2024年07月01日

宿泊旅行統計調査2024年5月~インバウンドは好調を維持する一方、日本人延べ宿泊者数は弱い動き~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.延べ宿泊者数は3ヵ月連続で伸び鈍化

観光庁が6月28日に発表した宿泊旅行統計調査によると、2024年5月の延べ宿泊者数は5,176万人泊(4月:5,190万人泊)、前年同月比は0.8%(4月:同10.1%)となった。2019年比は0.7%(4月:同2.3%)と3ヵ月連続で伸びが鈍化した。

2024年5月の日本人延べ宿泊者数は3,946万人泊(4月:3,739万人泊)、前年同月比は▲6.8%(4月:0.3%)と2ヵ月ぶりにマイナスとなった。2019年同月比は▲5.3%(4月:同▲5.2%)と2ヵ月連続でコロナ禍前の水準を下回った。日本人延べ宿泊者数は物価高の悪影響を受けて停滞している。2024年5月の外国人延べ宿泊者数は1,230万人泊(4月:1,450万人泊)、2019年同月比は26.5%(4月:同28.5%)となった。

日本人延べ宿泊者数が停滞する一方、外国人延べ宿泊者数が2019年比二桁の高い伸びを続けていることで、延べ宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回っている。
延べ宿泊者数の推移/日本人延べ宿泊者数の推移(前年比)
客室稼働率の推移 2024年5月の客室稼働率は全体で58.8%(4月:同59.8%)、2019年同月差▲4.4%(4月:同▲5.2%)と、コロナ禍前の水準を下回っているが、前年同月差は2.7%(7月:同4.8%)とプラスで推移している。宿泊施設タイプ別客室稼働率は、旅館は35.6%、2019年同月差▲5.9%(4月:同▲5.3%)、リゾートホテルは57.6%、2019年同月差▲2.0%(4月:同▲8.5%)、ビジネスホテルは75.2%、2019年同月差▲0.6%(4月:同▲5.2%)、シティホテルは73.7%、2019年同月差▲6.2%(4月:同▲8.7%)、簡易宿所は27.5%、2019年同月差▲6.0%(4月:同▲7.3%)であった。2019年同月差は全てのタイプの宿泊施設でマイナス圏での推移が続いている。

2.日本人の宿泊旅行は弱い動き

北陸応援割の概要 都道府県別の延べ宿泊者数の実績は速報より1ヵ月遅れて公表される。能登半島地震の震源地である石川県では、4月の延べ宿泊者数が2019年比38.3%1(前年比57.1%)と大幅に増加している。また客室稼働率も4月は、東京都の79.5%、大阪府の79.0%に次いで74.7%と3番目に高く、ビジネスホテルは86.0%と最も高い。これは宿泊者の中に2次避難者2が含まれていることが押し上げ要因となっている。2次避難者は金沢市以南・県外のホテルや旅館に移送された。

なお、被害が大きかった富山県、福井県、新潟県、石川県を対象として北陸応援割3が実施されたが、富山県と福井県では4/26をもって終了している。新潟県、石川県では第二弾としてゴールデンウイーク以降も実施されており、新潟県は7/18まで、石川県は7/31まで継続される予定である。

北陸応援割によって被災地への旅行需要が喚起されたが、日本全体を押し上げている様子は見ることができない。物価高による実質所得の低下やホテル代の高騰などによって日本人の旅行需要は停滞しており、先行きも横ばい圏内で推移する公算が大きい。
 
1 2024年1-5月調査においては、令和6年能登半島地震の影響により、石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋市、志賀町、宝達志水町、中能登町、穴水及び能登町を調査対象から除いているが、影響は軽微と考えられる
2 石川県によると6月27日15時時点で、二次避難者数は1,222人(累計11,623人)となっている
3 旅行代金の最大50%が割引。上限額は宿泊数や宿泊県数によって上限金額が変わる

3.引き続き日本の旅行需要を牽引するのはインバウンド

外国人延べ宿泊者数の推移 外国人宿泊者数のうち、国別が分かる従業者数10人以上の施設でみると、2024年5月の中国人延べ宿泊者数は2019年比▲25.8%(4月:同▲21.8%)と、外国人延べ宿泊者数全体(同25.2%)と比較すると回復が遅れている。回復の遅れの一因には中国国内の不動産市場の低迷による景気下押しの悪影響などから海外旅行をする中国人が減少している。

中国人延べ宿泊者数は緩やかに回復していたが、回復に足踏みがみられる。中国人延べ宿泊者数が停滞するリスクはあるが、コロナ禍前に比べて為替レートが円安の水準にあることが追い風となって、外国人延べ宿泊者数は増加を続けることが予想される。日本人延べ宿泊者数が弱い動きとなっており、日本全体の旅行需要をインバウンドが牽引していくことが予想される。
 
 

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(2024年07月01日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

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