2024年07月05日

マクドナルドにサラダは必要か-2つのケースから見るマクドナルドとサラダ

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.328]

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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※ 本レポートは2024年5月7日発行の研究員の眼「マクドナルドにサラダは必要か-2つのケースから見るマクドナルドとサラダ」を要約したものです。

1―サラダマックの失敗

マクドナルドは1987年にサラダの提供を開始すると、2003年にはメインディッシュとしてサラダをメニューに加えたり、2013年以降セットの選択肢にフルーツも取り入れている。こうした背景には顧客の「健康志向」があり、マクドナルドが行ったアンケートでは「もっとヘルシーなメニューも増やしてほしい」という声がたくさん挙がったからだそうだ。日本マクドナルド株式会社においてもニーズを反映し、2006年に「サラダマック」が販売されたが、2012年当時の日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役会長兼社長兼CEOの原田泳幸は、講演の中で“リサーチをすると、「サラダを置いて欲しい」という声が必ず出てくるそうですが、実際には多く売れることはないそうです。多くの消費者は、マクドナルドにサラダを期待しているわけではないからです”と話している。“実際の消費行動”と“消費者アンケートとして回答する際に明るみになった消費者の考える合理性や理想”との間にギャップが生まれ、アンケート結果が市場性(売り上げ)に反映されないこともあるのだ。

2―サラダがあるとフライドポテトを注文する?

さて、この「サラダマックの失敗」は、マーケターの中ではよく知られた話なので、今回筆者がより紹介したい事例は、ニューヨーク市立大学バルーク校のマーケティングリサーチャーらが行った「マクドナルドのメニューリスト」の実験だ。同実験では「マクドナルドの売り上げ増加は、サラダなどの健康的なフードがメニューに追加されたことが要因ではなく、ハンバーガーやフライドポテトなどの健康的ではないフードの売り上げ増加が要因である」という事に着目し、その関係を検証している。その検証では被験者にメニューを提示し、昼食の際のサイドメニューを何か1つ選択してもらうという形式だった。メニューにはフライドポテト、チキンナゲットなど、典型的なファストフードの選択肢が含まれていたが、被験者の半数のメニューにはヘルシーなサラダも含まれていた。その結果、ヘルシーなサラダがメニューにあると、最も健康的ではないサイドメニュー(この実験ではフライドポテト)を選ぶ被験者の割合が増加したという。

この実験の面白いところは、「食生活に対して自制心を持っている」と自分のことを評価している人ほど、健康的なメニューが選択肢にある場合、最も健康的ではないフードを選ぶ傾向がみられたという点だ。サラダがメニューにない場合、食生活に対して自制心があると答えた被験者の10%しかジャンキーなメニューを選ばなかったが、サラダがメニューにあると、彼らの50%がヘルシーではないメニューを選んだという。

合理的に考えれば「サラダ」を選択する方が健康的であるわけで、食生活に対して自制心を持っていると自身のことを評価した層ほどその認識は大きいだろう。 

脳科学者の中野信子は、人間が「良いこと」または「倫理的に正しい」なにかを想像すると、免罪符を得たような気分になり、サラダという食生活において倫理的に正しいモノが選択肢にあるだけで、それ自体が健康的ではないモノを選択する免罪符になると考察している。

サラダが健康にいいことはわかっているが、その上でフライドポテトを選ぶことはワザとその選択をしている訳であり、ワザと非合理的なモノを選べるという事は、何が合理的で、何が非合理的か理解しているわけだから、健康に対する倫理観を持ち合わせている自分は、やろうと思えばちゃんとできるし、今日くらいはちゃんとしなくてもいい」といった感じで、サラダがある中から「あえて」フライドポテトを選ぶという自身の選択に正当性を見出していると思われる。

つまり、今回あえて「間違った選択」をした背景には、未来の自分が次は「正しい選択」をするという信頼があり、だからこそ意識の高い人ほど違った選択をするのではないだろうか。我々の日々の生活にみられる「今日くらいは」「今回は特別に」という感情が起因となっている行動の背景にも、この実験にみられたような心理があるのかもしれない。

このように我々は、日々の生活の中で合理的な消費と、非合理的な消費を理解しているのにも関わらず、非合理的な選択をとる局面が多々ある。アンケートやインタビューなど消費者の声を聞くことも大事ではあるが、回答する側の気持ちになって結果を見ることも重要であろう。
ハンバーガー

(2024年07月05日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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