2023年11月24日

不動産投資市場動向(2023年第3四半期)~国内不動産市場は安定、存在増すアジア太平洋地域の投資家

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

文字サイズ

■要旨

国内不動産市場の2023年第3四半期の不動産取引総額は前年同期比でプラスに転じた。第1四半期から第3四半期までの不動産取引額総額は前年同期比で改善した。低金利が継続している安定した金融市場を背景に、日本の不動産投資市場は世界で最も活発な市場となっている。
 
また外国資本による購入額は前年同期比でプラスとなった。2023年第1四半期から第3四半期までの外国資本による国内不動産の購入額は改善した。オフィスへの投資が避けられているほか、コロナ禍後に活況となった外国資本による賃貸マンションの取得は一段落したとみられる。
 
世界全体の不動産取引額は前年の半分程度にまで落ち込んでいる。一方、アジア太平洋では相対的に減速が緩やかな状態が続いている。欧米資本の国外不動産への投資額が減少する一方、アジア太平洋地域内の投資家の存在感が増している。シンガポール資本、香港資本などの積極投資が目立つほか、日本資本もオフィス、物流施設、賃貸マンション、開発用地、ショッピングモール、ホテルと多岐にわたる投資を行っている。
 
世界的なマクロ経済環境は悪化しており、今後の行方も不透明である。特にアメリカ資本の対外投資の減少と、アメリカ国内で不良債権残高の増加には注意が必要である。従来は相対的に投資額が大きかったアメリカの投資家が、日本の不動産に対して今後も投資を控えることを続ければ、国内不動産市場も悪影響をもたらす可能性はある。
 
また外国資本にとっては国内不動産価格が円安の進行により外貨換算した価値が下落していることになる。今後さらに円安が進むことになれば、既存投資の外貨換算での投資が毀損し、外国資本による日本国内不動産投資が減少するリスクが生じる。
 
今期は国内資本の海外不動産への投資が大きく伸びた。従来は国内を中心に不動産投資を行っていた投資家も、リスク分散のために海外の不動産への投資を開始・拡大したという面もある。円安や日本の人口減少や経済の低成長が続くとすれば、国内不動産の今後の収益性に大きな期待を持てない国内投資家を中心に、今後も海外不動産への投資が拡大してく傾向は続くと考えられる。

■目次

・国内全体の不動産取引の動向(2023年第3四半期)
・外国資本の国内不動産購入の動向(2023年第3四半期)
・世界とアジア太平洋地域の売買動向
・アジア太平洋地域内の投資家の存在感が増している
・米国で懸念される不良債権処理の長期化、ドル円や地政学リスクにも留意
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【不動産投資市場動向(2023年第3四半期)~国内不動産市場は安定、存在増すアジア太平洋地域の投資家】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

不動産投資市場動向(2023年第3四半期)~国内不動産市場は安定、存在増すアジア太平洋地域の投資家のレポート Topへ