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賃貸住宅の断熱・遮音改修のススメ~家主にとっても入居者にとっても、地球温暖化対策にとっても意義のある賃貸住宅経営を目指して~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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1――省エネ基準適合義務化の影響
今回の省エネ基準適合義務付けは、政府方針である、2050年カーボンニュートラル2、2030年度温室効果ガス46%排出削減3の実現のための措置であり、建築物分野が日本のエネルギー消費量の約3割を占める現状4から、取組が急務とされたことを背景に設けられたものである。
この省エネ基準適合では、すべての建築物が対象となることから、当然賃貸住宅も対象になる。ここでは、賃貸住宅経営という側面からその影響を考えてみたい。
1 「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)」が2022年6月17日に公布され、原則全ての新築住宅・非住宅に対する省エネ基準適合の義務付けについては、公布日から3年以内に施行としていたところ、2024年4月16日に「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」が閣議決定され、施行日が2025年4月1日とされた。なお、施行にあわせて発布された、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」において、省エネ基準への適合を求めない建築の規模を、床面積が10㎡以下の建築物の建築とされた
2 2020年10月26日の臨時国会において、菅内閣総理大臣所信表明演説の中で、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言された。
3 2021年10月22日の地球温暖化対策計画の閣議決定により、2030年度において、2013年度比で温室効果ガス46%削減を目指し、さらに50%の削減に向けて調整し続けることが表明された。
4 2020年度の部門別のエネルギー消費において、運輸部門約22%、産業部門約46%、家庭部門約16%、業務他部門約16%となっており、家庭部門は主に住宅における、業務は主に事務所、店舗、施設における活動に伴うエネルギー消費であることからこれらの合計32%が建築物分野と見なしている。
省エネ基準とは、建築物エネルギー消費性能基準の略で、「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」(建築物省エネ法)に基づき定められている5。基準は、外皮基準と、一次エネルギー消費量基準からなり、これらのいずれにも適合する必要がある。一般の読者には耳慣れない言葉で、詳細を理解するには、基準値を算出する方法等の解説が必要になるが、ここではごくごく簡単な解説に止めておく。
外皮基準は、建物の外皮部分、つまり、屋根や壁、窓、床といった日差しや外気を直接受ける部分から熱がどのくらい出入りするかを示した基準である6。
一次エネルギー消費量基準は、照明や空調など建物に使われているエネルギーを使用する設備等のエネルギー消費量の合計になる。太陽光発電等によりエネルギーを創出している場合(創エネ)は、この合計から創エネ分を差し引く。
これらの値は小さいほど性能が高いことを示し、建築主は、建てようとする住宅について、地域区分7によって定められた省エネ基準値以下にしなければならない。
5 建築物省エネ法第2条第3号及び第30条第1項第1号の規定に基づき、「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」で定めている。
6 正確には、室内と外気の熱の出入りのしやすさを示した、外皮平均熱貫流率(UA値=単位温度差あたりの外皮総熱損失量/外皮総面積)と、日射の室内への入りやすさを示した、冷房期の平均日射熱取得率(ηAC=単位日射強度あたりの総日射熱取得量/外皮総面積×100)でその性能を測る。
7 地域区分は、気候条件によって全国を8つに分けている。
そのためには、壁や天井、床に断熱性の高い建材を使用したり、窓を二重サッシにしたりといった高断熱化や、日射を遮る措置、省エネ性能の高い設備の使用、太陽光発電設備等の設置といった対応が必要になる。
省エネ基準適合義務の対象は、新築の場合建物の全て、増改築の場合は増改築を行う部分になり、建築確認の手続きの中で、適合が審査される仕組みだ。
つまり、既存の賃貸住宅は増改築をしない限り、適合義務の対象にはならない。したがって、読者の中に自分は関係ないと思う賃貸住宅オーナーがいたら、そう結論づけるのは早急すぎると言わせていただく。もう少し読み進んでいただきたい。
2――省エネ性能ラベル表示制度の影響
省エネ基準適合義務化の前に、省エネ性能ラベル表示制度が既に開始されている。これは、建築物を販売または賃貸する事業者に対し、その物件の省エネ性能を、国が定めた方法でラベル表示することを、努力義務とするものである。
対象となる建築物は、2024年4月1日以降に建築確認申請を行い新築され、販売あるいは賃貸されたものである。つまり、今後新築物件で賃貸住宅経営するオーナーは、省エネ性能ラベルを表示した上で、賃貸することが求められる。
省エネ性能の評価は、国が指定するウェブプログラム等によって事業者が自己評価する方法と、評価機関に依頼して第三者評価を得る方法とがある8。いずれの場合でも、評価結果に基づきラベルを発行し、それを委託する仲介事業者などに伝え、広告に掲載することで入居を希望する消費者が目にすることになる。賃貸借契約時には、ラベルの内容が事業者から消費者に説明される。
住宅の場合、住棟用ラベルと住戸用ラベルとがあり、賃貸物件1棟であれば住棟用を、区分所有マンションの1住戸を賃貸するのであれば、住戸用を用いる。ラベルの表示内容は住棟用と住戸用でやや異なる点があり、自己評価と第三者評価でも若干異なるが、いずれにも共通して表示しなければならないのは、前述の省エネ基準義務化で解説した、一次エネルギー消費性能と外皮性能である。ラベルでは外皮性能は断熱性能と言い換えられている。
一次エネルギー消費性能は、一次エネルギー消費量の削減率を星マークの数で評価しており、数が多いほど性能が高い9。断熱性能は、家形マークの数で評価しており、やはり数が多いほど性能が高い。星3つで、家形5つ以上の場合、ZEH(ゼッチ)水準達成のチェックマークが付く10。
この他、太陽光発電等の再エネ利用設備が設置されている旨、住戸用の場合の目安光熱費11、第三者評価を受けた旨、第三者評価の場合のネット・ゼロ・エネルギー(ZEH)である旨を任意に表示できる。
8 第三者評価制度には、BELS(ベルス)と呼ばれる、建築物省エネルギー性能表示制度があり、これに基づき評価することになる。評価機関は、建築物省エネ法の登録建築物エネルギー消費性能判定機関が該当する。
9 0~4の5段階評価であるが、0は表示せず、★は1つから最大4つで、さらに太陽光発電等の再エネ設備がある場合、それによる自家消費分を加えて最大6つで評価する。
10 ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのことで、太陽光発電システムなどの再生エネ設備を活用することにより一次エネルギー消費量を0以下にした住宅である。これに対し、ZEH水準はZEH並の性能を有する水準として、一次エネルギー消費性能3、断熱性能5以上としており、必ずしも再エネ設備を要しない。
11 住宅の省エネ性能に基づき算出された電気・ガス等の年間消費量に、全国統一の燃料等の単価を掛け合わせて算出した1年間の光熱費を目安として示す。
この制度の目的は、消費者が建築物を購入したり、借りたりする際に、その物件の省エネ性能を把握し、性能の良し悪しを比較検討するようにすることで、省エネ性能への関心を高め、より性能の高い物件が選択されやすくする、そのような市場環境を形成することである。
つまり、ラベル表示により、消費者はより省エネ性能の高い物件への入居を選択するはずであり、したがって、新築の賃貸事業者は、省エネ基準適合は当然のこと、さらに上の性能に高めて、努力義務とは言え、積極的にその性能を表示して入居希望者にアピールするであろう。
そうしたときに、表示がなく、性能に劣る既存の賃貸住宅は、新築物件に対しますます競争力が低下することになり、結果的に影響を被ることは避けられなくなるのである。
現に、既存の賃貸住宅を経営しているオーナーは、こうした状況を踏まえて、今後の対策を検討することが望ましいと言えよう。
そこで、オススメしたいのが、断熱・遮音改修である。
3――断熱・遮音改修のススメ
賃貸住宅は築年数が経過して、劣化が目立つようになると入居率に影響してくる。そのため修繕を実施して、外壁や屋根などの補修や塗装を行い、雨水が浸入しないよう処置すると共に、外観の印象をよくすることが必要になる。
また、間取りや水回り設備が、現在の消費者ニーズに合わない陳腐化したものになるとやはり入居率に影響してくることから、タイミングを見て間取りの変更や設備の交換といったリノベーションが必要である。
一般的には、築15~20年以上経過すると、こうした大規模な修繕を行う必要があると言われている。そのための資金は必要になるが、計画的な修繕により入居率が改善し、家賃の引き下げを食い止めることが期待できる。
こうした大規模修繕にあわせて是非実施してほしいのが、断熱・遮音改修である。上でも簡単に触れたように、断熱改修の基本は、外気に接する屋根、外壁、床下、開口部周りなどの機密性を高め、断熱材を充填することで、断熱性を高めることが基本になる。工事の方法として、外断熱工法と内断熱工法とがあるが、いずれの場合も前述の大規模修繕と合わせて施工することが効果的である。
外断熱工法の場合、既存の外壁の外側に断熱材を貼り、新たな外壁材で覆うことから、それが雨水浸入対策になり外観の印象を高めることにつながる。
内断熱工法の場合、屋内側の壁を剥がして外壁の内側に断熱材を充填することから、間取り変更とあわせて実施することが有益である。
この際、遮音、吸音効果のある材料を用いることで、遮音性能を高めることも可能である。
(2024年06月24日「基礎研レポート」)

03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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