コラム
2024年02月29日

外国人研究者から見た日経平均株価の上昇要因-日経平均株価が史上最高値を記録した背景と日本が直面している課題は?-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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2024年2月22日の東京株式市場で日経平均株価は39,098.68で、バブル期の1989年12月29日の38,915.87を更新し、史上最高値を記録した。日経平均株価が最高値を記録したのは、株式市場における需要が供給を上回ったからだと考えられる。では、なぜ日本株に対する需要が増加したのだろうか?

その原因としては、長期間の円安、日本の景気回復に対する期待感、中国経済の低迷、新NISAの実施、日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的資金の持続的な株式投資、日本銀行の低金利政策の推進などが考えられる。

東日本大震災後の2011年10月31日に1ドル=75.32円で最高値を記録した米ドル/円の外国為替レートは、アベノミクスによる量的緩和政策の影響などで円安が進み、2013年5月9日には1ドル=100.61円まで下落した。その後、米国との金利差などを理由に円の価値はさらに下落し、2024年2月22日現在、1ドル=150円台前半まで急落した。長期間の円安は、輸出企業が海外に商品を安く売ることを可能にしたため、輸出企業の価格競争力は高まり、収益が増加することになった。円安の影響を受けて企業業績が回復すると、日本を代表する大型株を中心に海外投資家からの資金が流れ込み、株価を押し上げている。また、記録的な円安は外国人投資家に日本株が相対的に安いという印象を与え、日本株の買い越しをもたらしただろう。

また、長い間デフレから抜け出せなかった日本経済が、最近は物価が上昇し、賃金が上昇するなど、デフレから脱出する兆しを見せていることも株価を引き上げた要因の一つだと言える。日本の消費者物価は、アベノミクスによる金融緩和措置にもかかわらず、長い間成長率が0~1%台にとどまり、政府の目標値である2%を下回った。しかし、2022年からは上昇率が日本政府の目標値である2%を上回り始め、2023年の前年比物価上昇率は3.1%で41年ぶりの最高値を記録した。現在、アメリカと日本の金利の差が続いており、最近発表された米国の消費者物価指数も市場の予想を上回ったため、当面は円安が続くという市場の予測も日本経済に対する期待感を高める要因となっている。

経済成長の鈍化や不動産市場の低迷、米中対立の長期化などに起因する中国経済の低迷も、日本の株式市場には好材料として作用している。つまり、中国経済が良くないと判断した投資家が、アジアの投資先として中国の代わりに日本を選択していると言える。

2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が施行され、個人投資家が増えたことも株価上昇に影響を与えたのではないかと考えられる。新NISAは、年間非課税納付限度額を従来の120万円から360万円に3倍に拡大し、非課税適用期間も一般型基準で最大5年から無期限に変更された。また、積立型NISAと成長型NISAを併用して活用することも可能になった。もちろん、新NISAに投資された金額の約8割が海外株式に投資されており、国内株式への影響はそれほど大きくないと言えるが、一部の資金が流入したことだけでも需要を増やし、株価上昇に一定の影響を与えた可能性はあるだろう。

一方、日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的資金が株式市場に継続的に供給されていることも、株価の急落を防ぐ要因になっていると考えられる。

市場では日経平均株価が今年4万を超えると予想しているが、このような株価上昇だけで日本経済が回復し、日本国民の生活水準が向上したと断言することは難しい。実際、2023年の前年比物価上昇率は3.1%で3%を超えており、その影響で実質賃金は2.5%も減少した。実質賃金の減少は国民の生活水準が低下したことを意味するだろう。輸出企業を中心とする大企業は従業員の賃金水準を上げ、株を保有している者は収益が増加した反面、円安による原材料価格の上昇は輸入型企業や中小企業の経営を圧迫し、従業員の賃上げは大企業を大きく下回った。その結果、実質賃金が減少した労働者の生活水準は以前より悪化した。また、彼らの多くは株などに投資する経済的余裕を持っていないため、株を保有している者との資産格差も拡大することになった。

2022年12月に日本商工会議所が日本の中小企業を対象に実施したアンケート調査によると、円安が経営に与える影響について、「デメリットが多い」という回答は50.6%で、「メリットが多い」4.5%を大きく上回った。 また、労働力不足が続き、設備投資が計画値を大きく下回っており、2023年の倒産企業は8,690社で2015年の8,812社以来、8年ぶりの高水準を記録した。

長期にわたる円安は、外国人にとって日本が安い国というイメージを強化し、輸出の増加やインバウンドの増加につながったが、国民の大半はこの効果を享受しておらず、生活水準はますます低下している。円安と日経平均株価の上昇をただ喜ぶだけでは済まされないのが、日本が直面している課題ではないだろうか。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2024年02月29日「研究員の眼」)

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