コラム
2024年05月07日

マクドナルドにサラダは必要か-2つのケースから見るマクドナルドとサラダ

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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本コラムのポイント

1――サラダマックの失敗

マクドナルドの「サラダマックの失敗」をご存じだろうか?マクドナルドは1987年にサラダの提供を開始すると1、2003年にはメインディッシュとしてサラダをメニューに加えたり、2013年以降セットの選択肢にサラダやフルーツも取り入れている2。こうした背景には顧客の「健康志向」があり、マクドナルドが行ったアンケートでは「もっとヘルシーなメニューも増やしてほしい」という声がたくさん挙がったからだそうだ。実際にマクドナルドはサラダやフルーツの他に、卵白を使用したサンドイッチ、グリルチキンラップ、全粒粉を多く含むハンバーガーバンズなど、よりよいメニューバランスを選択肢として提供していたが、サラダ類の売り上げは全体の2~3%に過ぎなかったという3。ファストフードの顧客は確かに健康的な選択肢を求めており、そのニーズが業界全体でサラダやオレンジスライスなどがメニューに追加される流れを生んだが、顧客がメニューでそれらを求めていたからといって、必ずしもそれらを食べたいと思ったわけではなかったのである4

そもそも、マクドナルドが健康志向なメニューを取り入れる背景には、社会的責任を強く意識しているからである。つまり、自社の商品が消費者の健康関連行動に大きな影響を与えていることを自覚しているからこそ、例えば子供の肥満削減キャンペーンや脂肪、塩分、糖分が少ないメニューを提供することで消費者に健康“も”意識してもらい、消費者の健康に対する社会的責任を果たそうとしたのである5。当時のマクドナルドのCEOドン・トンプソンも「社会的責任」と「売上げ」によるジレンマを強調している。

日本マクドナルド株式会社においても消費者ニーズを反映し、2006年に「サラダマック」が販売された。これは、アンケートやインタビュー調査で「ヘルシーなメニューが少ないので導入してほしい」「サラダを入れてほしい」といった声が上がることが多く、それを実現する形で市場に導入された。しかし、消費者の声を形にしたのに、売り上げは振るわず、すぐに販売終了となった6。サラダマックがマーケティングの失敗のケーススタディとして扱われる背景には、マクドナルドがなぜ消費者に求められているか、という本質と、消費者の合理的に行動するべきという意思との間にギャップが存在し、消費者は必ずしも合理的には行動しないことが露呈した顕著な例だからだ。2012年当時の日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役会長兼社長兼CEOの原田泳幸は、講演の中で消費者が求めているのは、ハンバーガーやビッグマックといった「(マクドナルド)らしさ」であり、
 
“リサーチをすると、「サラダを置いて欲しい」という声が必ず出てくるそうですが、実際には多く売れることはないそうです。多くの消費者は、マクドナルドにサラダを期待しているわけではないからです”

と話している7

ヘルシーなモノを食べたいのならばサラダ専門店や自身で栄養を管理できる自炊を行えばすむわけで、我々がマクドナルドに求めているのは「肉々しさ」「ジャンキーさ」「手軽に素早く腹を満たせる」ことなのだ。それでは、そのような「らしさ」を求めて我々は、マクドナルドを選択しているのにもかかわらず、なぜ「マクドナルドでヘルシーなモノを食べたい」と思ってもないことを言ってしまうのだろうか。これは、行動経済学の「システム1 と システム2」という理論が関係している。システム1は「直感」、システム2は「論理」に基づいて情報を処理することで、我々はそれぞれを場面場面で使い分けているという。マクドナルドに足を運ぶ際のシチュエーションは人それぞれ異なるだろうが、概ね「普段食べ慣れたあの味が食べたい(嗜好)」「新商品が気になる(興味)」「時間がないから手早く食べたい・疲れてるからカロリーが高いモノが食べたい(状況)」という心理が引き金になっていると思われるが、この際に注文を決定づけている、ひいてはマクドナルドに行くことの引き金になっているのは「欲求」そのものであり、思考して選択するよりも感情(直観)によってメニューやマクドナルド自体が選択されていると言えよう。もちろん、メニューの前で何を食べたいか悩むこともあるだろうが、それは食べたいモノの選択肢が多いから悩むわけであり、マクドナルドに来てカロリー計算や栄養素を確認する人の方が稀であろう。

一方で、アンケートやインタビューに回答する際、我々は、「〇〇するべきだ」という合理的でかつ理想的な行動を念頭に置いて回答する傾向がある。つまり、このような状況では、「ファストフードは栄養価が低くてカロリーが高いからもっとヘルシーで健康的なモノを食べた方がいい」と、回答することが理想的な消費者像であると考えているわけだ。消費者は何が健康的で、何が健康的でないかわかっている。それでも、健康という側面から見れば非合理なファストフードを好んで食べているのである。言い換えれば、ファストフードにヘルシーメニューがあった方がいいという回答は、非合理的な選択を改善するために消費者がすべき合理的な手段を、非合理的な行動をとっている消費者自身が回答しているのである。これは社会的容認バイアスとも呼ばれ、我々はこのような調査で回答する際に、他人から好意的に見られる方法で質問に答えようとする傾向があり、自身の行動や本音とは裏腹に、その回答における社会的望ましさを予測し、回答してしまうのである。その問いにおける倫理的な(社会的な)最適解や理想像を選んでいるともいえる。

マクドナルドの「サラダマックの失敗」とは、この“実際の消費行動”と“消費者アンケートとして回答する際に明るみになった消費者の考える合理性や理想”との間にギャップが生まれ、アンケート結果が市場性(売り上げ)に反映されないことを意味するわけだ。
 
1 Matthew Wilson “How COVID Brought About The Fall Of The McDonald's Salad” 2023/12/26 https://www.yahoo.com/lifestyle/covid-brought-fall-mcdonalds-salad-214532648.html?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAI5-CI3nf4dlBIPUvbT0RivS3imLnS44mD3hs400A3HFUJ_0xezRau31qIRpHWW8hel718O2v9XEzwALcLJIQgXgEpMW8cPgURfMjrLnjldHcWhq65uYJNPOapbhRYpZa1OwTEKc1KpFSRYp8GhxdVgdA6sNQqBrmHbiM6kOeN5P
2 NBC News “McDonald's pushing salads and pedometers” 2004/04/16 https://www.nbcnews.com/id/wbna4749559
3 Food Business News “Healthy eating up to the customer, McDonald’s says” 2013/05/30 https://www.foodbusinessnews.net/articles/2240-healthy-eating-up-to-the-customer-mcdonald-s-says
4 Keohane, Joe (2008), “Fat Profits,” Portfolio, Conde Nast (February), 90-7.
5 The New York Times “With Tastes Growing Healthier, McDonald’s Aims to Adapt Its Menu” 2013/09/26 https://www.nytimes.com/2013/09/27/business/mcdonalds-moves-toward-a-healthier-menu.html
6 現在でも内容やサイズを変えながらサラダは提供されている。社会的責任の側面もあるだろうが、高カロリー、高脂質なものを食べるから健康に気を使い併せて野菜をとる人も増え、ある意味サラダのおかげで罪悪感なく好きなモノを注文できている人もいるだろう。
7 KEIO MCC「原田 泳幸「マクドナルドの経営改革」」夕学レポート2012年09月11日 https://www.keiomcc.com/magazine/sekigaku115/

2――サラダがあるとフライドポテトを注文する?

さて、この「サラダマックの失敗」は、マーケターの中ではよく知られた話なので知っていた読者もいるかもしれないが、今回筆者がより紹介したい事例は、ニューヨーク市立大学バルーク校のマーケティングリサーチャーらが行った「マクドナルドのメニューリスト」の実験だ8。同実験では「マクドナルドの売り上げ増加は、サラダやフルーツなどの健康的なフードがメニューに追加されたことが要因ではなく、ハンバーガーやフライドポテトなどの健康的ではないフードの売り上げ増加が要因である9」という事に着目し、その関係を検証している。その検証では被験者にメニューを提示し、昼食の際のサイドメニューを何か1つ選択してもらうという形式だった。メニューにはフライドポテト、チキンナゲット、トッピング付きのベイクドポテトなど、典型的なファストフードの選択肢が含まれていたが、被験者の半数のメニューにはヘルシーなサラダも含まれていた。その結果、ヘルシーなサラダがメニューにあると、最も健康的ではないサイドメニュー(この実験ではフライドポテト)を選ぶ被験者の割合が増加したという。この実験の面白いところは、「食生活に対して自制心を持っている」と自分のことを評価している人ほど、健康的なメニューが選択肢にある場合、最も健康的ではないフードを選ぶ傾向がみられたという点だ。サラダがメニューにない場合、食生活に対して自制心があると答えた被験者の10%しか最も健康的ではないメニューを選ばなかったが、サラダがメニューにあると、彼らの50%が最も健康的ではないメニューを選んだという10。簡単に言えばサラダがメニューにあるとジャンキーなメニューが選ばれる割合が上がったというわけだ。
表1 食生活に対して高い自制心を持っていると回答した人が「最も健康的ではないメニュー」を選択した割合
これは自動販売機の選択肢でも観察され、低カロリーのクッキーを標準のジャンクフードのラインナップに加えると、最も健康的でないスナックが選ばれる可能性が高くなった。

合理的に考えれば「サラダ」を選択する方が健康的であるわけで、食生活に対して自制心を持っていると自身のことを評価した層ほどその認識は大きいだろう。脳科学者の中野信子はこの背景には、人間が「良いこと」または「倫理的に正しい」なにかを想像すると、免罪符を得たような気分になり、サラダという食生活において倫理的に正しいモノが選択肢にあるだけで、それ自体が健康的ではないモノを選択する免罪符になると考察している11
図1 “美味いが健康に良くない食べ物”に対する自制心がサイドメニューを選ぶ際に与える影響
「サラダが健康にいいことはわかっているし、それが合理的だと理解しているが、その上でフライドポテトを選ぶことはワザとその選択をしている訳であり、ワザと非合理的なモノを選べるという事は、何が合理的で、何が非合理的か理解しているわけだから、このように健康に対する倫理観を持ち合わせている自分は、やろうと思えばちゃんとできるし、今日くらいはちゃんとしなくてもいい」といった感じで、サラダがある中から「あえて」フライドポテトを選ぶという自身の選択に正当性を見出していると思われる。つまり、今回あえて「間違った選択」をした背景には、未来の自分が次は「正しい選択」をするという信頼があり、だからこそ意識の高い人ほど違った選択をするのではないだろうか。我々の日々の生活にみられる「今日くらいは」「今回は特別に」という感情が起因となっている行動の背景にも、この実験にみられたような心理があるのかもしれない12

このように我々は、日々の生活の中で合理的な消費と、非合理的な消費を理解しているのにも関わらず、非合理的な選択をとる局面が多々ある。アンケートやインタビューなど消費者の声を聞くことも大事ではあるが、出てくる言葉や出てきた数字が必ずしもすべてを語っているわけではないと認識し、回答する側の気持ちになって結果を見ることも重要であろう。
 
そして、サラダも食べよう。
 
8 Keith Wilcox, Beth Vallen, Lauren G Block, Gavan J. Fitzsimons (2009) Vicarious Goal Fulfillment: When the Mere Presence of a Healthy Option Leads to an Ironically Indulgent Decision, Journal of Consumer Research 36(3):380-393.
9 Warner, Melanie (2006a), “Salads or No, Burgers on Dollar Menu Revive McDonald’s,” The
New York Times, July 19, C4.
10 The Willpower Instinct: How Self-Control Works, Why It Matters, and What You Can Do To Get More of It. Avery, pp88-87
11 中野信子(2018)『シャーデンフロイデ』幻冬舎 p132.
12 健康的な商品がメニューに追加された結果、一部の消費者がより健康的ではない食事の選択をするように促されている一方で、食品業界に対する満足度を高めており、その選択自体も増加しているという見方もできる。

(2024年05月07日「研究員の眼」)

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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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