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- 改正ベトナム保険事業法(8)-財産保険・ダメージ保険(その2)
2024年02月19日
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4――安全規則の遵守および被害の限定(55条・56条)
1|安全規則の遵守(55条)
保険事業法55条は、被保険者が保険事故を惹起しないための安全に関する規則を遵守すべき旨を規定した条文である。
(1) 被保険者は、被保険者の安全確保のための火災防止、消防、労働安全衛生その他の関連法令の規定を遵守しなければならない (同条1項)。
―保険法に同様の規定はない。ただし、法令違反が保険金を支払わない事由として約款で規定されているのが通例である11。
(2) 保険企業等は被保険者の安全性を確認するために状況確認をし、予防的措置及びリスク最小化の方策を適用するように推奨または要求することができる(同条2項)。
―保険法では同様の規定はない。ベトナム特有の規定である。
(3) 被保険者が安全措置を適用しない場合において、保険企業等は被保険者に対して措置適用期限を設けることができる。当該期間の終了時に安全措置が適用されなかった場合に保険企業等は保険料を増額するか、一方的に保険契約を解除することができる。
―上記(2)に該当する条文がないことから、本項(3)も保険法には存在しない。ただし、保険法における類似規定としては、告知を求めた事項に関して危険が増加したことにより、当初設定した保険料では不足するようになった場合においては保険料を増額できることを前提とし、増額で契約継続が可能であった場合でも、危険の増加を保険企業等に通知を行わなかった場合12には保険契約を解除することができる (29条)とするものがある。
11 前掲注3チューリッヒ約款3条1項参照。
12 危険増加を保険企業等に通知すべき規定を保険契約で約定していることが必要である。
保険事業法55条は、被保険者が保険事故を惹起しないための安全に関する規則を遵守すべき旨を規定した条文である。
(1) 被保険者は、被保険者の安全確保のための火災防止、消防、労働安全衛生その他の関連法令の規定を遵守しなければならない (同条1項)。
―保険法に同様の規定はない。ただし、法令違反が保険金を支払わない事由として約款で規定されているのが通例である11。
(2) 保険企業等は被保険者の安全性を確認するために状況確認をし、予防的措置及びリスク最小化の方策を適用するように推奨または要求することができる(同条2項)。
―保険法では同様の規定はない。ベトナム特有の規定である。
(3) 被保険者が安全措置を適用しない場合において、保険企業等は被保険者に対して措置適用期限を設けることができる。当該期間の終了時に安全措置が適用されなかった場合に保険企業等は保険料を増額するか、一方的に保険契約を解除することができる。
―上記(2)に該当する条文がないことから、本項(3)も保険法には存在しない。ただし、保険法における類似規定としては、告知を求めた事項に関して危険が増加したことにより、当初設定した保険料では不足するようになった場合においては保険料を増額できることを前提とし、増額で契約継続が可能であった場合でも、危険の増加を保険企業等に通知を行わなかった場合12には保険契約を解除することができる (29条)とするものがある。
11 前掲注3チューリッヒ約款3条1項参照。
12 危険増加を保険企業等に通知すべき規定を保険契約で約定していることが必要である。
2|保険対象物件放棄の禁止(56条)
保険事業法56条は、以下の通りである。
(1) 損害の発生時において、法律や当事者間の合意がある場合を除き被保険者は保険対象物件を放棄してはならず、損失を防止し、損害を最小化する必要な方策をとらなければならない。
―保険事業法56条の後半は保険法13条とほぼ同一内容である。保険法13条は保険契約者・被保険者の保険事故発生後の損害を防止し、かつ拡大を防止する義務を定めている。保険事業法56条の前半は保険法には存在しない保険事業法特有の規定である。
保険事業法56条は、以下の通りである。
(1) 損害の発生時において、法律や当事者間の合意がある場合を除き被保険者は保険対象物件を放棄してはならず、損失を防止し、損害を最小化する必要な方策をとらなければならない。
―保険事業法56条の後半は保険法13条とほぼ同一内容である。保険法13条は保険契約者・被保険者の保険事故発生後の損害を防止し、かつ拡大を防止する義務を定めている。保険事業法56条の前半は保険法には存在しない保険事業法特有の規定である。
5――おわりに
今回の解説範囲内で保険法と保険事業法との間でそこかしこで相違点は存在した。保険事業法で特徴的な点を挙げると以下の通りである。
一点目は代替品との交換による損害てん補を予定している点である(52条1項b))。保険企業等は原則として保険料を金銭で取得し、金銭で保険金を支払うのであって、代替品を手当てすることは想定しにくい。何か実務で例があるのかもしれないが、不明である。
二点目は被保険者サイドの安全措置適用を重視する姿勢である。保険企業等は損害発生防止のためにガイドラインを作成する(51条3項)こととされ、かつ保険企業等は安全規則・措置が適用されているかどうか調査し、改善を要求することができる(55条)というように、保険企業等が積極的に関与して事故発生・事故拡大を防止するように促している。
次回は責任保険を解説する。
一点目は代替品との交換による損害てん補を予定している点である(52条1項b))。保険企業等は原則として保険料を金銭で取得し、金銭で保険金を支払うのであって、代替品を手当てすることは想定しにくい。何か実務で例があるのかもしれないが、不明である。
二点目は被保険者サイドの安全措置適用を重視する姿勢である。保険企業等は損害発生防止のためにガイドラインを作成する(51条3項)こととされ、かつ保険企業等は安全規則・措置が適用されているかどうか調査し、改善を要求することができる(55条)というように、保険企業等が積極的に関与して事故発生・事故拡大を防止するように促している。
次回は責任保険を解説する。
(2024年02月19日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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