2024年03月19日

東南アジア経済の見通し~輸出底打ちで再び緩やかな回復軌道に復帰

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2-3.インドネシア
インドネシア経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により2022年の成長率が前年比+5.3%(2021年:同+3.7%)と上昇したが、2023年は物価高と金利上昇を受けて成長ペースがダウンして、通年の成長率が同+5.0%と低下した。10-12月期は成長率が前年同期比5.0%と、7-9月期の同+4.9%から僅かに上昇した(図表9)。

10-12月期は輸出の底入れと政府消費の回復により成長率が小幅に上昇した。財貨輸出(前年同期比+0.4%)は主力輸出品の価格下落や世界経済の減速を受けて停滞しているが、サービス輸出(同+17.9%)はインバウンド需要の持続的な回復により好調だった。また政府消費は同+2.8%となり、前期の同▲3.9%から増加した。一方、民間消費(同+4.8%)は3四半期ぶりに+5%を下回った。インドネシアでは2月14日の大統領選と総選挙を前に政党が選挙キャンペーンを実施して消費が押し上げられたが、家計消費の鈍化を相殺するには至らなかった。また投資(同+5.0%)は建設投資が牽引役となり堅調に推移しているが、インドネシア中銀の金融引き締めや輸出低迷などによる機械・設備投資の停滞が重石となり、投資全体では伸び悩んだ。

先行きのインドネシア経済は、大統領選挙・総選挙の実施により消費が押し上げられて民間消費が持ち直す一方、企業が投資判断を先送りするため投資が鈍化するだろう。しかし、大統領選で勝利したとみられるプラボウォ国防相がジョコ政権の政策路線を踏襲すると発言しており、選挙結果判明後に見送られた投資が再開するとみられる。このほか、内需は新首都「ヌサンタラ」の建設など公共投資(24年度予算のインフラ予算は前年度比+5.8%)が堅調に拡大するだろう。消費は物価と雇用環境の安定により堅調を維持するが、累積的な利上げ効果の発現により盛り上がりに欠ける展開となるだろう。外需は世界的な製造業の調整局面が一巡して財貨輸出が底打ちするが、世界経済の減速や主要輸出品である石炭やパーム油などの国際価格が停滞して緩やかな増加にとどまるだろう。同様の理由からサービス輸出の増勢は鈍化しそうだ。

金融政策はインドネシア中銀が22年8月から金融引締めに舵を切り、昨年10月には米国の利上げ観測を受けて追加利上げ(+0.25%)を実施、政策金利(7日物リバースレポ金利)を6.0%まで引き上げている(図表10)。2月の消費者物価上昇率は前年同月比+2.8%と落ち着いて推移しているが、先行きは内需の底堅さから上向くだろうが、金融引き締めの影響により中銀の物価目標圏内(+2~4%)で安定して推移するだろう。インドネシア中銀は通貨安定を優先して当面は政策金利を据え置き、米国の利下げ開始に追随する形で段階的に利下げを進めると予想する。

実質GDP成長率は2024年が+5.0%(2023年:+5.0%)と横ばいで推移すると予想する。
(図表9)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表10)インドネシアのインフレ率と政策金利
2-4.フィリピン
フィリピン経済は2022年がコロナ禍からの経済活動の正常化により実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と上昇するなど好調だったが、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気減速傾向が続いた。10-12月期の成長率は前年同期比+5.6%(7-9月期:同+6.0%)と低下、2023年通年の成長率も前年比+5.6%と6%台を下回る結果となった(図表11)。

10-12月期は輸出と政府消費が減少して内需が減速した。政府消費(前年同期比▲1.8%)は選挙実施やコロナ対応による財政悪化を受けて緊縮的な財政を続けたため減少した。外需は、サービス輸出(同+12.3%)はインバウンド需要により好調を維持したものの、財貨輸出の落ち込み(同▲11.6%)を相殺するには至らなかった。一方、消費と投資は回復した。民間消費(同+5.3%)は雇用環境の改善により小幅に上昇、総固定資本形成(同+10.2%)はマルコス政権による大規模インフラ整備計画の進展により二桁成長となった。

先行きのフィリピン経済は、2023年内は内外需の回復に時間がかかるが、2024年はインフラ投資に支えられて景気がやや上向くと予想する。

外需は外国人観光客の回復によりサービス輸出の増加が続くと共に、世界的な製造業の調整局面が一巡して財貨輸出が底打ちするだろうが、海外経済の減速を背景に緩やかな増加にとどまるだろう。一方、輸入は底堅い成長が続くものと見込まれ、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。

内需は消費・投資の底堅い成長が続くと予想する。まず消費は前年の所得税減税の効果が薄れるものの、高インフレの沈静化に伴う実質所得の目減りが和らぐと共に良好な雇用環境と賃金上昇が続くため、堅調を維持するだろう。また2024年度国家予算ではマルコス政権のインフラ整備計画「Build Better More」プログラムに1.4兆ペソ(前年度比+6.6%)が割り当てられており、公共投資の拡大は引き続き景気の下支えとなるだろう。設備投資は輸出の底打ちにより上向くが、積極的な金融引き締めの累積効果(累計利上げ幅4.5%)が重石となり勢いに欠ける展開となりそうだ。

金融政策はフィリピン中銀が22年5月から段階的な金融引き締めを開始、昨年10月にはインフレ再燃を警戒して+0.25%の追加利上げを実施して政策金利(翌日物借入金利)を6.5%まで引き上げている(図表12)。2月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.4%と、昨年初から低下して、足元は中銀の物価目標の中央値(+3%)並みの水準で推移している。先行きのインフレ率は最低賃金の上昇により一時加速するが、緊縮的な金融政策により概ね物価目標圏内で安定的に推移するだろう。フィリピン中銀はインフレの沈静化と米国の利下げ転換を受けて年後半から段階的な利下げを実施すると予想する。

実質GDP成長率は2024年が+5.8%(2023年:+5.6%)と上昇するが、2024年の政府の成長率目標(6.5%~7.5%)を下回ると予想する。
(図表11)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表12)フィリピンのインフレ率と政策金利
2-5.ベトナム
ベトナム経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により2022年通年の成長率が前年比+8.0%(2021年:同+2.6%)と大きく上昇したが、23年は欧米市場向けを中心とした輸出の落ち込みにより成長ペースが鈍化して通年の成長率が同+5.1%に低下、政府の通年の成長率目標である6.0%~6.5%を下回った。もっとも10-12月期の成長率は前年同期比+6.8%と、3四半期連続で上昇しており、足元では景気に明るい兆しが見えてきている(図表13)。

10-12月期はサービス業と製造業が揃って回復したことが成長率上昇に繋がった。まずサービス業(同+7.4%)は観光業の回復や付加価値税の減税(23年7月)により堅調に推移しており、景気の牽引役となっている。文化スポーツ(同+13.0%)や運輸・倉庫業(同+12.1%)、卸売・小売業(同+11.8%)、宿泊・飲食業(同+10.1%)が好調だった。また電話・部品や縫製品などの在庫調整が進んで米国向けを中心に財貨輸出が改善するなど製造業(同+8.1%)が加速した。建設業(同+7.6%)は公共投資予算の執行加速により堅調に拡大したほか、不動産業(同+5.6%)は金融緩和や資金繰り支援策を受けて1年ぶりのプラス成長となった。

先行きのベトナム経済は、世界的な製造業の調整局面が一巡して財輸出の増加が続くなかで、海外直接投資の拡大、景気刺激策の継続、昨年実施した金融緩和などにより堅調な成長が続くだろう。多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きやシリコンサイクルの回復を背景に、1-2月累計の海外直接投資(FDI)の認可額は前年同期比+38.6%となり大幅な増加している。製造業は輸出の底打ちを追い風に復調して2024年は景気の牽引役となるだろう。ベトナム政府は付加価値税の2%減税を2024年6月まで半年間延長し、同年7月には最低賃金の引上げ(平均+6%)が決まっている。サービス業はこうした政府の経済運営やインバウンドの持続的回復による観光業を中心とした雇用・所得環境の改善により堅調な伸びを維持するだろう。

金融政策は、ベトナム中銀が22年9月と10月に累計+2%の利上げを実施したが、景気減速を受けて昨春に政策金利を累計1.5%引き下げて4.5%で据え置いている(図表14)。2月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.0%となり、昨年6月の同+2.0%から上昇しているが、コアインフレ率は同+3%程度に落ち着いている。先行きのインフレ率は政府の上限目標(+4.0%~4.5%)を概ね下回る推移になるとみられるほか、景気の回復局面が続くことからベトナム中銀は金融緩和策に踏み切らず、2024年末にかけて政策金利を据え置くと予想する。

実質GDP成長率は2024年が+6.0%(2023年:+5.1%)と上昇して政府の成長目標(+6.0%~6.5%)の下限に達すると予想する。
(図表13)ベトナムの実質GDP成長率(供給側)/(図表14)ベトナムのインフレ率と政策金利
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年03月19日「Weekly エコノミスト・レター」)

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