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ダチョウとミーアキャットの間-好ましくない情報にはどう対処する?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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◇ ミーアキャット効果 : ネガティブな情報やポジティブな情報に直面すると、過剰に警戒するようになる
この言葉は、2014年に公表された論文で名づけられた。(*5)
(*5) “The meerkat effect: Personality and market returns affect investors' portfolio monitoring behaviour.” Gherzi, Svetlana; Egan, Daniel; Stewart, Neil; Haisley, Emily; Ayton, Peter (2014)., Journal of Economic Behavior & Organization. Empirical Behavioral Finance. 107: 512–526. doi:10.1016/j.jebo.2014.07.013. ISSN 0167-2681.
この研究は、イギリスで行われた。Barclays Wealth & Investment Managementを通じて、株式投資を行う617人の顧客が調査対象となった。2004~09年の間に市場情報入手のためにサイトにログインした記録と取引記録、そして自己申告に基づく年齢、扶養家族、年収、保有資産等の基礎データが分析に用いられた。
その結果、投資家は市場リターンがボジティブな場合だけではなく、ネガティブな場合にもポートフォリオの監視を強めるべく、サイトへのログインの頻度を増やしていたという。これは、あたかも警戒心の強いミーアキャットのようであったことから、ミーアキャット効果と名付けられた。
ただし、この研究には、いくつか批判の声も上がっている。研究対象のサンプル数が617人と少ないこと、現役世代が中心であったこと、年収の中心が3~5万ポンド(1ポンド=200円の換算で、600~1000万円)と中所得であったことなどだ。ダチョウ効果は、高齢で富裕な投資家に多くあらわれるとされている。そのことを踏まえると、ダチョウ効果ではなく、ミーアキャット効果があらわれたのはサンプルの取り方が影響したためではないか、との指摘だ。こうした議論は引き続き行われている。
なお、こうした効果の背景には、個人主義が強い西洋文化の土壌があるのではないか、との見方もある。これについて、西洋文化以外でもダチョウ効果は見られるのか、といった文化的な違いを踏まえた研究も進められている。
◇ 適切な態度は、ダチョウとミーアキャットの間にある
日常のさまざまな情報に向き合う態度として、ダチョウ効果やミーアキャット効果という概念を踏まえておくことは、重要ではないかと考えられる。
ネガティブな情報から目を背ける“ダチョウ”になると、意思決定が遅れて危機が増大してしまう恐れがある。また、リスクから生じる収益等の機会を逃してしまう可能性もある。このような態度は、情緒的な観点からは、自己満足で、ひとりよがりにつながりかねないだろう。
一方、過度に警戒心が強い“ミーアキャット”になると、せわしない意思決定や拙速で歪んだ選択をしてしまう恐れがある。このような態度は、情緒面では、慢性的な心配性となり、常に不安な気持ちで落ち着きを欠いてしまうことになりかねない。
このように考えると、取るべき態度は、ダチョウでもミーアキャットでもなく、その間にあるものと考えられる。まず十分に情報を収集し、それを冷静に分析して、合理的な意思決定につなげる。そして、情緒的には安定したバランス感覚のある対応をとる。こうした態度が目指すべきものと言えるだろう。
毎日、現代社会の情報の洪水のなかで暮らしていくと、こうした冷静な態度が失われがちとなる。そこで、何かの情報に接したときには、自分がいつの間にか、ダチョウやミーアキャットになっていないか、少し振り返ってみるのもよいだろう。
(参考文献)
(*1) “The 'Ostrich Effect' and the Relationship between the Liquidity and the Yields of Financial Assets”Galai, Dan; Sade, Orly (2003), SSRN Electronic Journal. doi:10.2139/ssrn.431180. ISSN 1556-5068. S2CID 154904068.
(*2)「ダチョウ」(動物大図鑑, ナショナルジオグラフィック日本版サイト)
(*3) “Experiencing Breast Cancer at the Workplace” Zanella, Giulio; Banerjee, Ritesh (2014), Rochester
(*4) “On the perpetuation of ignorance: system dependence, system justification, and the motivated avoidance of sociopolitical information” Shepherd, Steven; Kay, Aaron C. (2012)., Journal of Personality and Social Psychology. 102 (2): 264–280. doi:10.1037/a0026272. hdl:10012/6813. ISSN 1939-1315. PMID 22059846.
(*5) “The meerkat effect: Personality and market returns affect investors' portfolio monitoring behaviour.” Gherzi, Svetlana; Egan, Daniel; Stewart, Neil; Haisley, Emily; Ayton, Peter (2014)., Journal of Economic Behavior & Organization. Empirical Behavioral Finance. 107: 512–526. doi:10.1016/j.jebo.2014.07.013. ISSN 0167-2681.
(2024年05月14日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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