コラム
2024年08月13日

空き家の管理、どうする?~空き家の管理を委託する際、意識すべき3つのこと~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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2023年12月の空き家法1改正により、管理不全空き家を自治体が指定し、行政指導を行っても改善されない場合、固定資産税の減額措置2が解除されるという制度が設けられた。管理不全空き家とは、適切な管理が行われておらず、このまま放置しておくといずれ周辺に悪影響を与えることになる状態の空き家である3。つまり、実際に周辺に悪影響を与える前に、所有者に対処を求める措置と言える。

放置状態の空き家所有者には、自治体から行政指導を受ける前に何らかの行動に移すことを求めたい。選択肢としては、(1)建物を除却する、(2)賃貸に出す、(3)売却する、(4)適切に管理する、の4つが考えられる。このうち、建物を除却するについては、既に管理不全状態、あるいは周辺に悪影響を与えている状態にある場合はただちに実行すべきである。そうではなくまだ活用可能な状態であれば、自身が管理できないことを理由にした除却は賢い選択とは言い難い。除却した場合、住宅用地に対する固定資産税の減額措置が適用されなくなるため、その後の税負担が重くなり、土地の管理は引き続き必要になる。

不動産という社会的資産を有効活用する観点からは、やはり賃貸するか売却して利用されることが望ましい。空き家が増えるとそのエリアの印象が悪くなるだけでなく、空き家が存在するだけで、周辺住民はうっすらとした不安を感じるものである。そのような意味からも、所有者本人が利用しないのであれば、速やかに活用希望者に賃貸、あるいは売却した方がよい。

賃貸は賃料収入を得られるが、賃貸化するには空き家の状態によって事前に相応の出費が伴う。人に貸す状態にするには不要な家財を片付け、清掃を丁寧に行い、不具合箇所の修繕が必要になる。そうした負担を掛けられないとしたら、売却することが現実的である。しかし、何らかの理由でただちに売却することはできない事情もあるかもしれない。その場合は、適切に管理することを選択するしかない。しかしながら、今まで放置してきたのであれば、自身で管理できない事情もあろう。

国土交通省が実施した空き家所有者を対象としたアンケート調査結果を見ると、空き家所有者の過半が相続により取得しており、その多くが高齢者で、遠方に居住する者も少なくない4。そして、空き家を管理する上で、「管理の作業が大変」、「管理費用の負担が重い」、「遠方に住んでいるので管理が困難」と2~3割以上が回答している。こうした状況であれば、所有者自身での管理は難しいことが容易に想像できる。

では、このような事情を抱えた空き家所有者はどうしたらよいだろうか?ひとつ考えられるのは、空き家の管理を請け負う業者に委託することである。「空き家管理業」、「空き家管理サービス」、といったワードで検索すると、空き家管理を業務としている業者のサイトが多数表示される。正直なところ、これらを見てすぐに、ここに頼もうと決められる所有者は多くはないと思う。

一つひとつ見ていくと、業者によって提供する管理業務の内容が微妙に異なり、また料金体系も一様ではない。空き家管理を専門とする業者ばかりでなく、母体となる業種が不動産業、警備会社、ガス業者、ハウスクリーニング業者など多様である。

こうした中から委託する業者を選定するのは容易ではないが、重要なことは3つある。

1つ目は、そもそも空き家の適切な管理に必要なことを理解しておくことである。そこで参照すべきは、「空き家管理指針」だ5。これは、空き家法に基づき国が定めたもので、管理不全空き家にならないために必要とされる行為が示されている。詳細は指針本文を確認してほしいが、適切な管理には一定の頻度で点検を行い、破損等があれば修繕を行うこと、定期的に通気や換気を行うこと、地震や大雨などの前後での確認が必要であることが示されている。また、点検や確認の際には、倒壊、崩壊、落下、飛散といった危険防止、害虫発生、景観悪化、汚水、悪臭発生、不法侵入、通行障害等、健康被害や周辺への悪影響回避といった観点から、そのようなことが懸念される事象と、改善させる行為が例示されている。

重要なことの2つ目は、以上の適切な管理に必要なことを理解した上で、自身のニーズを明確にすることである。業者に頼みたいのは、外観の確認だけでよいのか、屋内も必要か。どのくらいの頻度であれば安心できるのか、点検とその報告だけでなく、修繕や清掃、除草、剪定なども希望するのかといったことを明確にする。そのためには、現状の空き家の状態を確認しておくことも必要であろう。

3つ目は、安心して管理を任せられる信頼できる業者であるかどうかである。この点が消費者としては最も気に掛けるところであろう。それには業者の実績や評判、業務の品質に対するポリシーなど気になる点はいくつかあるが、最終的には実際に業者と話をしてみて、信頼できるかどうか判断せざるを得ない。その際、業者に確認すべきことを事前に心得ておいた方がよい。どのようなことであろうか。そこで参考にしたいのは、先頃、国土交通省が策定した、「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」6(以下、ガイドライン)である。これは、不動産業者が所有者から空き家の管理を受託する場合の標準的なルールを示したものである。つまり、不動産業者が参照すべきガイドラインであるが、その趣旨・目的の中で、「本ガイドラインの活用により、不動産業者が所有者等から信頼され、安心して頼られる存在として適切に業務を実施することが期待できる」との記載があることから、所有者からすると、ガイドラインに示されたことを実施しているかどうかが、信頼できる業者であるかどうかの判断基準になる。

例えば、空き家管理受託にあたって留意すべきポイントでは、次のようなことが示されている。
 
  • 個人情報保護法について知っておきましょう
  • 空き家の管理に関する業務を適切に実施するために必要な体制を整備し、誠実に業務に従事しましょう
  • 管理委託契約の締結時に、契約内容について記載した書面を委託者へ提供しましょう
  • 空き家管理を受託するにあたっては、責任の発生要件・責任の範囲等について、委託者に説明した上で管理受託契約において定めておきましょう
  • 空き家管理を受託するにあたっては、管理に係る作業の内容及び実施方法について、回数や頻度を明示して可能な限り具体的に説明し、管理委託契約において定めておきましょう
  • 空き家の管理に係る作業を実施した後は、作業の完了報告を行いましょう
  • 再委託先を活用する場合には、反社会的勢力でないことを確認し、指導監督を適切に行いましょう

いずれも、消費者保護やトラブル防止の観点から必要な取組と言える。委託する側の所有者がこうした内容を頭に入れておき、業者と対話する中で、実践していることが確認できれば、信頼できると一定の判断ができそうである。

不動産業者を対象としたガイドラインであるが、特にこの空き家管理受託に当たって留意すべきポイントは、むしろ不動産業者でない者にとっても積極的に参考にすべき内容となっている。他業種に空き家管理を委託する場合でも判断基準として有効であるはずだ。これから管理を委託しようとしている空き家所有者には、一度参照してみることを強く勧めたい。

ここで、改めてなぜ国土交通省が、不動産業者を対象としたガイドラインを策定したのかを確認しておくと、そこには、ガイドラインを活用して空き家管理を受託する不動産業者を増やすねらいがある。不動産業者はその専門性から空き家を管理するばかりでなく、その後の活用について所有者からの相談に適切に対応でき、実際に売却や賃貸へとつなげることができる。そうすることで空き家の流通を促進しようとしているのである。

そうした趣旨から、ガイドラインでは管理の対象となる空き家を、「所有者等が流通・利活用に適した状態を維持する意向を示しているか、将来的な流通・利活用について検討する意向を示している空き家」を主に念頭に置いているとしている。何らかの事情で直ちに賃貸や売却に踏み切れないまでも、将来的にその可能性があるのであれば、そのような相談ができるところに管理を委託することは重要であろう。

一方、管理不全空き家や既に周辺に悪影響を与えている空き家、あるいは腐朽や破損が著しく進行している空き家は、受託されないと考える必要がある。その場合、まずは所有者の責務として悪影響の要因を取り除くことを実施しなければならない。それは受託する業者にとっても、管理業務が安全にできないことが想定されるためである。その点もガイドラインに記載されている7

以上、空き家所有者が空き家の管理を委託する際に考慮すべきことを述べてきたが、これを機に最も考慮してほしいことを付け加えると、不動産は所有者個人の資産であると同時に、社会的資産でもあるという点である。所有者の都合で空き家のままにしておくことは、活用すれば得られるはずの社会的便益が失われていくことを意味する。不動産の社会性を考慮に入れ、近い将来の活用を見据えて、適切な管理を行ってもらいたい。それが、地域の持続的発展にも寄与するはずである。
 
1 空家等対策の推進に関する特別措置法
2 固定資産税の住宅用地特例と言い、土地が住宅用地に該当する場合、固定資産税の課税標準(固定資産税評価額)を1/3、あるいは1/6に減額する措置。1/6は200㎡以下(小規模住宅用地特例)の場合。
3 正確には、空き家法第13条第1項で「適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空き家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認められる空き家等」と定義されている。特定空き家とは、そのまま放置すれば保安上危険、衛生上有害となるおそれのある状態や、景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全のため放置が不適切である状態の空き家である(空き家法第2条第2項)。
4 「令和元年空き家所有者実態調査」(国土交通省)。空き家取得経緯では相続が54.6%を占めている。相続で取得した空き家所有世帯の家計を支える者の年齢は65歳以上が57.4%を占めており、空き家の所在地と所有者の居住地の関係では、車・電車等で1~3時間以上が、29.8%を占めている。相続で取得した者の空き家を管理する上での課題では、「管理の作業が大変」35.5%、「住宅を利用する予定がないので管理しても無駄になる」30.4%、「遠方に住んでいるので管理が困難」24.8%、「課題はない」24.3%、「管理費用の負担が重い」23.8%、「管理を頼める人や業者がいない」5.3%となっている。
調査結果(詳細)はこちらで公表されている。https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377049.pdf
5 空き家法第6条第2項第3号に基づき策定されたもので、正確には、「所有者等による空家等の適切な管理について指針となるべき事項」である。「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」の中に掲載されている。https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001712343.pdf
6 2024年6月21日に公表された。ここからダウンロードできる。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750009.pdf
7 ガイドラインでは、「空き家法に規定する『管理不全空き家等』及び『特定空き家等』として既に市町村長の指導・勧告の対象となっている空き家や、周辺の生活環境に悪影響を及ぼしている空き家は、本ガイドラインの対象としていません。こうした空き家は、まずはその悪影響に関連する要因を速やかに排除することが必要と考えられるためです。また、腐朽・破損などにより著しく状態の悪い空き家も、空き家の管理を受託する者(受託者)による安全な作業の遂行が困難と考えられるため、本ガイドラインの対象として想定していません」としている。つまり、所有者としては、悪い状態をさらに悪化させないため、悪い状態の空き家をそのまま維持するためといった、悪い状態の改善を先送りするために管理を委託しようとする動機も生じるかもしれないが、それは言わば所有者の責務を放棄するもので、空き家法の趣旨に反する。かつ業務の安全性からもガイドラインでは管理の対象にしないと読み取れる。

(2024年08月13日「研究員の眼」)

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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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