコメントや投げ銭動向を見ざるを得ない状況にある。そのため、自身の推し活と他人の推し活を比較せざるを得ない機会も無数に存在することになる。オタクの中には、推しを本気で恋愛対象として見てしまっている者もいる。本気の恋愛対象であるが故に自分が1番のファンでなくてはいけない、自分が1番に推しを支えなくてはいけないという、義務感に駆られることになり、他のオタクの消費動向も可視化されてしまう投げ銭というシステムは自身の価値を推しに見出してもらおうとする手段として強い依存性がある。
推しから認知されたい、推しにいい顔をしたい、他のファンと競いたいと、推し活の目的が推し活をフックにした承認欲求の充足や、1番のファンとして推しを支えなくてはならないといった幻想を抱いてしまう事が、課金金額を増額させるトリガーとなってしまうのである。
推しから認知されたい、推しにいい顔をしたい、他のファンと競いたいと、推し活の目的が推し活をフックにした承認欲求の充足や、1番のファンとして推しを支えなくてはならないといった幻想を抱いてしまう事が、課金金額を増額させるトリガーとなってしまうのである。
3―ホストのアイドル化
これは、従来の疑似恋愛ビジネスの様相を持つホスト遊びの様に自身が指名しているホストをNo.1にしたいが故に大金を支出する顧客と、その支えを受けるホストとの共依存の関係に似ているのかもしれない。ホストへの消費も他の客の存在が消費に拍車をかけている。最近では、ホストのデコレーショントラックが繁華街を走っていたり、ホスト自身がSNSを活用しファンを獲得しているなど、ホストのアイドル化やインフルエンサー化が起きている。従来ならば、ホストクラブは興味がある人しか入店しないし、そのような繁華街に足を運ばない限りホストという文化そのものに触れることはなかった。ある意味その施設に「興味を持っている人」と「そうでない人」とでゾーニングできていたわけである。しかし、現在では、お店に行かないと消費者が接点を持つことができなかった「水商売」というクローズドな世界がTikTokやその他SNSが新たな接点となり、ホストの敷居を大きく下げている。
ホストクラブは接客業としてのパフォーマンスを有閑階級の女性が買う、大人の社交場として閉じられている空間であったが、昨今ではホストクラブがカジュアル化したことにより、推し活のように推しキャストを見出して、その人に貢ぐためにお金を稼いで応援する若者も増えていると言われている。疑似恋愛を楽しむ者もいれば、そのキャストを店でナンバー1にするといったように、自分の推しのホストを輝かせることに躍起になる客も多く、ある意味「ファンとアイドル」の関係のような推し活に類する目的でホストクラブに通うものもいる。
一方で、若年層の客が増えたことで支払い能力に関する問題が表面化しているのも事実だ。ホストクラブには女性客が飲食代を「ツケ払い」にする「売り掛け」というシステムが存在する。本来「ツケ払い」は店側に対して女性が負う「借金」を指すが、ホストクラブの「売掛金」の仕組みにおいては、女性に代わってホストがその借金を肩代わりする形となっている。店側からすれば入る収益は変わらないため、店側は女性の支払い能力を超えてでも利益を上げようとし、それを回収できるかどうかはホストと客の問題となるわけだ。また、営業での支払いに留まらず、個人的な金銭のやりとりや経済的支援が生まれるなど、依存性が増すことで見えない支出も増えていく。その資金を工面するために、闇バイトや風俗店で働く者も多く、中にはそれを前提に営業している悪質なホストクラブも存在するようだ。ホストが女性に直接仕事を斡旋すると、罪に問われるためスカウトグループに依頼し、返済能力のない客にそのような仕事をさせ、その女性が働けば働くほど、見返りとしてそのスカウトに報酬が与えられるというシステムだ。ある意味そのスカウトにとってはその女性客を働かせれば、働かせるだけ利益を得ることができるため、ホストクラブに通わせて、さらなる売掛金を作らせ、その業界から抜け出せないようにしていくようだ。人によっては薬物を使用させながら女性に働かせ続けることもあるようだ。
ホストに限らず、水商売や性産業、パパ活や売春などをテーマにした漫画やドラマがヒットしたことや、SNSでそのような業界を華美に取り扱った情報を投稿する者もいる。また、水商売や性産業などで実際に働く者による、高額な給与が稼げる事や自身の煌びやかな生活がSNSに投稿されることも多く、そのような際立った光の部分が若年層の眼に触れる事や、若者に影響力のあるファッションショーに水商売や性産業で働く女性が参加したり、ある種のインフルエンサーとして若者の向けのコンテンツに登場することも多く、情報を取得する側が意識しない限り、成人向けコンテンツとのゾーニングは不可能に近い。言い換えれば高校生、中学生、延いては小学生でさえ、SNSやYouTubeを開けば、常にそのようなコンテンツとの接点が生まれる可能性(リスク)があるわけである。
ホストクラブは接客業としてのパフォーマンスを有閑階級の女性が買う、大人の社交場として閉じられている空間であったが、昨今ではホストクラブがカジュアル化したことにより、推し活のように推しキャストを見出して、その人に貢ぐためにお金を稼いで応援する若者も増えていると言われている。疑似恋愛を楽しむ者もいれば、そのキャストを店でナンバー1にするといったように、自分の推しのホストを輝かせることに躍起になる客も多く、ある意味「ファンとアイドル」の関係のような推し活に類する目的でホストクラブに通うものもいる。
一方で、若年層の客が増えたことで支払い能力に関する問題が表面化しているのも事実だ。ホストクラブには女性客が飲食代を「ツケ払い」にする「売り掛け」というシステムが存在する。本来「ツケ払い」は店側に対して女性が負う「借金」を指すが、ホストクラブの「売掛金」の仕組みにおいては、女性に代わってホストがその借金を肩代わりする形となっている。店側からすれば入る収益は変わらないため、店側は女性の支払い能力を超えてでも利益を上げようとし、それを回収できるかどうかはホストと客の問題となるわけだ。また、営業での支払いに留まらず、個人的な金銭のやりとりや経済的支援が生まれるなど、依存性が増すことで見えない支出も増えていく。その資金を工面するために、闇バイトや風俗店で働く者も多く、中にはそれを前提に営業している悪質なホストクラブも存在するようだ。ホストが女性に直接仕事を斡旋すると、罪に問われるためスカウトグループに依頼し、返済能力のない客にそのような仕事をさせ、その女性が働けば働くほど、見返りとしてそのスカウトに報酬が与えられるというシステムだ。ある意味そのスカウトにとってはその女性客を働かせれば、働かせるだけ利益を得ることができるため、ホストクラブに通わせて、さらなる売掛金を作らせ、その業界から抜け出せないようにしていくようだ。人によっては薬物を使用させながら女性に働かせ続けることもあるようだ。
ホストに限らず、水商売や性産業、パパ活や売春などをテーマにした漫画やドラマがヒットしたことや、SNSでそのような業界を華美に取り扱った情報を投稿する者もいる。また、水商売や性産業などで実際に働く者による、高額な給与が稼げる事や自身の煌びやかな生活がSNSに投稿されることも多く、そのような際立った光の部分が若年層の眼に触れる事や、若者に影響力のあるファッションショーに水商売や性産業で働く女性が参加したり、ある種のインフルエンサーとして若者の向けのコンテンツに登場することも多く、情報を取得する側が意識しない限り、成人向けコンテンツとのゾーニングは不可能に近い。言い換えれば高校生、中学生、延いては小学生でさえ、SNSやYouTubeを開けば、常にそのようなコンテンツとの接点が生まれる可能性(リスク)があるわけである。
4―未成年においては
ホストクラブに通えない未成年においても、このような推し活によるトラブルは他人事ではない。ホストと同じように依存性を見出し、高額な金額を貢いでしまう「メン地下」が大きな問題になっている。「メン地下」とは、メンズ地下アイドルの略で、大手芸能事務所に所属せず、小さな会場でライブを繰り返す男性アイドル指す。メン地下に限らずカフェの店員など、ホスト同様に容姿のいい男性とコミュニケーションをとることを目的としたサービス業が盛り上がりを見せており、それを支えているのは、女子中高生などのティーンエイジャーが中心であるという。メン地下はメジャーなアイドルに比べ、物理的に非常に距離が近いことから、精神的に未熟な世代が夢中になりやすい。そのビジネスモデルは「推し」と二人きりで写真撮影ができる「チェキ券」の販売や、ライブへの来場やグッズ購入に基づいて付与されるポイントを餌にお金を使わせるというモノである。このポイントは有効期限が「1か月」と短いケースもあり、早くポイントを入手して目的の特典に交換しないとそのポイントが無駄になってしまうらしい。
このような背景から、家庭内から多額の金品を持ち出したり、パパ活や売春を行ったりするケースも多く、警視庁には、2020年頃からメン地下に関する相談が寄せられるようになり、2022年中には相談件数が、前年の約3倍に急増し、中でも、16~17歳が多かったという。警視庁が検挙した違法な性風俗店やJKビジネス店で働いていた女子高校生の中には、その稼働理由として、メン地下の応援のためという少女が複数いたなど、メン地下をきっかけに未成年者が無理な資金調達にもがいているのである。
このような背景から、家庭内から多額の金品を持ち出したり、パパ活や売春を行ったりするケースも多く、警視庁には、2020年頃からメン地下に関する相談が寄せられるようになり、2022年中には相談件数が、前年の約3倍に急増し、中でも、16~17歳が多かったという。警視庁が検挙した違法な性風俗店やJKビジネス店で働いていた女子高校生の中には、その稼働理由として、メン地下の応援のためという少女が複数いたなど、メン地下をきっかけに未成年者が無理な資金調達にもがいているのである。
5―「推しは推せる範囲で推せ」
推し活は生活に潤いを与える側面がある一方で、好きなことに対する消費に歯止めが利かなくなってしまうからこそ、推し活やオタ活を理由にパパ活や闇バイトといったお金にまつわる問題も生まれている。よく、推し活を控えさせるにはどうすればいいか、なんでお金もないのにオタ活なんてするのか、推し活を辞めさせるのはどうすればいいか、といった質問をうけるが、それを差し止めようとするのは難しいだろう。確かに公序良俗に反したり、家族や友人のお金に手をつけるなど犯罪に近い行動を伴う場合は、法的に強制的に対処することができるかもしれないが、オタ活は、基本的には趣味の延長線上にあるものであり、自己責任で完結すべきものだからである。
「推しは推せるときに推せ」という気持ちは痛いほどよくわかるが「推しは推せる範囲で推せ」という言葉や、「推しは自分のために推せ」という意識を念頭において無理のない推し活を勧めたいし、自戒にしたいと思う。
「推しは推せるときに推せ」という気持ちは痛いほどよくわかるが「推しは推せる範囲で推せ」という言葉や、「推しは自分のために推せ」という意識を念頭において無理のない推し活を勧めたいし、自戒にしたいと思う。
(2024年08月07日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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