- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 労働市場 >
- 就業調整の現状と課題~賃金上昇が人手不足に拍車をかけるおそれ~
就業調整の現状と課題~賃金上昇が人手不足に拍車をかけるおそれ~
経済研究部 研究員 安田 拓斗
1.賃金上昇が就業調整へ繋がるおそれ
物価や賃金が上昇する状況下では、一定の年収を基準とした制度やルールが時代遅れのものとなってしまう。年収の壁もその一例である。年収の壁とは、住民税や所得税などの税金や社会保険料がかからないようにするため、労働時間を抑制する就業調整を実施することをいう。また、配偶者がいる場合は配偶者特別控除が減らないようにする目的や企業の配偶者手当の受給要件を満たす目的で就業調整を実施する人もいる。
年収の壁は一定のため、賃金が上昇した場合、年収の壁の範囲内で勤務する労働者はさらなる就業調整を実施すると考えられる。毎月勤労統計調査によると、パートタイム労働者の時給は増加しているが、総実労働時間は減少しているため、現金給与総額の伸びは時給の伸びに比べて緩やかになっている(図表2)。労働時間減少の一因は就業調整と考えられる。人口減少に伴う労働力人口の減少が見込まれる日本では、労働力の確保が課題となるため、労働者の就業調整への対応が求められる。
2.年収の壁の概要
他に所得がない場合、収入が100万円を超えると住民税、収入が103万円を超えると所得税を納めなければならない。ただし住民税と所得税を納めた場合でも、年収の壁を超える前と後で手取り金額の逆転は起こらない。
配偶者がいる場合、収入が100万円以下であれば配偶者控除が適用され、103万円超150万円以下であれば配偶者特別控除が満額適用される。収入が150万円を超えると配偶者特別控除が段階的に減少し、201万円超になるとゼロになる。しかし、基準を超える年収となり、配偶者特別控除がなくなったとしても、世帯でみると壁を超える前と後で手取り金額は逆転しない。
106万円の壁である社会保険の適用範囲は2016年10月の従業員数501人以上から2022年10月に101人以上へ、2024年10月に51人以上へと段階的に拡大されている。一方で、賃金基準は2016年10月以降一定のままとなっている。
3.就業調整を実施する人の属性
年収150万円未満の人は、年収150万円以上の人に比べて就業調整をしている人の割合が非常に高く、就業調整をする人の割合は2017年に比べて上昇している。2022年10月に社会保険適用の条件の一つである企業規模が501人以上から101人以上へ変更され、106万円の壁の対象者が拡大されたことにより新たに就業調整を行う人が増えた可能性がある。
一方、就業調整をしている人の割合をみると、男性は14.1%であるのに対し、女性は30.6%と高く、中でも配偶者のいる女性は39.1%と高い水準となっている(図表7)。
(2024年09月25日「研究員の眼」)
03-3512-1838
- 【職歴】
2021年4月 日本生命保険相互会社入社
2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ
安田 拓斗のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/11/01 | 宿泊旅行統計調査2024年9月~日本人延べ宿泊者数の前年比は5ヵ月ぶりにプラス~ | 安田 拓斗 | 経済・金融フラッシュ |
2024/10/10 | 企業物価指数2024年9月~輸入物価は下落したが、国内企業物価は前月から伸び拡大~ | 安田 拓斗 | 経済・金融フラッシュ |
2024/10/07 | さくらレポート(2024年10月)~景気の総括判断は2地域で引き上げられ、7地域で横ばい、先行きは非製造業で悪化を見込む~ | 安田 拓斗 | 経済・金融フラッシュ |
2024/10/01 | 宿泊旅行統計調査2024年8月~日本人延べ宿泊者数は物価高の向かい風を受けて3ヵ月ぶりに2019年比マイナス~ | 安田 拓斗 | 経済・金融フラッシュ |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年11月07日
フィリピン経済:24年7-9月期の成長率は前年同期比5.2%増~悪天候と輸出悪化により5四半期ぶりの低成長に -
2024年11月07日
低下する独仏経済の牽引力-政治の分断がブレーキに- -
2024年11月06日
情報伝達・取引推奨による内部者取引-東証職員によるインサイダー取引疑惑 -
2024年11月06日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その9)-カッシーニの卵形線・レムニスケート等- -
2024年11月06日
EUのAI規則(4/4-最終回)-イノベーション支援、ガバナンス、市販後モニタリング等
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【就業調整の現状と課題~賃金上昇が人手不足に拍車をかけるおそれ~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
就業調整の現状と課題~賃金上昇が人手不足に拍車をかけるおそれ~のレポート Topへ