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- 「2022年問題」に警鐘を鳴らす ~ 都市農地のゆくえ ~
「2022年問題」と聞いてピンとくる読者はどのくらいいるだろうか。副題を「都市農地のゆくえ」としているので、関係者にとってはそれが「生産緑地」のことだと分かるだろう。関係者でなくとも、都市部の身近にある農地が一斉に失われていく可能性をはらんだ問題だとしたら、関心を持つ人は少なくないはずだ。
生産緑地とは、都市計画で保全することを決定した大都市圏における市街化区域内の農地である1。現在219の自治体に、6万3,539地区、1万3,859haが存在する2。1991年の生産緑地法改正により市街化区域内の農地は、保全する「生産緑地」と、宅地などに転用される農地に区分された。生産緑地地区に指定されると、所有者は農地として管理を行うことが義務付けられ、建築物を建てるなどの営農以外の行為が制限される。一方、それ以外の農地は、宅地並みの固定資産税を課せられる。
法律3では、生産緑地の指定から30年経過したとき、あるいは所有者4が死亡または農業従事できなくなった場合に、所有者は市町村に対し買い取りの申出を行うことができ、市町村は特別な事情がない限り、時価で買い取らなければならないと定めている。しかし、主に財政負担が難しいという事情から、これまでに申出を受けて市町村が買い取るケースはほとんど無かったと言われている。1992年に最初の指定を受けて30年が経過する2022年以降、一斉に買い取りの申出が行われた場合、同様の理由で大部分が買い取られず、その結果、生産緑地の指定が解除されて宅地化が進む可能性が非常に高い。しかし、既に空き家、空き地の増加が社会問題化している環境においては、宅地としての有効活用はあまり期待できず、多くの不安定な空き地が市街地の中に発生することになると考えられる。
このような想定される事態に対して、都市農地の危機のタイムリミット=『2022年問題』として警鐘を鳴らしているのが、都市プランナーで、長年、都市農地の計画的な保全方策の研究と実践に取り組んできた、水口俊典氏5である。
水口氏の最新の論文「都市農地に関する制度改革議論の動向と今後の課題」では、国の都市のコンパクト化に向けた都市計画制度の改正論議や改正論議を受けて立地適正化計画制度6が導入された経過において、生産緑地を含む都市農地を保全活用する具体方策の提示が不十分なままである点を指摘している。また他方で、農業政策サイドや一部自治体から、先進的な取り組みや制度提案がなされていることを紹介し、さらに、「農地保全型地区計画」や「田園風致地区」といった大変興味深い制度を提案した上で、それらを導入した新たな生産緑地制度の創出や、都市農地税制と都市政策の連携といった、制度改革の方向を示している。そして、「多数の人々と団体に大きな影響を及ぼす制度の改正には年数がかかることから、2022年問題の到来までに至急を要する」とし、大都市圏の都市農地を緑地として保全活用するラストチャンスだと述べている。この論文は、「都市問題」2015年6月号7に所収されており、国の都市政策立案に携わる関係者にとっては必読の論文と言えよう。また、生産緑地を有する自治体関係者にも一読を勧めたい。
水口氏が指摘するように、国による法制度整備は不十分な状態ではあるが、筆者は、それを待つだけでなく、自治体独自の検討が重要だと考えている。現在、多くの自治体が立地適正化計画の検討を進めているが、水口氏が指摘している、都市農地政策の面からの立地適正化計画の問題点については、現場の自治体関係者にとっては頷けるところが多いだろう。都市農地を市民生活に欠かせない要素として捉え、自主的に、都市農地の保全活用を立地適正化計画に位置付けた上で、具体方策の議論を進めてほしい。
自治体の自主的な取り組みに加え、市民の取り組みにも期待したい。既に、市民参加型の体験農園を運営する市民グループや、生産者と連携して市民が市内産作物に触れる機会を多様に提供するソーシャルビジネスが現れている。いずれも、農業に関心を持つ人を増やし、失われつつある都市農地を守っていこうと始められた取り組みだ。食や農に関心の高い若い都市生活者を中心に注目を集めており、こうした市民の自主的な取り組みをさらに広げていってほしい。
このような自治体や市民の取り組みが必ずや国の法制度整備に繋がるはずである。タイムリミットは後7年。ぜひ、一人でも多くの人に「2022年問題」について関心を持ってもらいたい。
(2015年06月01日「研究員の眼」)
03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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