コラム
2023年11月22日

空き家対策のその先-住み継ぐことを前提にした社会の構築に向けて

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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空家等対策の推進に関する特別措置法が改正され、新たに定義された、管理不全空き家を自治体が指定し、行政指導を行っても改善されない場合、固定資産税の減額措置が解除されるなど、対策が強化されることになった。

一方空き家の利活用についても様々な取り組みが進みつつあり、特に、自治体と民間事業者が連携して空き家を掘り起こし、所有者にアプローチして伴走型で利活用をサポートする取り組みが効果を上げてきている。こうした取り組みを全国的に推進していけば、将来的に空き家の解消が期待できる状況になってきた。

ただし、本来、空き家にしないことが重要なはずである。空き家になる前に、他の世帯が住み継ぐ、それが当たり前の社会にしなければならない。持ち家に自ら居住しなくなっても、他の世帯が居住したり、利用したりすることで空き家にすることなく、住宅を長期に活用する社会、住み継ぐことを前提にした社会を構築することである。

これまでは、新築で取得した世帯のみが居住することを前提に住宅が供給され、取得されていたと言えるのではないか。その子世帯が住み継ぐことでさえ希薄ではなかったか。特に一戸建持ち家においてそれが顕著であった。

一世帯のみの居住期間耐える住宅でよければ、資産価値が低下することに無頓着であっても仕方ない。当然、メンテナンスに手を掛けようとはしない。居住期間が終了する頃には老朽化して住宅としての価値、魅力を失う。別の世帯が住み継ごうとしても改修にかなりのコストが伴う。というのがこれまでの住み継ぐことを前提としていない社会であり、結果として空き家の増加を招いたと言えよう。

そうではなく長期に活用できる住宅であれば、取得した世帯が居住しなくなっても資産価値が残る。その資産価値を生かして、売却によって資金を得たり、賃貸化して住替え先の費用を賄ったりといった形で活用することが可能だ。

資産価値を生かそうとすれば、当然のように居住期間における住宅の維持保全に力を入れるだろう。住み継ぐ世帯も、資産価値のある質の高い既存住宅に無理なく居住することができる。

このような社会が、住宅を長期に活用する社会、住み継ぐことを前提にした社会である。これを築くためには、次の4つの取り組みが必要だと考える。

1点目は、住宅ストックの質を長期の活用に耐えるものにしていくことである。

これまでも、国の認定長期優良住宅制度がそのような住宅の供給を後押ししてきた。

今後さらに既存住宅においてそれを強化し、ストックの質を長期に活用できるものへと抜本的に底上げしていく。

それには、居住世帯によるリフォームや、売買の際に行う改修の機会を捉えて、長期の使用に耐える性能に向上させるよう促す必要がある。金融機関による資金面の支援も重要であろう。
図表長期優良住宅認定戸数推移
2点目は、一戸建持ち家の維持保全を一般化することである。住宅の維持保全は、とりわけ一戸建持ち家において普及してこなかった。しかし、住宅を長期に活用し、住み継ぐことを前提にすれば、資産価値が目減りしないように維持保全に取り組むことはむしろ自然な行動となる。所有者自らメンテナンスを手掛けるようになり、専門業者による定期点検等に資金を掛けるはずだ。

そうした需要に応えられるよう、新築業者同様、改修業者による維持保全サービスの提供を強化したい。

3点目は、持ち家活用のサポートを制度化することである。現状、消費者からすると、持ち家の将来的な利活用についての相談先が必ずしも明確ではない。終活の一環で持ち家の利活用を誰かに相談したいと思っても、信頼できる窓口が見当たらないのでは、利活用の準備が進まない。

これには、現在成果を上げつつある、自治体と民間事業者の連携による空き家利活用の伴走型サポートを、持ち家の利活用に応用することが有益であろう。支援の対象を空き家から、居住中の持ち家に拡げるのである。

4点目は、国民の住宅に対する意識を変容させることだ。国民が住宅取得を具体的に意識する前から、意識付けを行うことが肝要であり、それには学校教育が重要になる。中高生が、住まいを社会的資産として長期的に活用し、住み継ぐ視点を学ぶ。そのような教育プログラムの開発を国が主導して行うことが望ましい。

現状の空き家対策を強力に推し進めつつ、その先にある、住み継ぐことを前提にした社会の構築に向けて、以上の取り組みを、関係者が共に進めてほしい。それが、真のストック型社会の形成に必要なのである。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2023年11月22日「研究員の眼」)

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