コラム
2023年11月21日

新NISAは日本株の追い風になるのか

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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新NISAでは日本株式に新規資金?

2024年から大幅に制度拡充される少額投資非課税制度。いわゆる新NISAがスタートするまで1カ月に迫ってきた。今回の制度拡充によって、現行のつみたてNISAと一般NISAは併用不可で選択制だったが、それぞれを継承した「つみたて投資枠」と「成長投資枠」は併用可になる。しかも年間投資枠は「つみたて投資枠」は120万円と現行のつみたてNISAの40万円の3倍に、「成長投資枠」は240万円と現行の一般NISAの2倍に拡大される。投資限度額をみても成長投資枠のみだと1,200万円までで、「つみたて投資枠」と合わせた全体で1,800万円、に大幅に拡大された。また、「成長投資枠」では一般NISAと同様に上場株式を直接買い付けることが可能となっている【図表1】。

このように投資枠が大幅に広げられ、さらには制度を利用する人もより増えることが見込まれる中、新NISAを通じて個人の資金が日本株式市場へ流れることを期待する声がある。
【図表1】 現行のNISAと 新NISA

現行のNISAが日本株の追い風にならなかった3つの理由

そもそも10年目を迎えた現行のNISAでは、日本株式市場への資金流入、特に新規資金の流入は限定的であったと推察される。そして、その理由は主に次の3つ考えられる:

(1) 日本株式よりも外国株式、
(2) 短期売買が多かった、
(3) 課税口座からの買い替え中心。

現行のNISAは口座数が増えるにつれて買付額も増えており、2022年までの累積で30兆円となっている【図表2】。商品別には投資信託が17.6兆円、ついで上場株式が11.5兆円、残りがETFとREITとなっており、投資信託と上場株式の買付がほとんどである。一つ目の理由の「日本株式よりも外国株式」は主に投資信託についてである。
【図表2】 NISAの稼働口座数と累積買付額の推移
実際に投資信託の純資産総額をタイプ別にみると、2014年からだとまず外国株式のアクティブ型投資信託の純資産残高が大きく増えている【図表3】。さらに外国株式のインデックス型投資信託も2020年以降、右肩上がりで増加している。外国株式のインデックス型投資信託の純資産総額は2019年末に1兆円しかなかったのが、足元では12兆円を超えてきている。2020年あたりから、つみたてNISAを中心に稼働口座数も増加している。12兆円のうちNISAからの買付は一部だが、つみたてNISAや2019年の「老後2,000万円問題」が外国株式のインデックス型投資信託の認知、普及のきっかけになった。

その一方で日本株式のアクティブ型投資信託の純資産総額は2014年から5兆円から7兆円の範囲で推移しており、NISAの影響はほぼなかったと言える。また、日本株式のインデックス型投資信託については、外国株式同様に2020年以降、増加基調ではある。しかし、2019年末に2兆円程度だったのが今秋にようやく3兆円超えてきたくらいの緩やかな増加である。このことから、NISAから投資信託経由で入ってきた日本株式への新規資金は、外国株式と比べてかなり少額であったと推察される。
【図表3】 投資信託の純資産総額の推移
そして2つ目の理由は、一般NISAの特に上場株式についてであるが、買付があっても短期間での売却も多かった、つまり比較的、短期売買であったことである。一般NISAでは制度が開始された2014年から2022年までの9年間で16.7兆円が売却された。そのうち上場株式が8.2兆円、投資信託が8兆円売却されており、上場株式が買付の割には売却が膨らんでいた。特に2020年以降は毎年、買付と同規模の売却が上場株式であった【図表4】。このように売却が多かったことや5年で課税口座に移管されることもあり、2022年末時点で上場株式の残高は4.4兆円しかなかった。
【図表4】 一般NISAの上場株式の買付額、売却額、年末残高の推移
それでも一般NISAでの上場株式は2022年末に残高が4.4兆円まで膨らんだわけであり、そのほとんどが日本株式だと推測される。しかし、東京証券取引所の「株式分布状況調査」をみると、一般NISAの残高増加に伴って個人の株式保有が増えている様子は確認できない【図表5】。単純に短期売買が中心で買い持ちが少なかったからと言えるが、3つ目の理由として一般NISAの個別銘柄投資の大半が課税口座からの買い替えで、新規資金はさらに少なかったからとも考えられる。そのため、一般NISAの残高が積みあがっても個人の株式保有が増えなかったのではないだろうか。
【図表5】 個人の株式保有状況

新NISAでも日本株への大規模な資金流入は期待薄

一般NISAは非課税期間が5年と短く、しかも損益通算できないこともあり、利益確定売りが出やすかったと思われる。新NISAでは非課税期間が無期限化されたため、一般NISAで多かった上場株式の短期売買が減り、長期保有が増えるかもしれない。さらに買付枠が広がったため、買付も増え、上場株式の残高が倍増することも見込まれる。しかし、残高が増えたとしても一般NISAと同様に課税口座からの買い替え中心で、新規資金は思っている以上に少ないかもしれない。つまり2022年度末に131兆円ある個人投資家の株式の一部が新NISAに移るだけで、新規資金は限られている可能性がある。また、新NISAでさらに増えると思われる投資信託の買付も外国株式がほとんどで、やはり日本株式には限定的になりそうである。

つまり、新NISAでは3つの理由のうち2つ目の短期売買は解決する可能性があるが、他の2つは現行制度の問題というよりも根底に日本株式の投資魅力の問題があるため、新NISAでも残り続けると思われる。そもそも新NISAでは分散投資の観点から日本株式への集中投資が推奨されない面もあるが、集中投資するにも投資魅力が高くないと投資先として選ばれず買い増しされない。やはり、多くの個人投資家が集中投資するなら日本株式でなく米国株式を選びがちであり、新NISAでもその傾向が継続すると思われる。それゆえに、新NISAから日本株式への資金流入はあまり期待できないのではないだろうか。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2023年11月21日「研究員の眼」)

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