2024年05月09日

新NISAを躊躇している方に知ってもらいたい投資信託の真実

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.326]

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1―口座数は着実に増加

2024年からいわゆる新NISAとして大幅に制度拡充されて生まれ変わった少額投資非課税制度(NISA)。NISAの口座数(線グラフ)は2023年末時点で一般が1,161万、つみたてが974万、全体で2,136万になっています[図表1]。口座の増加数(棒グラフ)は2023年につみたてNISAを中心に335万口座増え、2021年の268万口座を上回り一般NISAの開始年の2014年を除くと最大となりました。2023年は年後半に口座開設が特に進んでおり、新NISAを前に口座開設する人が多かったことがうかがえます。2024年に入ってからの動向は金融庁の発表を待つ必要がありますが、各種報道を見る限りでは2023年以上に口座開設が進んでいる様子です。
[図表1]NISAの口座数(線グラフ)と口座増加数(棒グラフ)

2―実は投資信託から利益を得ている人が多い

このように制度の利用がかなり広がってきており、年代によっては口座の保有率が25%超えてきています。ただ、それでも75%、つまり4人に3人以上はまだ口座を保有していない状況であるともいえます。

NISAの口座開設を行っていない理由はさまざまあると思いますが、もし投資について抵抗感があり口座開設を躊躇しているならば知っていただきたいデータがあります。それは金融庁が2018年から毎年、集計し公表している「投資信託の共通KPIに関する分析」です。

当分析では、「たられば」ではない新NISAの中心商品である投資信託を購入した人たちが本当にどのようになっているかを知ることができます。特に参考になるのがNISAの口座数が多い大手ネット証券2社、楽天証券とSBI証券の投資信託の運用損益別顧客比率です。

例えば最新の2023年3月末時点では、楽天証券が84%とSBI証券が88%の顧客の運用損益がプラスとなっています[図表2]。つまり2社とも8割以上の顧客が投資信託から利益を上げていることが確認できます。
[図表2]投資信託の運用損益別顧客比率

3―苦境の時もあった

当然、投資信託の運用状況はその時々の市場環境にも左右されます。2社の運用損益がプラスの顧客の割合の推移をみると2021年、2022年3月末は2社とも95%程度の顧客の運用損益がプラスでした[図表3]。その一方で2020年3月末は楽天証券で14%、SBI証券で22%しかプラスの顧客がおらず、多くの顧客が含み損を抱えていたことが分かります。

2020年3月末は新型コロナ・ウイルスが世界中でまん延して世界的に株価が下落していたタイミングです。しかも2社は2019年の「老後2,000万円不足問題」をきっかけに投資信託を買い始めた人が多かったため、他の業者以上に厳しい顧客が多かったと推察されます。ただし、運用損益がプラスの顧客比率の推移から投資信託を保有し続けた顧客のほとんどが1年後の2021年3月末にはプラスに転じたことも見て取れます。
[図表3]投資信託の運用損益がプラスの顧客比率

4―食わず嫌いせずに

新NISAは素晴らしい制度ですが、投資自体にリスクはつきものです。それでもリスクと上手に付き合いながら投資信託を通じて投資して利益を得ている人が多いのも事実です。もし新NISAや投資信託、投資について食わず嫌いしているのであれば、「投資信託の共通KPIに関する分析」などの実際のデータも踏まえた上で新NISAの活用などを改めて検討していただけると嬉しいです。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2024年05月09日「基礎研マンスリー」)

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