2024年07月16日

IPCC第7次評価サイクルの注目点-PM2.5や対流圏オゾンが引き起こす気候変動に注目が集まる!?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

気候変動問題への注目度が高まりつつある。現在、国内外のさまざまな研究機関、組織で気候変動の影響調査や対応策の検討が進められている。特に、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)は30年以上にわたり、この問題に関する国際的な議論をリードしてきた。

IPCCは、これまで数年ごとに、議論の内容を評価報告書の形に取りまとめて公表してきた。2023年3月には第6次評価報告書の統合報告書が公表され、これをもって第6次評価サイクルが終了した。

2023年7月にナイロビ(ケニア)で行われた第59回総会では、第7次評価報告書の作成に向けた議長団のメンバー選出が行われ、第7次評価サイクルがスタートした。

本稿では、第7次評価サイクルでの注目点について見ていくこととしたい。

2――IPCCとこれまでの報告書公表

2――IPCCとこれまでの報告書公表

まず、第7次評価サイクルでの注目点に入る前に、IPCCとこれまでの報告書公表について、簡単に振り返っておこう。
1|IPCCは気候変動に関する科学的知見の評価を提供する
IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立された政府間組織だ。2024年7月現在、195の国と地域が参加している。IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることとされている。世界中の科学者の協力を得て、出版された文献や科学誌に掲載された論文等に基づいて、定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供している。2007年には、気候変動問題に関する活動を受賞理由として、ノーベル平和賞を受賞している1
 
1 地球温暖化への警鐘を鳴らしたことなどの功績により、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏とともに受賞。
2|IPCCには3つの作業部会がある
IPCCには、3つの作業部会と1つのインベントリータスクフォースが置かれている。第1作業部会(WG1)は、気候システムと気候変動の自然科学的根拠についての評価。第2作業部会(WG2)は、気候変動に対する社会経済と自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、気候変動への適応のオプションについての評価。第3作業部会(WG3)は、温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価を、それぞれ行う。

また、インベントリータスクフォース(TFI)は、温室効果ガスの国別排出目録(インベントリー)作成手法の策定や普及などの役割を担っている。2

日本では主に、WG1は気象庁(国土交通省)、WG2は環境省、WG3は経済産業省が担当している3
 
2 「IPCCとは」(気象庁HP)より。https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html
3 TFIは、環境省と経済産業省が担当している。
3|IPCCは数年ごとに報告書を公表してきた
IPCCは、これまで5~7年ごとに評価報告書、統合報告書を公表してきた。第1次評価報告書は1990年に公表されたが、1992年に内容の増補が行われている。第2次評価報告書では、1997年の京都議定書採択に先駆けて、その裏付けとなる資料を提供した。第5次評価報告書では、2015年のパリ協定採択に向けて科学的情報を提供した。そして、第6次評価報告書では、産業革命前に比べて世界平均気温の上昇を1.5度に抑えるために必要となる、温室効果ガスの排出量削減を明示した。

また、これらとは別に、IPCCはタイムリーに特別報告書の公表も行ってきた。第6次評価サイクルでは、2018年に「1.5℃特別報告書」、2019年に「土地関係特別報告書」、「海洋・雪氷圏特別報告書」、「温室効果ガスインベントリに関する『2019年方法論報告書』」が公表されている。
図表1. IPCCの評価報告書、統合報告書

3――第7次評価サイクル

3――第7次評価サイクル

本章では、第7次評価サイクルの体制やスケジュールについて見ていこう。
1|体制 : 日本はTFIの議長国となっている
2023年7月の第59回総会では、第7次評価報告書の作成に向けた議長団のメンバーが選出された。IPCCは、英国の議長4と、タンザニア、キューバ、ハンガリーの副議長のもとで、各作業部会やタスクフォースごとに議長や副議長が決定されている。

自然科学的根拠のWG1は、フランスと中国の議長のもと7ヵ国から副議長。影響、適応、脆弱性のWG2は、オランダとシンガポールの議長のもと8ヵ国から副議長。気候変動の緩和のWG3は、米国とマレーシアの議長のもと7ヵ国から副議長国が選ばれている。また、TFIは、日本とパキスタンの共同議長5のもと、12カ国からメンバーが選出されている。

今後、各WGとTFIで、報告書の章立ての検討を行うとともに、執筆者等の選定が行われる予定となっている。
 
4 インペリアル・カレッジ・ロンドンの持続可能エネルギー教授のJim Skea氏
5 日本からの議長は、公益財団法人 地球環境戦略研究機関フェローの榎剛史氏
2|スケジュール : 2029年後半までに統合報告書が提出される予定
2024年1月にイスタンブール(トルコ)で開催された第60回総会では、第7次評価サイクルのスケジュールが議論された。その結果、2027年までに「気候変動と都市に関する特別報告書」、「短寿命気候強制力に関する方法論報告書」(短寿命気候強制力については後述)を作成することが決められた。また、二酸化炭素除去・炭素回収利用及び貯留技術(CDR/CCS/CCUS)に関する専門家会合を開催し、これらに関する方法論報告書を提出することとされた。その上で、WG1、WG2、WG3がそれぞれ評価報告書を提出し、2029年後半までに統合報告書が提出される予定とされた。

2024年7月下旬~8月上旬にかけてソフィア(ブルガリア)で開催予定の第61回総会では、「気候変動と都市に関する特別報告書」と「短寿命気候強制力に関する方法論報告書」のアウトラインなどが検討される予定となっている。
3|SLCFへの注目が高まっている
ここで、注目されるのは、短寿命気候強制力因子(Short-lived Climate Forcer, SLCF)について方法論報告書を作成するという点だ。すでに、TFIは第6次評価期間中に、このことを決めている。SLCFは、人間活動により排出される対流圏オゾンや、PM2.5などのエアロゾル、ブラックカーボン(すす)といった比較的寿命の短い大気汚染物質を指す。その一部は、これまでも公害の原因として監視されてきたが、近年は気候変動に影響をもたらす因子として注目が高まってきている。例えば、大気汚染物質である二酸化硫黄(SO2)には、太陽光を反射して地球を冷却する働きがある。工場などに集塵機等を設置してSO2の排出を削減すると、地球温暖化が進んでしまうジレンマに陥るといわれる。

4――第7次評価サイクルに関する加盟国の見解

4――第7次評価サイクルに関する加盟国の見解

第60回総会では各加盟国の見解について調査が行われ、その結果が公表されている。その内容から、各国がどのテーマに注目しているかがわかる。本章では、調査結果を概観してみよう。
1|TFIの追加の報告書:炭素除去回収・貯留技術に関するものが多数を占めた
全加盟国195ヵ国の34%に相当する66ヵ国(うち先進国27ヵ国、途上国・移行経済国39ヵ国)から調査に対する回答があった。

今回の調査では、まずTFIの追加の報告書の要否と、必要な場合のテーマについて質問が行われた。調査の結果、半数の国がTFIからの追加の報告書を支持し、残りの半数の国は追加の必要性はないとの見解を示した。追加するテーマについては、次の表のようになった。炭素除去回収・貯留技術に関するトピックが最も高い支持を得た。
図表2. TFIの報告書の追加テーマ
2|専門家会議やワークショップの提案トピック:炭素除去技術に関するものが多数を占めた
専門家会議やワークショップで提案されたトピックについては、次の表のとおりとなった。ここでも、炭素除去技術に関するものが多数を占めた。
図表3. 専門家会議等の提案トピック

(2024年07月16日「基礎研レター」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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