2024年06月21日

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3-2.オフィスビルの新規供給見通し
日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2023年1月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が34%と、札幌市や京都市と並んで高い水準にある(図表-18)。そこで、これら築40年以上が経過したオフィスビルの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネクティッドボーナス」が進行中である。
図表-18 新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルが占める割合(面積ベース)
(1)「天神ビックバン」プロジェクト
天神地区16では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした。このプロジェクトでは、初期設備投資で3,500億円の増収効果が発生する17と試算されている。

天神地区では、「天神ビックバン」を活用した再開発が進展している。「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積約9.1万m2)の複合ビル「福岡大名ガーデンシティ」が2023年3月に竣工した(図表-19 ①)。同プロジェクトでは、オフィスや商業施設のほか、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」が2023年6月に開業した。

2024年以降も、再開発計画が複数予定されている。西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に「ONE FUKUOKA BLDG.」(延床面積約14.7万m2・地上19階建て)を開発し、2024年12月に竣工予定である (図表-19 ②)。また、ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビル(延床面積約2.1万m2・地上19階建て)に建て替えを行い、2024年12月に竣工予定である18(図表-19 ③)。

2025年は、日本生命保険と積水ハウスが「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」を、オフィスを核とした大型複合ビル「天神ブリッククロス」(延床面積約3.7万m2・地上18階建て)に建て替えを行い、2025年4月に完成予定である19(図表-19 ④)。また、住友生命保険と福岡地所は、天神2丁目で「住友生命福岡ビル」と「天神西通りビジネスセンター」を、オフィスを核とした大型複合ビル(延床面積約4.2万m2・地上24階建て)に建て替えを行い、2025年5月に完成予定である20(図表-19 ⑤)。

その後も、天神ビジネスセンターに隣接する21「福岡市役所北別館跡地」および「メディアモール天神(MMT)跡地」で、天神一丁目761プロジェクト合同会社22と福岡地所は、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神ビジネスセンター 2期計画」(延床面積約6.2万m2・地上18階建て)を開発し、2026年6月を竣工予定である23(図表-19 ⑥)。また、三菱地所は複合商業施設「イムズ跡地」で、オフィスとホテルを核にした複合ビル「(仮称)天神 1-7 計画」(延床面積約7.4万m2・地上21階建て)を開発し、2026年12月に竣工予定である。同プロジェクトでは、総面積約8,000坪、基準階面積約790坪、想定就業者数約3,000人のオフィスを整備するとしている24(図表-18 ⑦)。
図表-19 「天神地区」におけるオフィス開発計画
 
16 天神交差点から半径約500mのエリア
17 帝国データバンク「「天神ビッグバン」の影響分析調査」(2023年11月6日)
18 ヒューリック株式会社「(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画」の概要について」(2022年10月3日)
19 日本生命保険相互会社HP「天神ブリッククロス」
20 住友生命保険相互会社・福岡地所株式会社「「(仮称)住友生命福岡ビル・西通りビジネスセンター建替計画」の概要について」(2022年6月30日)
21 三菱地所株式会社「開発コンセプト「福岡文化生態系」 「(仮称)天神 1-7 計画」新築工事着工」(2024年5月15日)
22 福岡地所、九州電力、九電工で構成される特定目的会社
23 天神一丁目761プロジェクト合同会社・福岡地所株式会社「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画の概要について」(2023年6月7日)
24 三菱地所株式会社「開発コンセプト「福岡文化生態系」 「(仮称)天神 1-7 計画」新築工事着工」(2024年5月15日)
(2)「博多コネクティッドボーナス」
福岡市は、2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネクティッドボーナス25」を公表し、博多駅周辺26の再開発を後押ししている。このプロジェクトでは、延床面積は34.1万m2から49.8万m2へ1.5倍に拡大、雇用数は3.2万人から5.1万人へ1.6倍に拡大、年間約5,000億円の経済活動波及効果が発生すると試算されている。

博多駅周辺では、「博多コネクティッドボーナス」を活用した再開発が進んでいる。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、「コネクトスクエア博多」(延床面積約2.2万m2・地上12階建て)を開発し、2024年3月に竣工した27(図表-20 ①)。

2025年は、中央日本土地建物が博多区博多駅前3丁目で、12階建てのオフィスビル「(仮称)博多駅前三丁目プロジェクト」(延床面積約1.3万m2)を開発し、2025年6月に完成予定である28(図表-20 ②)。また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)を連鎖的に建て替える29。その第一弾として、本店本館ビルを、オフィスを核とした複合ビル(延床面積約7.5万m2・地上14階建て)に建て替えを行い、2026年1月に竣工予定である30(図表-20 ③)。
図表-20 「博多駅周辺」におけるオフィス開発計画
 
25 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
26 博多駅から半径約500メートル、約80ヘクタール。
27 九州旅客鉄道株式会社・福岡地所株式会社・ 株式会社麻生 「福岡東総合庁舎敷地有効活用事業「コネクトスクエア博多」竣工~地域・まち・ひとをつなぐ、エリア再開発の想いがコネクトする場所に~」(2024年3月15日)
28 中央日本土地建物グループ株式会社「「(仮称)博多駅前三丁目プロジェクト」博多コネクティッドボーナス認定を受け 9 月着工」(2023年8月1日)
29 西日本シティ銀行「西日本シティ銀行保有ビルの連鎖的再開発のお知らせ」(2019年12月19日)
30 株式会社西日本シティ銀行・福岡地所株式会社「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日)
(3)福岡市の新規供給予定面積
2023年は「福岡⼤名ガーデンシティ」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は前年比+76%の約2.7万坪となった(図表-21)。

2024年は「コネクトスクエア博多」や「ONE FUKUOKA BLDG.」等、大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給量は前年度と同水準の約2.7万坪となる見通しである。

2025年以降も、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に複数の大規模開発が進行中である。新規供給面積は2025 年が約1.8万坪、2026年が約2.5万坪に達する見通しである。総ストック量に対する今後3年間(2024 年~2026年)の供給割合は7.5%と、主要地方都市の中で最も高くなる見込みである(図表-22)。
図表-21 福岡オフィスビル新規供給見通し/図表-22今後3 年間の新規供給予定(2023年ストック対比)
3-3.賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの福岡のオフィス賃料を予測した(図表-23)。

福岡市では、人口の流入超過が継続しており、福岡県の就業者は増加が続いている。また、「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り、順調な回復を示している。「雇用環境」については人手不足感が強く、営業職や専門・技術職を中心に企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。

福岡でも、フリーアドレスを導入し、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィス利用が増えている。また、半導体投資拡大や「金融・資産運用特区」の指定に伴い、企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。

一方、福岡市では「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中である。今後3年間(2024 年~2026年)の総ストック量に対する供給割合は主要地方都市の中で最も高い水準になる。以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇基調で推移すると予測する。

福岡のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100 とした場合、2024 年は「98」、2028年は「91」への下落を予測する。ただし、ピーク(2021 年)対比で▲9%下落するものの、2018年の賃料水準と同程度であり、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-23福岡のオフィス成約賃料見通し
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年06月21日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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