2024年06月07日

米国、消費者の誤解・理解不足が生保加入の最大の障害-最大の理由(保険料が高すぎる)も、誤解に基づくものが大半-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――過去最大となった米国生命保険ニーズギャップ

2024年5月10日付保険・年金フォーカス「米国消費者の生命保険ニーズギャップは過去最大-コロナ禍以降、ニーズギャップは拡大―」において、米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラの調査結果1に基づき、米国では、ニーズギャップは過去最大になった旨、報告した。
【図表1】 生保ニーズギャップの推移(米国)
生保ニーズギャップがある人(「現行加入状況では不足だと思っている既加入者」、「現在未加入だが加入が必要だと思っている未加入者」の合計)は全体の42%、「今後1年以内に生保に加入するつもりである」と回答した人は、全体の37%(18歳から75歳までの約9000万人2)に達するという。

パンデミック以降、米国消費者の生命保険に対する関心が高まったことに伴い、加入(または追加での加入)の必要性を感じていながら、加入には至っていない人が多いことを示していると考えられる。
 
1 LIMRA ニュースリリース「U.S. Life Insurance Need Gap Grows in 2024」2024年4月15日。LIMRA「2024 Insurance Barometer Study」。
2 前掲注釈1のニュースリリースにおいてLIMRAが公表した数値(生保ニーズギャップがある人42%、18歳から75歳までの約1億200万人に相当)に基づき、筆者が推計した。

2――誤解・理解不足が最大の要因

2――誤解・理解不足が最大の要因

リムラでは、米国個人生命保険販売が、消費者ニーズを取り込めていないのは、米国消費者には、生命保険に関する以下の3つの誤解があるからだという。

また、直近のリムラの調査によれば、米国消費者の約4分の3(72%)が、定期保険の保険料について、実際よりも高いと誤解しているとされている3
生命保険に関する3つの誤解
一方、金融プロフェッショナルに相談した人は、「保険料が高すぎる」ことを理由に保険加入しない人の割合が大幅に減少する(44%→8%)との調査結果もある4。コンサルを受けて内容について理解が進むことで、そのような結果に繋がっているものと考えられる。

(図表2)は、米国の生険保険未加入者が保険に加入しない理由についての調査結果である。

-上記より、消費者の誤解とされているもの(①、④)

-生命保険についての理解が不足しているケースが多いと考えられるもの (②、③、⑤)

となっており、生命保険について誤解や理解不足が非加入理由の大宗を占めるものと考えられる。

なお、保険加入について実質的に「勧誘されていない」ことが理由と考えられるもの(⑥、⑦、⑧)も、一定存在している。
【図表2】保険に加入しない理由(米国、保険未加入者)
リムラでは、「生命保険に何にどれだけ加入すべきか、あるいは実際にどれくらい費用がかかるかについて(米国消費者は)ほとんど理解しておらず、それが優柔不断と無行動に繋がる」とする一方で、「よいニュースとしては6割の人が金融や保険に関する情報を得るために、ソーシャルメディアを活用しており、重要な取り組みは、ソーシャルメディア上で顧客と繋がること」だという。そして、「我々(生保)業界は、デジタルツールやプラットフォームを活用して、人々が生命保険について学び、加入しやすくすることで、自分自身や愛する人の経済的安全を確保できるよう、努力を続ける必要がある」5としている。

「生命保険は人から勧められなければなかなか加入しないものだ」、との考え方も一定普及していると考えられる6米国において、生保業界がどう消費者にアプローチしていくのか、引き続き注視して参りたい。
 
3 前掲注釈1のニュースリリース。
4 LIMRA「Financial Professionals and the Individual Life Insurance Purchase」(2023 年4 月5 日)によれば、保険に加入(または増額)しなかった理由として「保険料が高すぎる」ことをあげた人の割合は、ウェブサイトより見積もりを入手
した人が44%だったことに対して、金融プロフェッショナルから入手した人は8%だった。
5 前掲注釈1のニュースリリース。
6 2023年4月18日付ウォール・ストリート・ジャーナル「Life Insurance Is Profitable Again, but Too Late for Many Insurers」では、「(代理店は)キッチンで主婦たちと親しく話ができるため、消費者が信頼して保険を買うようになるのだ。(生命)保険という商品は、人から勧められなければ買わないものだ。」とされている。

(2024年06月07日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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