- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- 「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方
「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方

総合政策研究部 上席研究員 新美 隆宏
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
賃上げが成長戦略に繋がるためには、プラスの実質賃金が定着し、下図のような好循環が生じる必要がある(図表1)。中小企業白書1によると、日本の企業数の99.7%、従業員数の69.7%は中小企業となっており、このような好循環を持続するためには、中小企業における賃上げとこれを継続可能とする安定的な利益の確保が必要である。
そこで本稿では、中小企業の賃上げと価格転嫁の状況の確認・分析、および価格転嫁における企業規模(大企業を中小企業)の比較を行い、賃上げと成長の好循環の実現可能性と課題について考える。
販売価格は、原材料費(仕入価格)、労務費(雇用状況)、需給による影響を受けると考えられるため、短観の各種判断(DI3)のうち、これらに関連する「販売価格判断(販売価格DI)4」、「仕入価格判断(仕入価格DI)4」、「雇用人員判断(雇用人員DI)5」、「国内での製商品・サービス需給DI(需給DI)6」の4データを用いる。なおDIは、価格の上昇率などの実数ではなく、上昇・下落や過不足などの状況や変化の方向性を示すものである点には留意が必要である。
1 中小企業庁「中小企業白書 2025年版」
2 日本商工会議所 小林会頭のコメント(一部抜粋)「物価や賃金の上昇が続く中、最低賃金の引上げ自体には異論はない
が、問題はその引上げ幅とスピードである。今回の結果は、公労使で議論を尽くし、法定三要素のうち賃金・物価の大幅な上昇を反映したものだが、地方・小規模事業者を含む企業の支払い能力を踏まえれば、極めて厳しい結果と言わざるを得ない。」
3 DI(Diffusion Index)調査結果を分かりやすく表す一般的な指標のひとつ。上昇・下落などの異なる方向感を持った回答の選択肢がある場合に、それぞれの回答構成比を差し引いて算出して変化の方向性を示す。
4 「上昇」との回答会社構成比-「下落」との回答会社構成比。プラスであれば価格上昇、マイナスは価格下落。
例えば、販売価格が上昇しているのと回答会社構成比が40%、下落が10%の場合は、DIは30(=40-10)となる。
5 「過剰」との回答会社構成比-「不足」との回答会社構成比。プラスであれば人員過剰、マイナスは人手不足
6 「需要超過」との回答会社構成比-「供給超過」との回答会社構成比。プラスであれが重要超過、マイナスは需要不足
<販売価格DIとその他DIの関係について>
製造業、非製造業ともに販売価格DIと仕入価格DIの相関7(関係性)は高く、仕入価格と販売価格の動きは似ていることが分かる。但し、両者の水準は異なるため、差をとることにより販売価格と仕入価格の関係を表す「ビジネス環境(仕入価格DI)8」との指数を作成する。これは、製造業、非製造業ともにマイナスの期間がほとんどであり、仕入価格の上昇による影響の販売価格への転嫁は十分ではなかったと思われる。また、ビジネス環境(仕入価格DI)のマイナス幅は、大企業より中小企業の方が大きいため、中小企業の方が仕入価格の上昇を販売価格に反映できない厳しい状況であったと推察できる。
7 相関は、2つの変数の関係性を表しており相関係数により定量化する。相関係数は+1~-1の値をとり、+1は両者の関係性は高く、-1は負(逆)の関係性(例えば、プラスとマイナスの関係など)が高い、関係性が無い場合は0(ゼロ)となる。
8 ビジネス環境(仕入価格DI)=販売価格DI-仕入価格DI。マイナスの場合は、販売価格DIより仕入価格DIが高く、厳しいビジネス環境である可能性を表している。
(2025年09月17日「研究員の眼」)

03-3512-1803
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1991年 ニッセイ基礎研究所
1998年 日本生命 資金証券部、運用リスク管理室
2006年 ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)
2011年 ニッセイ基礎研究所
2015年 日本生命 特別勘定運用部、団体年金部
2025年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 認定アナリスト
新美 隆宏のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/09/17 | 「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方 | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
2025/06/20 | トランプ関税をオプションで考える-影響と対応のヒントを探る | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
2025/06/05 | 金利のある世界の歩き方-新たな環境下での年金運用を考える | 新美 隆宏 | 基礎研レポート |
2025/04/08 | 日本を襲う2つの荒波を乗り越えるカギ-カギを握るのは地域金融機関 | 新美 隆宏 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年09月17日
「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方 -
2025年09月17日
家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年7月)-実質賃金改善下でも「メリハリ消費」継続、娯楽支出は堅調を維持 -
2025年09月16日
インド消費者物価(25年9月)~8月のCPI上昇率は+2.1%に上昇、GST合理化でインフレ見通しは緩和 -
2025年09月16日
タイの生命保険市場(2024年版) -
2025年09月16日
外国人問題が争点化した背景-取り残されたと憤る層を包摂する政策を
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「最低賃金上昇×中小企業=成長の好循環」となるか?-中小企業に託す賃上げと成長の好循環の行方のレポート Topへ