コラム
2024年03月19日

韓国政府の優秀外国人材確保政策-その3-韓国政府の他の優秀外国人材の確保政策

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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前回まで紹介した「優秀人材複数国籍制度」以外に韓国政府は次のような政策を実施しながら、優秀外国人材を確保しようと努力している。

まず、一つ目に「観光・休養施設投資移民制度」が挙げられる。韓国政府は、2010年2月から外国人の間接投資を拡大するため、休養目的の滞在施設に投資した外国人に居住(F-2)資格を付与する「観光・休養施設投資移民制度」を導入した。制度導入後、2022年12月末現在、投資実績は1兆3,009億ウォンで、韓国政府は地域観光休養施設関連の建設景気の浮揚とそれに伴う内国人の雇用創出など、韓国経済の活性化に貢献していると判断している。

また、国内に一定資本を投資した外国人に経済活動が自由な居住(F-2)資格を付与した後、5年間投資を維持した場合、永住(F-5)資格への変更を許可する「公益事業投資移民制度」を2013年5月27日に導入した。投資の種類及び方式は、韓国産業銀行が運用する元金保証・無利子型の公益ファンドと法務部長官が指定・告示した地域開発事業者による損益発生型に区分され、投資基準金額は一般投資移民が15億ウォン以上、高額投資移民は30億ウォン以上になっている。

グローバル人材ビザセンターの開設、投資金送金専担銀行の指定、公共事業投資移民誘致機関の指定、海外説明会の開催など投資誘致を拡大する努力により、2022年12月末現在、公共事業の投資誘致実績は6,479億ウォンに達している。

二つ目は「電子ビザ制度」だ。韓国政府は、優秀人材を誘致する目的で2013年3月から電子ビザ制度を導入した。電子ビザが申請できる在留資格は次の通りだ。

(1) 教授(E-1)、研究(E-3)、技術指導(E-4)、専門職業従事者(E-5)、先端科学技術分野雇用推薦書あるいは素材・部品・装備分野のKOTRAの雇用推薦書をもらった専門人材(E-7)

(2) (1)に該当する外国人の同伴家族(F-3)

(3) 認定大学の修士・博士課程の留学生(D-2)

(4) 電子ビザ代理申請者として指定された優秀外国人患者の誘致機関が招待した外国人患者と同伴家族(C-3-3、G-1-10)

(5) 科学技術分野政府出資機関あるいは認定大学が招待した外国人科学者(C-4)

(6) 国内企業が招いた商用が目的で頻繁に出入国する人(C-3-4)
 
三つ目は「外国人熟練技能人材点数制ビザ」だ。韓国政府は、鋳造・金型・溶接などの根幹産業と中小製造業など深刻な人手不足を抱えている分野に熟練技能人材を確保するため、2017年8月1日から「外国人熟練技能人材点数制ビザ(E-7-4)」を導入し、試行事業の結果を反映して2018年から本格的に実施している。「外国人熟練技能人材点数制ビザ」とは、国内で非専門就業(E-9)、船員就業(E-10)、訪問就業(H-2)の資格で当該分野で5年以上正常に勤務した外国人が、熟練度・年齢・経歴・韓国語能力などの項目で一定の点数要件を満たした場合、長期滞在可能な特定活動(E-7-4)資格に変更できる制度だ。

四つ目は「優秀人材点数(ポイント)制居住ビザ」だ。「優秀人材点数(ポイント)制居住ビザ(F2-7)」は、年齢、学歴、所得、韓国語能力などをポイントに換算し、一定点数を満たした外国人に発給されるビザだ。このビザの特徴は滞在期間が5年で、転職が自由にできることで、申請対象は、上場法人従事者、有望産業分野従事者、留学人材、専門職従事者、留学人材、潜在的優秀人材になっている。

五つ目は「BRAIN POOL(BP)プログラム」だ。韓国政府は海外の優秀な科学者を国内の研究開発の現場に誘致し、国内の研究開発レベルを強化し、国際協力ネットワークを構築する目的でこの制度を実施した。誘致対象は、科学技術全分野の海外に居住中の博士または博士学位は有しないが海外の企業等で5年以上の研究開発経歴を有している者(国籍は問わない)で、滞在期間は短い場合は6~12カ月、長い場合は3年になっている。年俸は元の所属先での年俸を保障しつつ、月額500万ウォン~2,500万ウォンの間で調整する。また、研究材料費として別途毎年100万ウォンが支給されるほか、航空チケット代、保険料、子供の学費、滞在費などの経費も支給され、長期の場合は最大年間1,200万ウォンまで払われる(2023年の募集計画人員は122人程度)。

六つ目は「BRAIN POOL PLUS (BP+)プログラム」だ。韓国政府は「BRAIN POOL(BP)プログラム」より、ハイレベルの人材を誘致するためにこの制度を実施した。誘致対象は、「BRAIN POOL PLUS (BP+)プログラム」と同じで、滞在期間は最大10年で、正規職として国内の研究機関で勤務できる。人件費や研究活動費の直接経費は年間最大6億ウォンまで支給され、その他間接経費も年俸の5%に相当する金額で支給される(2023年の募集計画人員は5人程度)。

七つ目は「教育国際化力量認定制(IEQAS)」だ。韓国教育部は2005年に「Study Korea Project」を通じて留学生誘致のための政策を本格的に推進した。プロジェクトを実施した結果、韓国国内に流入する留学生の数は増加したが、質的インフラを構築するための努力と管理において限界があった。そこで、韓国政府はこのような問題点を解決し、国際化能力の高い大学を「認証」することで、優秀な外国人留学生の誘致拡大及び国内学生の国際化能力を高めることを目的に教育国際化力量認定制(International Education Quality Assurance System(IEQAS))を2013年から本格的に導入した(2023年3月現在学位課程→大学98校、専門大学7校、大学院大学15校が認定。語学研究課程→大学72校、専門大学2校、大学院大学1校が認定。)認定された教育機関には、留学生に対するビザ発行の手続きの簡素化や外国人留学生の定員制限廃止(大学院大学に限る)などのようなインセンティブが提供される。

八つ目は「科学・技術分野優秀人材の永住帰化ファーストトラック制度」だ。韓国政府は、2023年1月から科学・技術分野の優秀人材を積極的に発掘し、未来の中心となる人的資源を確保するためにこの制度を導入した。対象は、韓国に入国した外国人留学生のうち、韓国科学技術院(KAIST)をはじめ、大邱慶北科学技術院(DGIST)、光州科学技術院(GIST)、蔚山科学技術院(UNIST)、科学技術聯合大学院大学校(UST)など、理工系に特化した大学および研究機関で修士・博士を取得した外国人だ。留学生ビザ保持者が永住権または国籍を取得するまでにかかる期間は従来の6年から3年に短縮され、手続きの段階も5段階から3段階に縮小された。

留学生(D-2)は、これまでは学位取得と韓国内での就職を同時に行った場合、専門職ビザ(E-1,3,7)に変更してから3年が過ぎないと居住ビザ(F-2)を取得することができなかったが、同制度の導入により、就職しなくても学位さえ取得すればすぐ居住ビザが取得できるようになった。但し、研究を続けなければいけないという条件がある。

九つ目は「Study Korea 300K Project(2023-2027)」だ。韓国教育部がこの制度を公表したのは2023年8月16日だ。この制度は2012年の「Study Korea 2020」以来11年ぶりに打ち出された留学生誘致政策で、2027年までに年間の外国人留学生数30万人の達成を目指している。2022年4月1日時点の韓国国内の留学生数は約16.7万人で、目標を達成するためには2027年まで約13万人の上積みが必要だ。2012年から2022年の10年間で留学生の増加が約8万人に留まっていることを考えると、目標達成のためにはより抜本的な制度改革が必要かもしれない。

今まで紹介したように韓国政府は、優秀外国人材を確保するために多様な政策を実施しているが、韓国における外国人労働者に占める専門人材の割合は2022年現在6.0%で、同時点の日本の26.3%を大きく下回っている。

今後、経済成長や国家競争力を高めるためにも外国人専門人材は欠かせない存在だ。非熟練労働者に偏っている外国人労働者の受け入れ政策を見直し、日本や他の先進国の事例を参考しながら外国人専門人材の受け入れに力をいれる必要がある。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2024年03月19日「研究員の眼」)

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