コラム
2024年08月07日

空き家の管理から活用へ~「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」の策定を機に、空き家を管理から活用へと導く不動産業者の増加に期待~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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先頃1、国土交通省が、「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」(以下、ガイドライン)を公表した。不動産業者が所有者から空き家の管理を受託する場合の標準的なルールを示したものであり、空き家管理の留意点などを示すことで、不動産業者の空き家管理業務への参入を促すねらいがある2

全国には、賃貸や売買に出さず、管理もされずに、放置されている空き家が多く存在し、近年、社会問題にもなっている。放置すれば、建物の老朽化が進み、敷地に雑草が生い茂るなどして、いずれ周辺に影響を与える。そこまで至らずとも、空き家が増えれば、それだけ周囲の印象を悪くし、地域の価値を下げる。それだけでなく、不動産を活用していないことは、本来そこから得られるはずの社会的便益の創出機会を損失していることになる。

こうした意味からも、空き家を放置せず、速やかに活用されることが大切だ。不動産業者であれば、その専門性を発揮することで、管理から活用へと導くことができるとの行政側からの期待もある。

国の最新の調査結果3によると、全国の空き家は約900万戸で、このうち、賃貸や売却に出していて空き家状態の住宅や、別荘など時折利用するだけで普段人が住んでいない住宅を除いた空き家の数は、約385万戸である。この、賃貸や売却に出されず、利用もされずに放置されている空き家が、いわゆる空き家問題としてクローズアップされるところの空き家である。住宅総数の約6%を占めており、5年前の調査から、約37万戸増加している4
図表1 空き家を主に管理する者 ただし、この385万戸のすべてが、放置されているばかりで、一切管理されていない訳ではない。直近の、空き家所有者等に対するアンケート調査5で、主に管理する者を聞いたところ、「管理している者はいない」との回答は約15%で、全体の約76%は、所有者本人を含めて誰かしらが管理をしている。その中には、業者等に管理を委託しているとの回答も2%と僅かであるが含まれている(図表1)。

また、所有者本人あるいは所有者の同居親族、または所有者と同居していない親族が管理していると回答した者のうち、空き家に行く頻度では、半年に1回程度以下しか行っていない割合が、それぞれ約14%、25%を占めている。半年に1回というとお彼岸に墓参に行く機会に立ち寄る程度になる。この中には、3年以上行っていないとの回答も数%ずつ含まれており、これは完全に放置状態と言える。このように、385万戸の3割近くの109万戸程度は、適切に管理が行われていないことが疑われる6

一方、放置したままであることについても理由がありそうである。同調査によると、空き家の取得方法では「相続」が約68%を占めており、その内の3割は、居住地から空き家までの所要時間が、車・電車等で1~3時間以上となっている。元々自身が住んでいたわけではなく、遠方にいて行くこともままならない、その上利用する予定もないことから、あえて管理に負担を掛ける気にならないとの所有者の意識がうかがえる。

これに対し、2023年12月の空き家法改正7により、管理不全空き家8を自治体が指定し、行政指導を行っても改善されない場合、固定資産税の減額措置9が解除されることになった。空き家を放置し続ける所有者の意識を変え、何らかの対処を促すものになろう。現状で自身が管理できないのであれば、誰かに管理を委ねるか、賃貸や売却などの活用を検討する必要もでてくる。今後は、そうしたニーズも高まるはずである。
そこで、不動産業者が空き家の管理に携わり、空き家に関する所有者の様々な相談やニーズに、関係する専門家と連携して対応することで、賃貸や売買といった活用につなげることが可能となる。多くの不動産業者が空き家の管理を担うことで、より多くの空き家活用(イコール空き家の解消)が進むことにもつながる。不動産業者にとっても、空き家管理の報酬を得ながら、賃貸や売買の仲介など、本来業務の機会創出につなげるメリットがあるだろう。

2023年に不動産業者を対象に実施したアンケート調査10では、現在空き家管理業務を実施しているとの回答は全体の約7%(189社)にとどまっており、今後実施したいとの回答は約28%(706社)である(図表2)。
図表2 現在空き家管理サービス事業実施状況
このように、不動産業者の参入意向は、現状ではそれほど高くはない。しかし、ガイドラインを活用することで、所有者から信頼され、安心して管理を任すことができる不動産業者と認識されるはずである。これを機に、空き家管理に取り組む不動産業者が増えて、空き家を管理から活用へと着実に導いていくことを期待したい11
 
1 2024年6月21日
2 ガイドラインは主に①総論として、(1)「空き家法」や同法に基づく「管理指針」について知っておくこと、(2)「個人情報保護法」について知っておくこと、(3)空き家の管理に関する業務を適切に実施するために必要な体制を整備し、誠実に業務に従事することが示され、②空き家管理の相談を受けたときは、(1)空き家の状況は物件により異なることから、当該空き家の状況を委託者と受託者双方で十分確認すること、(2)空き家を管理する権限を有しない方が相談するケースが想定されるため、契約の締結に当たっては、管理を委託できる権限があることを確認すること等が示されている。ガイドラインは、国土交通省のウェブサイトからダウンロードすることができる。https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001750009.pdf
3 「令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)」総務省統計局
4 平成30年住宅・土地統計調査では、348万7,200戸となっている。
5 「空き家管理サービス利用状況調査」(令和5年8月国土交通省)(ウェブ方式により1,595サンプルを回収集計)。空き家を現在所有している者及び何らかの事情で親族などの所有者に代わって空き家を管理している者のうち、放置空き家に該当する者690件に対する設問。なお、本調査は国土交通省不動産・建設経済局の委託による「令和5年度賃貸住宅管理業及び空き家管理業に関する実態分析に係る調査検討業務」の中で、受託者であるニッセイ基礎研究所が実施した。
6 全1,595サンプルの内、690件(43.3%)が賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家である。この内、「管理している者はいない」104件である。「所有者又は所有者と同居する親族が管理」と「所有者と同居していない親族」で、空き家に行く頻度が「半年に1回程度以下」がそれぞれ39件、52件である。これらの合計195件は、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家690件の28.3%である。これを適切に管理が行われていない可能性のある空き家比率と仮定して、令和5年住宅・土地統計調査における賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家348万7,200戸に乗じると108.8万戸と推計できる。
7 空家等対策の推進に関する特別措置法
8 空き家法第13条第1項で「適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空き家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認められる空き家等」と定義されている。特定空き家とは、そのまま放置すれば保安上危険、衛生上有害となるおそれのある状態や、景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全のため放置が不適切である状態の空き家である(空き家法第2条第2項)。
9 固定資産税の住宅用地特例と言い、土地が住宅用地に該当する場合、固定資産税の課税標準(固定資産税評価額)を1/3、あるいは1/6に減額する措置。1/6は200m2以下(小規模住宅用地特例)の場合。
10 「空き家の管理受託に関するアンケート調査」(2023年9月 国土交通省不動産・建設経済局参事官)。日本賃貸住宅管理協会、全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会の協力を得て、各団体の会員事業者を対象に、ウェブ方式で実施。2,567票を回収した。なお、本調査も国土交通省不動産・建設経済局の委託による「令和5年度賃貸住宅管理業及び空き家管理業に関する実態分析に係る調査検討業務」の中で、受託者であるニッセイ基礎研究所が実施した。
11 なお、ガイドラインは、国土交通省が同時に策定した、「不動産業による空き家対策推進プログラム」の一環として策定されたもので、ここにはガイドラインの他にも、空き家等に掛かる媒介報酬規制の見直しなど、不動産業による空き家等の流通に向けた取組を後押しする施策が盛り込まれている。これらも不動産業者が空き家管理業務への参入を後押しするはずである。

(2024年08月07日「研究員の眼」)

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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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