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基本動作ソフトウェアにかかる指定を受けた指定事業者は以下の行為が禁止される。ただし、サイバーセキュリティの確保等のために必要であって、他の行為によってその目的が達成できないときはこの限りではない(7条)。
(1) 基本動作ソフトウェアを提供する指定事業者が、その基本動作ソフトウェアを通じて提供されるアプリストアをその指定事業者(子会社等を含む。以下同じ)が提供するものに限定すること、あるいは、他の事業者が提供するアプリストアを提供することやスマートフォン利用者が他のアプリストアを利用することを妨げること(同条1号)。
(2) 基本動作ソフトウェアにより制御される音声出力機能その他のスマートフォンの動作に係る機能であって、指定事業者が個別ソフトウェアの提供に利用するものについて、同等の性能で他の事業者が個別ソフトウェアの提供に利用することを妨げること(同条2号)。
(解説)同条1号はDMA6条4項をモデルとしている。DMA6条4項は、以下の通りである。
GKはそのOSを利用または相互運用する第三者のアプリ及びアプリストアをインストールすることを許容し、効果的に利用することを技術的に可能にしなければならない。またGKのCPS以外の方法で第三者アプリまたはアプリストアへアクセスできることを認めなければならない。そしてエンドユーザーが自身のデフォルトとして第三者アプリやアプリストアを設定することを妨げてはならない。ただし、ハードウェアやOS の完全性を危険にさらすことのないように手段を採ること、およびエンドユーザーのセキュリティ確保のための手段を採ることは否定されないが、これらの手段は比例的でGKによって正当化される必要がある。
同条1号は、具体的には、スマートフォンにデフォルトで設定されているアプリストア(App Store、Google Play)のほかのアプリストアをApple、Googleは認めるべきとする。デフォルト設定されているアプリストア以外のアプリストアからアプリをダウンロードすることをサイドローディングと呼ぶ。以前より、Googleはサイドローディングを認めてきたが、Appleは認めてこなかった。アプリストアはスマートフォンにネットワーク効果を生じさせる中心機能であるため、指定事業者および個別アプリ事業者5に対する影響は大きい。同条2号については、ボイスアシスタント(バーチャルアシスタント)についての規定である。DMA6条7項に該当規定があるが、ボイスアシスタントに限定されておらず、DMAのほうが保護射程はより幅広い。
GK は、サービスの提供者とハードウェアの提供者に対して、無償で、効果的な相互運用または相互運用目的のアクセスを提供しなければならない。OS やバーチャルアシスタント経由でアクセスされるサービスやハードウェアに対して行われているアクセスや相互運用性と同程度でなければならない。
iPhoneではSiri、Android端末では通常、Google Assistantがデフォルト設定されている。購入後、利用者がサードパーティのボイスアシスタントをインストールしても、1) 起動方法について限定がある―デフォルトのものでは言葉で起動することができるが、サードパーティのものではアイコンのタップでしか起動できないなどがある。また、サードパーティのボイスアシスタントでは操作できる範囲に限定がある―iPhoneではテキストの読み上げ機能が使えないなどがある6。これらの差異をなくすことを2項は求めている。5 個別アプリ事業者は複数のアプリストアからダウンロードできるようにソフトウェアの仕様を修正しなければならない。
6 競争評価p179~p183参照。
アプリストアにかかる指定を受けた指定事業者は以下の行為が禁止される。ただし、サイバーセキュリティの確保等のために必要であって、他の行為によってその目的が達成できないときはこの限りではない(8条)。
(1) アプリストアに係る指定を受けた指定事業者(子会社を含む。以下同じ)が、自社が提供する支払管理役務(=支払いサービス)以外の支払管理役務を個別アプリ事業者が利用しないことを契約条件とすること、ならびに個別アプリ事業者が他の支払管理役務を利用することや他の支払管理役務を利用できるようにすることを妨げること(同条1号)。
(2) 個別アプリ事業者がその提供するアプリ内で商品・役務を提供するとともに、同一の商品・役務をアプリ外(個別アプリ事業者のウェブページなど。関連ウェブページ等という)で提供する場合に、指定業者に対して以下の行為が禁止される(同条2号)
・関連ウェブページ等を通じて提供される商品・役務の価格等の情報についてアプリ内で表示しないことを契約条件とすること、ならびにスマートフォン利用者に対して関連ウェブページを通じて商品・役務を提供することを妨げること
(3) 指定事業者が提供するブラウザエンジンについて、以下の行為を行うことは禁止される(同条3号)。
・指定業者が提供するブラウザエンジンを個別ソフトウェアの構成要素とすることを、アプリストアを通じてアプリを提供する際の条件とすること、ならびに競合するブラウザエンジンをアプリの構成要素とすること妨げること。
(4) アプリ業者が行う利用者確認の方法について、指定事業者が提供する利用者確認方法をアプリ内に表示することを、アプリストアを通じてアプリを提供する際の条件とすることは禁止される(同条4号)。
(解説)8条1号が関連するのはDMA5条7項であり、条文は以下の通りである。
GK はエンドユーザーまたはビジネスユーザーに対して、識別サービス、ブラウザ、支払いサービス、アプリ内支払技術の利用・相互運用を強制してはならない。
8条1号が定めるのは、DMA5条7項のうち、アプリ内課金システムの利用強制についての規定である。これまではアプリ内でダウンロードした音楽やゲームなどの有料コンテンツの購入にあたっては、アプリストアの提供するアプリ内課金システムしか利用できなかったが、これを禁止するものである。8条2号についてはDMA5条4項、5項が該当する。条文は以下の通りである。
GKは、ビジネスユーザーがGKのCPSで獲得したエンドユーザーに対して、CPSあるいは他のチャネルを利用して、GK のCPSでの条件と異なる条件で行うことも含め、エンドユーザーと通信し、勧誘を行って契約を締結することを無料で認めなければならない(DMA5条4項)。GKは、エンドユーザーが自社のCPS外でビジネスユーザーから取得したサービス、コンテンツ、定期購入(subscription)、購読物(features)その他のアイテムについて、自社のCPSで取得したアプリ経由での利用を認めなければならない(DMA5条5項)。
これまでアプリ外で音楽などをダウンロードでき、支払もできる事業者に対して、アプリ外で購入できることや価格をアプリ内で表示することを、アプリストアを運営する事業者は禁止していた(アンチステアリング条項という)が、8条2号はこれを禁止するものである。DMA5条4項、5項がこれに該当する。8条3号は、特にGoogleについて問題視されてきたものである。Googleは、メーカーがAndroid端末を製造する際に、Google Playを搭載して、地図アプリやカレンダーアプリなど個別アプリもあわせて搭載させてきたが、その個別アプリの中にブラウザ(Chrome)が含まれてきた7。検索サービスはGoogleがほぼ独占状態にあることから8条3号はこれを禁止するものであると考えられる。DMAには該当する条文は見当たらない。
8条4号はDMA5条2項(d)が同様の内容を定めていると思われる。条文は以下の通りである。
GKは個人情報の突合のためにGKの他のサービスにエンドユーザーをサインインさせてはならない。
具体的に同項はAppleのソーシャルログインに関する規定と考えられる。ソーシャルログインとは、アプリを利用する際のログインの方法に、Sign in with Apple(SIWA)という方法を選択肢に表示することを義務付けている8。このような行為により利用者がAppleに囲い込まれ、利用者の乗り換えリスクを減少させ、従って競争上の問題が生ずるおそれがある9。7 実態調査p133
8 競争評価p164参照。
9 競争評価p166参照。
検索エンジンにかかる指定を受けた指定事業者は、指定に係る検索エンジンを用いて提供する検索サービスにおいて、自社(子会社を含む)の商品・役務を正当な理由がないのに競争関係にある商品・役務よりも優先的に取り扱ってはならない(9条)。
(解説)DMA6条5項に同様の規定がある。条文は以下の通りである。
GK は GK 自身によって提供されるサービスや製品に関するランキングと、それに関連するウェブサイト索引付与と巡回(indexing and crawling)について、類似する第三者のサービスや商品より有利に取り扱ってはならない。GK はランキング付与等にあたって透明性、公平性および非差別的条件を適用しなければならない。
本条の前提とする状況は、検索エンジンの指定事業者が、検索サービスの提供者と、商品・役務の提供者の両方になる場合である。この場合に自社の提供する商品・役務を正当な理由がなく有利に取り扱うのは、競争として公正と言えないため、本条が設けられたものと考えられる。
5――指定事業者の講ずべき措置
各指定事業者は規則で定めるところにより、以下の措置を講じなければならない(10条1項)
(1) 基本動作ソフトウェアの指定事業者 アプリ事業者が基本動作ソフトウェアの利用に際し、指定事業者が取得する個別アプリの作動状況に係るデータに関し、指定事業者が取得・使用する条件、およびそのアプリ事業者が取得する条件について、アプリ事業者に開示する措置(同条1項1号)。
(2) アプリストアの指定事業者 アプリ事業者がアプリストアの利用に伴い、指定事業者が取得するアプリの売り上げに係るデータなどに関し、指定事業者が取得・使用する条件、およびそのアプリ事業者が取得する条件に関し、アプリ事業者に開示する措置(同項2号)。
(3) ブラウザの指定事業者 ウェブサイト事業者が、ブラウザによるウェブサイト表示に伴い、指定事業者が取得するウェブサイトの閲覧履歴に係るデータ、ウェブページの作動状況に係るデータ等に関し、指定事業者による取得・使用する条件、およびウェブサイト事業者による取得条件について、ウェブサイト事業者に開示する措置(同項3号)。
指定事業者は上記(1)~(3)に掲げるソフトウェア(基本動作ソフトウェア、アプリストア、ブラウザ)の利用に伴い事業者が取得する利用状況等のデータに関し、指定事業者による取得・使用に関する条件について、利用者に開示する措置を講じなければならない(同条2項)
(解説)本条はDMA6条10項と同様である。DMA6条10項は以下の通りである。
GK はビジネスユーザー(ビジネスユーザーにより権限を付与された者を含む)に対して、その要請により無償で、高品質、継続的かつリアルタイムの集計されたあるいは集計されていないデータへのアクセスおよび利用を提供しなければならない。このデータにはビジネスユーザーがCPSまたはCPSの付随サービスを利用するにあたって提供し、あるいは生成されたビジネスユーザーまたはビジネスユーザーと取引をしたエンドユーザーのデータを含む。なお、個人データはビジネスユーザーとの直接取引があり、かつエンドユーザーが情報共有に同意した場合に限り提供される。
書きぶりは違うが、いずれもビジネスユーザー(アプリ事業者など)が指定事業者のサービスを利用するにあたって生成されたデータを開示すべきとする規定である(10条1項関係)。なお、費用負担面などは規則で定められるのであろうか、法案では不明である。
各指定事業者は公取委規則(以下、規則)で定めるところにより、利用者の求めに応じて、利用者又は利用者が指定する者に対して、各号に定めるデータを円滑に移転するために必要な措置を講じなければならない(11条)
(1) 基本動作ソフトウェアに係る指定事業者 利用者による基本動作ソフトウェアの利用に伴い指定事業者が取得した利用者の連絡先その他のデータ(1号)。
(2) アプリストアに係る指定事業者 利用者によるアプリストアの利用に伴い指定事業者が取得した利用者の購入ソフトウェアに関する情報その他のデータ(2号)。
(3) ブラウザに係る指定事業者 利用者によるブラウザの利用に伴い指定事業者が取得した利用者のブラウザに記録したウェブページの所在に関する情報その他のデータ(3号)。
(解説)本条に関係するDNAの規定は6条9項であり、内容は以下の通りである。
GK はエンドユーザー(エンドユーザーにより権限を付与された者を含む)に対して、その要求により無償で、エンドユーザーにより提供された情報とエンドユーザーがCPSを利用することで生じた情報について、効果的なデータのポータビリティを可能にし、データポータビリティを促進するためのツールの提供、およびこれら情報への継続的でリアルタイムのアクセスを提供しなければならない。
11条はこれを参考としているが10、本法案では11条1項がiOSとAndroid間でのデータ移転、2項がアプリストア間でのデータ移転、3項がブラウザ間でのデータ移転をそれぞれ別途に定めている点が相違する。10 競争評価p160参照。
(2024年05月27日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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