2024年03月19日

女性管理職の8割が職務と職場に「課題感」を抱えている~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(5)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

国内では、まだ女性管理職の人数が少ないため、企業では、女性管理職の“登用”のステージに人事施策の重点が置かれ、“就任”後のステージについては、まだ施策が乏しいところも多いのではないだろうか。本稿で紹介するように、同じ管理職でも、男性と比べれば、女性は職務経験が浅い傾向があるため、女性を登用した後には、これまでの経験不足を補う体制を組むなど、様々な工夫が必要になると考えられる。組織として、そのようなフォローに取り組んでいる企業と、ほとんど行っていない企業では、女性を登用しても、仕事のパフォーマンスや、本人の達成感や満足感には差が出てくるだろう。

そこで本稿では、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~1から、現在、管理職として働く中高年女性が、職務や職場にどんな課題を感じているかについて報告する。そして、その課題感に対応し、女性管理職に能力を発揮してもらうために、企業がどのような環境整備をしていく必要があるかについて、まとめたい。
 
1 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

2――現在管理職に就いている女性の割合

2――現在管理職に就いている女性の割合~共同研究の結果より~

まず、中高年女性会社員のうち、現在、管理職に就いている女性の割合を確認する。共同研究の結果から、大企業で働く中高年女性の役職について見ると、「課長相当職」と「部長相当職」、「役員相当職」を合わせた「管理職」は計8.9%だった(図表1)。改めて、管理職に就いている女性はごく少数であることが分かる。最も多いのは「役職なし」の74.4%で、「係長相当職」は14.8%だった。

ちなみに、共同研究では「これまでに就いた最も上位の役職」も尋ねたが、それでも「管理職」(課長相当職以上)は12.3%にとどまった。「役職なし」が67%、「係長相当職」が17.2%、「分からない・該当しない」が3.5%だった。
図表1 中高年女性が現在就いている役職

3――現在管理職に就いている中高年女性の課題感

3――現在管理職に就いている中高年女性の課題感

次に、共同研究の中で、現在、管理職に就いている女性167人に対し、どのような課題を感じているかを尋ねた結果が図表2である。まず、「特に課題は感じていない」(17.6%)と「分からない・該当しない」(0.8%)を除き、職務や職場に何らかの課題を感じている女性が、全体の約8割に上った。

具体的な項目を見ると、最も回答割合が大きかったのは「責任が大きくなり、精神的な負担が大きい」(約3割)で、管理職の職務自体への負担感だった。それと肩を並べたのが、「労働時間が長くなり、家庭との両立が困難」(約3割)で、管理職の働き方の問題だった。

その他、回答が多かったものを見ると、「女性管理職がほとんどおらず、ロールモデルがいない」、「職務の負荷が増えたわりに、給料が安い」、「経営トップが、女性登用の意義などについて十分理解していない」など、組織運営に関する項目が、約2割で並んだ。さらに、「同じ管理職でも、男女間で職務経験や育成経験に差がある」や「これまでに研修等の経験が少なく、マネジメント業務に必要な専門知識が不足している」(図表2の記載は「マネジメント業務に必要な専門知識が不足している」)など、これまでの職務経験や育成経験の不足に関する回答も2割前後に上った。

つまり、現在、管理職に就いている中高年女性の課題感は、女性個人のメンタルの問題だけではなく、登用前の職務や育成機会の不足、登用後の組織体制や組織運営、管理職の働き方など、企業側の問題も背景にあることが分かった。
図表2 管理職に就いている中高年女性からみた課題感

4――女性管理職を登用した後の企業の課題

4――女性管理職を登用した後の企業の課題

3でみたように、管理職に就任した女性が、個人のメンタルだけではなく、職務の在り方や、職場の組織運営や働き方などに課題を感じていることから、企業にとっては、女性管理職に能力を発揮してもらうために、これらの点を見直していくことが課題だと言える。

特に、「同じ管理職でも、男女間で職務経験や育成経験に差がある」という回答が約2割あったように、女性は男性に比べて、これまでの経験が浅い傾向があり、女性登用を進めていく上では、これまで男性向けに行っていた管理職研修以上に、教育内容を充実したり、ロールモデルとなる女性管理職が、仕事を達成するために工夫したことを披露したり、また登用後には、上級管理職によるサポートを強化するなど、経験不足や社内外の人脈不足を補う工夫が必要となるだろう。これは、育成の在り方にこれまで男女差をつけてきた、企業自身の責任と言える。

また、働き方改革については、2019年4月に働き方改革関連法が施行され、時間外労働の上限は原則、月45時間・年360時間とされるなど、規制が強化されてきたが、管理職は上限規制の対象外とされている2。「非管理職の残業を減らした分、管理職に仕事が回ってきて残業時間が増えた」ということがないように、働き方改革を組織全体に浸透させていく必要性を、今回の調査結果は示している。管理職の働き方改革が進まず、その上、管理職の待遇も低いという場合には、「管理職になる前の方が残業代がついたため、給与が高かった」という逆転現象が起きる可能性もある。それでは、女性の管理職志向は低迷したままであろう3

そのほか、「ダイバーシティ経営」の観点からみて、組織運営に必要な取り組みについては、別稿「企業は女性を管理職に『登用』すれば良いのか~生産性向上、競争力強化につなげるために」(基礎研レポート、2024年3月18日)でより詳しく説明しているため、参照されたい。
 
2 労働基準法の「管理監督者」は対象外である。ただし、管理職でも労働時間の把握は労働安全衛生法で義務付けられている。
3 坊美生子(2024)「企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~」(基礎研レポート)。

5――終わりに

5――終わりに

冒頭に述べたように、現在は、女性管理職の人数が少ないことから、企業では、数を増やすためにどうするか、という登用の課題に取組の重点が置かれ、登用後の取組にまで手が回っていないケースも多いのではないだろうか。共同研究で、そもそも経営トップが、「女性登用」の意義を理解していないという回答が2割に上ったことは、日本の女性登用の取組が、まだ表面的で、深層にまで至っていないことを示している。

そのように、女性管理職が少なく、組織によるサポート体制が乏しい中で、孤軍奮闘する女性管理職の話は、筆者も聞き及ぶところである。組織としてのフォロー体制が乏しければ、仕事を全うするための工夫は、女性管理職個人に委ねられ、成果を出せる人と、あまり出せない人がでてくる。それでは、女性登用に対する周囲の目は厳しくなり、「女性だから登用された」という厳しい見方も出てくるだろう4。「女性管理職の8割が、職務や職場に『課題感』を抱えている」という今回の調査結果は、企業の女性登用の取組に「質」を求める、女性管理職からの訴えとも言えるだろう。
 
4 共同研究によると、職場で女性管理職が登用されたことに対し、「会社が女性管理職の数値目標を達成するために登用し、あまり効果が感じられない」と回答した女性が7.8%いる。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月19日「基礎研レター」)

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