2024年06月07日

のり弁×冷凍食品-消費の交差点

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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※ 本レポートは2024年4月22日発行の研究員の眼「のり弁×冷凍食品-消費の交差点(5)」を要約したものです。

1―冷凍「のり弁当」との出会い

新型コロナウイルス感染症拡大の影響による冷凍食品や総菜などの「中食」需要の高まりや、共働き世帯やシニアの少人数世帯の増加を背景に冷凍食品市場が拡大している。

筆者が最近感動したのは弁当・惣菜専門店「ほっかほっか亭」の「のり弁当」を再現した冷凍食品だ。白身フライ、ちくわの磯部揚げ、きんぴらごぼう。どれも冷凍食品の定番であり、売り場で目にしたことはあったが、それらが弁当として冷凍されている商品を見たのは初めてだった。売り場を思い返せば一品物のおかずやパスタやチャーハンといった加工された主食がラインナップの中心であり、冷凍の白米が陳列されているところを見たことがなかった。

2―TVディナー

特に北米においては「TVディナー」と呼ばれる複数の料理が組み合わされ、それだけで1回の食事になりえるプレート型の冷凍食品が1950年代以降普及している。北米において主食としての位置づけにある食べ物は、パン、ポテト、コーン、パスタといった冷凍に親和性のあるものが多く、TVディナーのメニューを見てもマッシュポテトやパスタ、クリームコーンが定番であり、それらは冷凍食品として市場からすでに受け入れられている。

日本においては、農林水産省の「令和3年度食生活・ライフスタイル調査」によれば主食は「米食」が4割強で最も多く、特に夕食は米食が70.5%と圧倒的に多いことがわかっている。米食が中心である日本の食文化において、TVディナーのようなワンプレート型の冷凍食品を作るには白米が必要なのだが、ごはんを高品質で提供することが困難であることが「冷凍白米」が市場導入されてこなかった背景にあるのではないだろうか。

3―「冷凍ご飯は美味しくない」問題

パナソニック株式会社が行った「炊飯習慣調査」によれば、「冷凍保存したごはんはおいしくなくなる」と5割以上が回答している。家庭用冷蔵庫の冷凍室においては、その多くが冷やした空気を吹き込むことで、冷凍室内の温度を下げ、冷凍するエアーブラスト方式と呼ばれる凍結技術が採用されているが、乾燥した冷気を高速で食材に吹き付け冷凍を行うため、食品表面の水分が奪われやすく白米の「うま味」が失われてしまうというデメリットがあった。

しかし、株式会社菱豊フリーズシステムズが生み出した急速凍結技術『プロトン凍結』は、冷凍時にできる氷の結晶の粒が小さいため、解凍時に細胞が破壊されにくく、調理したてのような状態が保たれ、白米や握りずしをできたての味のまま冷凍できるという。実際に「ほっかほっか亭冷凍のり弁当」を製造する藤本食品株式会社は、プロトン凍結機を導入し、冷凍弁当を販売している。技術の進歩により、品質を保ちながらの白米の冷凍が実現したことにより、弁当を始めとした「白米を冷凍した商品」が少しずつ市場に現れ始めたわけだ。

4―冷凍のり弁当の市場性

一方、本レポートを通して初めて弁当の冷凍食品があることを認知した読者も少なくないのではないだろうか。それは、日本の冷食市場は、お弁当のおかずや夕飯の一品として購入される「惣菜」が中心だからだ。弁当市場そのものでは、スーパーマーケットでは低価格販売が、コンビニでは店舗数やラインナップの豊富さが強みである。

また、出来立てを重視する層では「ほっかほっか亭」のようなその場で調理してくれる弁当屋や、牛丼チェーンやハンバーガーショップなどのテイクアウト市場がしっかりと根付いており、冷凍弁当市場が一気に進展するのは難しいと筆者は考える。

とはいえ冷凍弁当の「ストック」としての需要は大きいと思われる。共働き世帯やシニアの少人数世帯の増加に伴って調理に対するタイパ意識が強くなる中で、それこそTVディナーのように手間をかけずに、何種類もおかずを用意する必要なく、ご飯すらも炊かなくて済む冷凍弁当をストックしておくことが、“時間がないとき”、“何もやる気になれないけど食べなくてはいけないとき”の救世主になる日になることだろう。したがって、冷凍弁当市場の成長スピードは、こういった社会環境・就労環境の変化のスピードに比例すると思われる。
のり弁

(2024年06月07日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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