2024年02月26日

不動産投資市場動向(2023年第4四半期)~世界不動産市場の停滞から外国資本の投資減少が続く

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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私募ファンドの資金調達の動向

世界の私募ファンドの勢いは弱まっている。英国のオルタナティブ投資データの会社であるプレキンによると、2023年第4四半期の資金調達額は241億ドル(前年同期比▲61.2%、約3,400億円)とコロナ禍以降で最低となった(図表7)。資金調達活動が鈍化し、投資家の不動産投資に対する消極的な姿勢が強まっている。エリア別の運用ファンド数(ファイナルクローズ)では、2022年の数と2023年第1四半期から第3四半期の数を比較すると、北米が▲54.7%、ヨーロッパが▲44.3%であるのに対し、アジア太平洋は▲60.5%と乖離が最も大きかった(図表8)。
図表7 私募ファンドの資金調達総額(世界)
図表8 私募ファンドの数(ファイナルクローズ年別、主要エリア別)
私募ファンドによる地域別の取得額についても、不動産取引額全体と同様に南北アメリカと欧州・中東・アフリカの減少が大きく、アジア太平洋が相対的に多いという傾向は同じである。しかし、資金調達活動の鈍化は取引額の減少につながる可能性があり、今後に注意が必要と考える。

なお、市場に新規参入する資金が減少するなか、富裕層の存在感が強まっている。プレキンによると、富裕層から調達された資金の割合はブラック・ストーンの運用資産残高10億ドルの4分の1を占め、私募ファンドによっては50%に達するところもあるようだ。

2024年の展望は

2024年の展望は

不動産を巡る不透明なマクロ経済環境から、売買額の減少が続いている。また、私募ファンドの動向にみられるように、資金調達に苦慮している事業者も増加していると見られる。金融緩和の継続が続く日本の不動産市場は相対的に状況がよいものの、外国資本による投資の停滞などから、市場は減速傾向となっている。価格が高値圏であることから、投資家は今まで以上に物件を選別して投資する必要があるだろう。
 
今後は外国資本によるオフィスへの投資の回復に期待したい。2023年の外国資本の投資額が全体で2022年よりも4割近い減額となっているのは、オフィスへの投資額が前年投資額の1割ほどに9割減少したことによる。欧米でのオフィス運用成績の悪化から、新たにオフィスへ投資することは難しかったのだろう。しかし、日本の2023年の日本でのオフィスの運用成績は大量供給から危惧されていたほどは悪化しておらず、底打ちとの声も聞こえる。日銀の緩和的な態度の変化には注意が必要だが、このまま金融緩和状態が続くのであれば、資金調達環境がよく、スプレッドのとれる日本のオフィスは海外投資家にとっても引き続き魅力的な投資先であると考える。
 
また、ホテルのオペレーションや他の用途の管理の現場では、人手不足から以前と同じような運用が難しくなってきている。この状況が進めば、運用や管理がきちんとできているか否かによる不動産の価値の差は、今より大きくなる可能性がある。資金調達や海外の金利環境に影響されずに日本の不動産市場が成長していくためには、いかに不動産の価値を維持し、高めていくかという各不動産投資家独自の収益性向上方法や明確な投資戦略が重要となってくるのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2024年02月26日「不動産投資レポート」)

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