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2022年を迎えた生産緑地の2022年問題~2022年問題以降の都市農地のゆくえ 2~
社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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当時問題とされたところを改めておさらいすると、三大都市圏の市街化区域内に、都市計画で生産緑地地区に指定された農地は、建築といった営農以外の行為が30年間制限される代わりに、固定資産税の農地並課税が適用される。指定から30年経過すると、当該市に買い取りを申し出することができるが、多くの場合市の財政的事情で買い取られることは無く、他に買い取る農家も限られたものになることが予想されることから、ほとんどのケースで、行為制限が解除され、生産緑地地区が廃止されて、宅地へと転用され、都市の貴重な農地の多くが失われてしまうのではないかということが懸念されていた。
また、生産緑地の最初の指定が1992年で、そこから30年経過する2022年が最初の30年買取り申出の機会で、対象となるのが生産緑地全体の約8割、面積で1万ヘクタール近くになることから、これらの多くが宅地へと転用されると、既に空き地、空き家の増加が社会問題化している中で、宅地の供給が過剰となり、低・未利用地といった不安定な土地を生み出すことにつながるのではないか。あるいは、それによって、地価の下落につながり、更にそれを回避するため、不動産の売り急ぎや買い控えといったことを招いて、不動産市場に大きな影響を与えるのではないか。といった懸念が生産緑地の2022年問題であった。
ここでお気づきの読者もいると思われるが、この問題の捉え方は2つある。1つは前半のとおり、都市の貴重な農地が失われていく可能性である。もう一つは、都市内の多くの農地が宅地に転用されることで、不動産市場に影響を与える可能性である。
後者の捉え方は、主に不動産業界において注目を集めた。しかし、筆者はこのコラムではむしろ前者、つまり、「都市部の身近にある農地が一斉に失われていく可能性をはらんだ問題」として捉え、それを読者に伝えようとした。
また、2022年問題に当たり、ここで指摘した点は2つあった。一つは、30年買取り申出に対応する法制度を早急に整えるべきであること。もう一つは、それでも農地が失われる可能性があることに対し、市民レベルで地域の農を支える取り組みを進めてほしいということである。
1点目については、同年に成立した都市農業振興基本法に基づく、都市農業振興基本計画の策定(2016年)を皮切りに、生産緑地をめぐる法制度が次々と整えられていった。特に、生産緑地法の改正による、特定生産緑地指定制度の創設(2017年)は30年買取り申出に直接応える制度であった。特定生産緑地に指定すると30年経過以降10年間は、引き続き生産緑地として保全される(営農以外の行為制限が継続される)ことを担保するものである。2022年の6月末時点で対象となる生産緑地の約9割が特定生産緑地に指定される見通しとなっており、当初の、「ほとんどの農地が宅地化されるのでは」といった懸念を払拭する結果となっている。
2点目については、当時筆者が想像した以上に、各所で様々な取り組みが生まれてきており、今後さらに大きな動きになってくると期待できる状況である。その背景には、前回お伝えしたとおり、身近に農の営みがあることに対する多くの都市住民の支持がある。
そのような中、今感じるのは、現在ほど、都市の農地を生かしたまちづくりを進めるのによいときはないということである。都市農業振興、都市農地保全の推進において大変よい環境と言えよう。
それ以上に、これから50年、100年先を見通した中で、都市生活の望ましい有り様とそのためのまちづくりを考える時に、都市に農的な環境が残されていることと、それを支持する都市住民が多く存在することは、大変頼もしい状況である。
以上のように、2022年を迎えた「生産緑地の2022年問題」の状況を、ここではごく簡単に概観するにとどめて、次回以降、現在の状況と今後の見通しを少し詳しく分析しながら、2022年問題以降の都市農地のゆくえに思いを巡らせてみたいと思うのである。
(2022年12月02日「研究員の眼」)
03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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