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- 米国のTikTok禁止法
2024年06月17日
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1――はじめに
2024年4月26日、米国(合衆国)で「外国敵対勢力に支配されたアプリより米国人を保護する法律」(以下、本法という)が成立した1。いかにも米国らしいのは「外国敵対勢力(foreign adversary)」という用語を法律の中に書き込んでしまう点である。本稿では、本法がどのような内容なのかを解説したい。
まず、前提として、本法の立法趣旨として「外国敵対勢力の運営するアプリによってもたらされる合衆国の国家的安全を確保するための法律である。このようなアプリはバイトダンスまたはバイトダンスの傘下にある企業によって構築・提供されたTikTokおよびTikTokを受け継いだアプリ、サービスその他のアプリが含まれる」とする(下院立法時の前文)。すなわち、法律の建付けとしては外国敵対勢力のSNSを全面的に禁止する法律ではあるが、特にTikTokを名指しし、TikTokが中国資本下にある以上は米国での活動を許さず、活動継続のためには外国敵対勢力以外によって運営されることを求めている。
1 Public Law No: 118-50 (04/24/2024) https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-bill/815 参照
まず、前提として、本法の立法趣旨として「外国敵対勢力の運営するアプリによってもたらされる合衆国の国家的安全を確保するための法律である。このようなアプリはバイトダンスまたはバイトダンスの傘下にある企業によって構築・提供されたTikTokおよびTikTokを受け継いだアプリ、サービスその他のアプリが含まれる」とする(下院立法時の前文)。すなわち、法律の建付けとしては外国敵対勢力のSNSを全面的に禁止する法律ではあるが、特にTikTokを名指しし、TikTokが中国資本下にある以上は米国での活動を許さず、活動継続のためには外国敵対勢力以外によって運営されることを求めている。
1 Public Law No: 118-50 (04/24/2024) https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-bill/815 参照
2――敵対勢力が管理するアプリケーションの禁止(2条)
1|禁止されるアプリケーション
本法(原文ではdivision、章、節などと訳されるがここでは本法とした)により、外国敵対勢力が管理するアプリケーション(例:TikTok)の配布、保守、更新をすること、またはインターネットホスティングサービスで提供することが禁止される。ただし、この禁止は、大統領が定める適格売却を実施した対象アプリケーションには適用されない。
本法において、外国敵対勢力が管理するアプリケーションとは、(1)ByteDance, Ltd.、TikTok、それらの子会社、後継者、それらが管理する関連事業体、または外国敵対勢力が管理する事業体、または(2)敵対国が管理し、国家安全保障に重大な脅威をもたらすと大統領が判断したソーシャルメディア企業が直接または間接的に運営するアプリケーションを指す(ここでいうソーシャルメディア企業には、主に製品レビュー、ビジネスレビュー、旅行情報やレビューの投稿に使用されるウェブサイトやアプリケーションを含まない)。
本法において、敵対国には北朝鮮、中国、ロシア、イランを含む。
本法(原文ではdivision、章、節などと訳されるがここでは本法とした)により、外国敵対勢力が管理するアプリケーション(例:TikTok)の配布、保守、更新をすること、またはインターネットホスティングサービスで提供することが禁止される。ただし、この禁止は、大統領が定める適格売却を実施した対象アプリケーションには適用されない。
本法において、外国敵対勢力が管理するアプリケーションとは、(1)ByteDance, Ltd.、TikTok、それらの子会社、後継者、それらが管理する関連事業体、または外国敵対勢力が管理する事業体、または(2)敵対国が管理し、国家安全保障に重大な脅威をもたらすと大統領が判断したソーシャルメディア企業が直接または間接的に運営するアプリケーションを指す(ここでいうソーシャルメディア企業には、主に製品レビュー、ビジネスレビュー、旅行情報やレビューの投稿に使用されるウェブサイトやアプリケーションを含まない)。
本法において、敵対国には北朝鮮、中国、ロシア、イランを含む。
2|適格売却とデータ移管
適格売却とは、大統領が(省庁間のプロセスを通じて)決定した、以下のいずれをも満たす取引のことである。
・適格売却の結果、当該外国敵対者が管理するアプリケーションが外国敵対勢力によって管理されなくなること、かつ
・当該アプリケーションの米国での運用と、外国敵対勢力によって支配されている、適格売却以前の関連事業体との間の運用関係の確立または維持(コンテンツ推奨アルゴリズムの運用またはデータ共有契約に関する協力を含む)を排除すること。
この禁止は、本法の施行日から270日後に適用される。本法は、大統領が議会に対し、以下の3点を証明した場合、対象アプリケーションに対し、90日を上限とする1回限りの延長を認める権限を与える。
(1) 対象アプリケーションの適格売却を実行する道筋が特定されていること、かつ、
(2) 対象アプリケーションの適格売却の実行に向けた重要な進展の証拠が示されていること、かつ、
(3) 延長期間中に適格売却の実行を可能にする関連する適切な法的合意が整っていること
さらに本法では、対象外国敵対勢力の管理するアプリケーションに対し、禁止の効力を発生する前に、ユーザーの要求に応じて、利用可能なすべてのアカウントデータ(投稿、写真、動画を含む)をユーザーに提供することを求めている。アカウントデータは機械可読形式(machine-readable format)で提供されなければならない。
適格売却とは、大統領が(省庁間のプロセスを通じて)決定した、以下のいずれをも満たす取引のことである。
・適格売却の結果、当該外国敵対者が管理するアプリケーションが外国敵対勢力によって管理されなくなること、かつ
・当該アプリケーションの米国での運用と、外国敵対勢力によって支配されている、適格売却以前の関連事業体との間の運用関係の確立または維持(コンテンツ推奨アルゴリズムの運用またはデータ共有契約に関する協力を含む)を排除すること。
この禁止は、本法の施行日から270日後に適用される。本法は、大統領が議会に対し、以下の3点を証明した場合、対象アプリケーションに対し、90日を上限とする1回限りの延長を認める権限を与える。
(1) 対象アプリケーションの適格売却を実行する道筋が特定されていること、かつ、
(2) 対象アプリケーションの適格売却の実行に向けた重要な進展の証拠が示されていること、かつ、
(3) 延長期間中に適格売却の実行を可能にする関連する適切な法的合意が整っていること
さらに本法では、対象外国敵対勢力の管理するアプリケーションに対し、禁止の効力を発生する前に、ユーザーの要求に応じて、利用可能なすべてのアカウントデータ(投稿、写真、動画を含む)をユーザーに提供することを求めている。アカウントデータは機械可読形式(machine-readable format)で提供されなければならない。
3|執行権限
本法は、司法省に違反の調査とその本法の規定の執行について権限を付与する。本法に違反した事業者は、違反に対して民事罰の対象となる。対象アプリケーションの配布、維持、更新、またはインターネットホスティングサービスにおいての提供の禁止に違反した事業体には、違反の結果としてアプリケーションにアクセス、維持、または更新した米国ユーザーの数に最高額5,000ドルを乗じた罰金が課される。
また、要求に応じてアカウントデータをユーザーに提供するという要件に違反した事業体には、最高500ドルに、違反によって影響を受けた米国ユーザーの数を乗じた額の罰金が課される。
本法は、司法省に違反の調査とその本法の規定の執行について権限を付与する。本法に違反した事業者は、違反に対して民事罰の対象となる。対象アプリケーションの配布、維持、更新、またはインターネットホスティングサービスにおいての提供の禁止に違反した事業体には、違反の結果としてアプリケーションにアクセス、維持、または更新した米国ユーザーの数に最高額5,000ドルを乗じた罰金が課される。
また、要求に応じてアカウントデータをユーザーに提供するという要件に違反した事業体には、最高500ドルに、違反によって影響を受けた米国ユーザーの数を乗じた額の罰金が課される。
3――裁判管轄権(3条)
本法に対するいずれの異議申し立てについても、コロンビア特別区連邦控訴裁判所に専属管轄権が帰属する。本法に対する異議は、同部門の制定日から165日以内に提起されなければならない。本法に基づく措置、認定、決定に対する異議は、その措置、認定、決定から90日以内に提起されなければならない。
4――おわりに代えて
本法の成立を受けて2024年5月7日にTikTokはコロンビア特別区連邦控訴裁判所において、米国司法長官を相手取って、本法は違憲であり、したがって無効であることを提訴した。より具体的には、TikTokは本法が アメリカ合衆国憲法修正第1条の表現の自由に反すること等を理由として、(1)本法が違憲であることの宣言、(2)司法長官が本法を執行することの停止命令を出すこと等を主張している。
前回の基礎研レターではEUでTikTokを規制する動きについて解説した。EUではその依存性について、特に未成年に見逃しがたい悪影響を及ぼすとして、TikTokをillegal contentsを提供するプラットフォームとして規制するかどうかの検討に入った。米国のいくつかの州も依存性を問題視して、禁止の立法を行う動きがある。
これに対し、米国(合衆国)ではTikTokが外国敵対勢力によって運営されていることをもって禁止することを決めた。これにはたとえば、TikTokを利用した政治工作や思想操作などの悪影響を懸念しているものと考えられる。
いずれにせよ、舞台は裁判所に移行した。裁判所がどのような判断を下すか、続報が待たれる。
前回の基礎研レターではEUでTikTokを規制する動きについて解説した。EUではその依存性について、特に未成年に見逃しがたい悪影響を及ぼすとして、TikTokをillegal contentsを提供するプラットフォームとして規制するかどうかの検討に入った。米国のいくつかの州も依存性を問題視して、禁止の立法を行う動きがある。
これに対し、米国(合衆国)ではTikTokが外国敵対勢力によって運営されていることをもって禁止することを決めた。これにはたとえば、TikTokを利用した政治工作や思想操作などの悪影響を懸念しているものと考えられる。
いずれにせよ、舞台は裁判所に移行した。裁判所がどのような判断を下すか、続報が待たれる。
(2024年06月17日「基礎研レター」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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