2024年05月09日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(2)~コロナ禍以降、「駅近」志向が高まる一方、「住居の広さ」と「中心部までのアクセス」への評価は揺り戻しの動きも

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1.はじめに

前回のレポート1では、新築マンションの販売データを用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し、東京23区全体の市場動向のほか、サブインデックスである「エリア別価格指数」と「タワーマンション価格指数」を用いて、各サブセクターの動向について解説した。

2023年の東京23区の価格指数(2005年=100)は、前年比+9%上昇の「210.2」となり、過去最高を更新した。2013年からスタートした「アベノミクス以降の価格上昇局面」が継続している。

「エリア別価格指数」は、都心が「241.5」(前年比+13%)、南西部が「197.7」(同+6%)、東部が「192.8」(同+8%)、北部が「192.1」(同+10%)となり、都心が最大の上昇率を示す結果となった。また、「タワーマンション価格指数」は「250.0」(前年比+12%)と大幅に上昇し、東京23区の上昇率(同9%)を上回った。資産性を重視する傾向が強まるなか、実需層の購入に加えて、資産性に着目した国内外の投資資金が流入している。円安の進行に伴い、海外の個人富裕層による購入事例も増加しており、価格上昇を後押ししている可能性が考えられる。

今回のレポートでは、新築マンション価格の決定構造がコロナ禍を経て、どのように変化したかについて確認したのち、新築マンション市場の今後の方向性について考察したい。
図表-1  「新築マンション価格指数」 (2005年=100)
 
1 吉田資『「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024年4月18日 。

2.新築マンション価格の決定構造の変遷

2.新築マンション価格の決定構造の変遷

本章では、「新築マンション価格指数」の算出に際して、各年度のデータを用いて推計2を行った結果を活用し、新築マンション価格の決定構造の変遷(2005年~2023年)、特にコロナ禍を経た価格評価の変化について確認する。

具体的には、(1)「最寄り駅までのアクセス時間」、(2)「住居の広さ」、(3)「中心部までのアクセス時間」に対する評価が、マンション価格に対してどのような影響を及ぼしているのかを確認する。
 
2 推計式は、『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』の「3. 「新築マンション価格指数」の作成」を参照されたい。
2-1.「最寄り駅までのアクセス時間」に対する評価~「駅近」志向がさらに高まる一方、「バス便」に対する評価見直しも
(1) 「最寄り駅までの徒歩所用時間」
「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数の符号は、一貫してマイナスとなっている(図表-2)。これは、最寄り駅までの徒歩所用時間が長くなる(短くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が下落(上昇)することを意味する。

各フェーズ(I~III)3における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」と「下落フェーズII」では、上下動を繰り返しながら概ね同水準で推移していた。しかし、「上昇フェーズIII」に入り、マイナス幅が拡大し、コロナ禍以降もその傾向が継続している(2013年▲1.6%4⇒2019年▲1.9%⇒2023年▲2.4%)。これは、「駅近」の価格評価がさらに高まったことを示唆している。

「駅近」の価格評価が高まった要因として、共働き世帯の増加が挙げられる。独立行政法人労働政策研究・研修機構によれば、共働き世帯は、2013年の1,069世帯から2023年の1,278万世帯へと約1.2倍に増加した。リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」(以下、「リクルート調査」)によれば、首都圏におけるマンション購入世帯に占める共働き世帯の割合は59%に達している。共働き世帯は、(1)通勤時間の短縮、(2)生活利便性(仕事帰りの食事や買い物)、(3)保育園等の送迎などを勘案して、「駅近」物件を志向する傾向があるとされる。

また、シニア層による購入増加も要因の1つとして挙げられよう。リクルート調査によれば、新築マンション購入世帯に占める60代以上(世帯主年齢)の割合は4%(2013年)から8%(2023年)へと倍増している。読売広告社「シニアの新築マンション購入理由調査」によれば、シニア世代が新築マンション購入5の際に重視した点について、「駅から近いこと」(59%)との回答が最多であった。通院や買い物などの生活利便性向上を目的として、シニア層も「駅近」物件を志向しているようだ6
図表-2 「最寄り駅までの徒歩所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
 
3 上昇フェーズI:「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、
下落フェーズII:「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、
上昇フェーズIII:「2013年~:アベノミクス以降の価格上昇局面」。
4 当該物件から最寄り駅までの徒歩所用時間が1分増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が▲1.6%下落する。
5 自己所有の不動産を売却しないで購入(買い増し)
6 日本経済新聞「引退シニア、駅近マンションへ 戸建ては先行き心配」2017/3/15
(2) 「最寄り駅までのバス所用時間」
「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数の符号はマイナスで、係数の平均値(2005年から2023年)が▲4.1%と、「徒歩所用時間」(平均値▲1.8%)と比較して一貫して大きく、「徒歩所用時間」以上に、価格評価に影響を及ぼしている(図表-3)。

回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズIII」に入り、マイナス幅が拡大していたが、コロナ禍以降、縮小の動きが見られる(2013年▲2.7%⇒2019年▲7.4%⇒2023年▲3.7%)。
図表-3 「最寄り駅までのバス所用時間」の回帰係数(1分増加あたりの価格変化)
内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、東京23区のテレワーク実施率(2023年3月時点)は52%と全国平均(30%)と比較して高い水準にある(図表-4)。東京ではテレワーク(在宅勤務)が定着し会社への出勤回数が減るなか、バス利用を前提とした物件まで選択肢を広げて購入を検討するケースが増えている模様だ7

アベノミクス以降、最寄り駅からの所用時間を重視する傾向にあったが、足元では、バス利用に対する評価を見直す動きもみられ、「最寄り駅までのアクセス」に対する価格評価について、引き続き注視が必要である。
図表-4 地域別のテレワーク実施率
 
7 日本経済新聞電子版「「バス便・郊外」 売れるマンションのニューノーマル」2021/3/6
2-2.「住居の広さ」に対する評価~「広さ」のプライオリティ低下に揺り戻しの動き
「住居の専有面積」の回帰係数の符号は、分析期間中、一貫してプラスとなっている(図表-5)。これは、住居が広くなる(狭くなる)につれて、新築マンション価格(坪単価)が上昇(下落)することを意味する。

各フェーズ(I~III)における回帰係数の推移をみると、「上昇フェーズI」はプラス幅が拡大し、「下落フェーズII」はプラス幅が縮小傾向にある。これは、「価格上昇局面」では「広さ」の優先順位が高まる一方、「価格下落局面」では「広さ」の優先順位が低下する傾向にあることを示唆している。

しかし、「上昇フェーズIII」は、価格上昇局面であるにもかかわらず、2014年の+0.8%8をピークにプラス幅が縮小傾向にあり、2021年は+0.3%まで低下した。アベノミクス以降、マンション価格が高騰するなか、広さの優先順位を下げて購入金額を抑える傾向にあることが要因として考えられる。
図表-5  「住居の専有面積」の回帰係数(1㎡増加あたりの価格変化)
しかし、回帰係数の値は2021年を底に僅かながら上昇に転じている(2021年+0.3%⇒2023年+0.5%)。auじぶん銀行「ビジネスパーソンの住宅事情に関するアンケート」によれば、リモートワークを経験した後、住宅選びの際に意識する項目を尋ねたところ、「広さ・間取り」(52.0%)との回答が最多となった(図表-6)。コロナ禍を経て、在宅勤務が定着したことで、住居に「広さ」を求める動きもみられる。今後も「広さ」に対する価格評価が変化する可能性があり、引き続き注視が必要であろう。
図表-6 リモートワークを経験した後、住宅選びの際に意識する項目
 
8 専有面積が1m2増加した場合、新築マンション価格(坪単価)が+0.8%上昇する。

(2024年05月09日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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