2024年02月07日

2024年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.323]

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(執筆時点:1月23日)

1―2024年年初の市場は大きく変動

2024年がスタートして3週間余りが経過したが、この間に金融市場では大幅な株高と円安が進行している。日本株(日経平均株価)は年初から3000円以上も上昇して、直近22日終値時点で36000円台半ばに達している[図表1]。
[図表1]日米の株価指数
また、昨年終盤に1ドル141円台まで円高ドル安が進んだドル円レートは年初に反転し、直近22日時点で148円台まで円安が進んでいる[図表2]。
[図表2]ドル円レートと日米長期金利差
一方、年初に0.6%台前半にあった日本の長期金利(10年国債利回り)は上下しつつ、直近22日時点では0.6%台半ばで推移している[図表3]。
[図表3]日米の10年国債利回り
年初に発生した震災の影響もあり、日銀による早期の金融政策正常化観測が後退したことが金利低下・円安・株高に作用した。また、株価については、日本企業の構造改革への期待や、半導体市場の底入れ期待も一定程度上昇に寄与した。低下が続いていた米長期金利の底入れやNISAの拡充に伴う海外証券への資金流入が円安を促し、株高へと波及した面もある。

2―2024年はどんな年?

このように、年初から動意付く形となったが、2024年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?今後の内外注目材料を点検してみる[図表4]。
[図表4]2024年の主なスケジュール(見込み)
(1)米国経済・物価情勢と利下げ
まず、今年の市場を展望するうえで最も注目されるのは、昨年の市場を大きく動かした米国の経済・物価情勢と金融政策の行方だ。

昨年は米国経済が堅調に推移するもとで、物価上昇率は低下傾向を辿ったものの、物価目標(2%)を明確に上回って推移してきた。こうした中、FRBは9月以降、実質的に利上げを停止し、今後の動向を見極める姿勢を維持している。

今年、既往の利上げ効果などから米景気が減速し、米国の物価上昇率が物価目標に向けて着実に低下していけば、FRBは段階的な利下げを開始することになる。利下げが現実味を帯びて市場で織り込まれるにつれて、米長期金利が低下し、日本の長期金利の抑制要因になる。ドル円にとっては、米金利低下に伴う日米金利差の縮小が円高ドル安要因になる。日本株にとっては、米景気減速と円高が逆風になる一方、米インフレ鈍化と利下げに伴う景気回復期待を受けた米株価の上昇が追い風になる。

ちなみに、米景気が減速に留まらず、急激に悪化する事態となれば、利下げペースが速まることで日本の長期金利への低下圧力と円高圧力がさらに強まることになる。米景気悪化と大幅な円高を受けて、日本株への下落圧力も強まるだろう。

一方、利上げの効果が足りず、物価上昇率の低下が遅れたり、再び上昇に向かったりする事態になれば、FRBは政策金利を高い水準で据え置かざるを得なくなる。この場合には、利下げの織り込み後退を通じて米金利が上昇するため、日本の長期金利には上昇、ドル円にはドル高、日本株には下落にそれぞれ働く可能性が高い。
(2)日銀による金融政策正常化 
国内に目を転じた場合に最も注目されるのが日銀による金融政策正常化の行方だ。日本の物価上昇率が物価目標の2%を大幅に上回る状況が長期化するなか、前回春闘での賃上げ率拡大や予想物価上昇率の上昇などを受けて、日銀は物価目標達成への自信を強めつつあり、YCCの撤廃やマイナス金利政策の解除といった正常化を視野に入れるようになっている。今後、「賃金と物価の好循環」が強まっていくかがポイントになる。

今年、日銀が金融緩和の正常化に舵を切れば、日本の金利には上昇圧力になり、ドル円にとっては日本の金利上昇等を通じて円高要因になるだろう。株価に対しては、金利上昇が追い風になる銀行株を除き、総じて抑制要因になると見られる。
(3)主要国における選挙の行方
また、今年は多くの主要国で国政選挙が行われるため、その行方も注目される。

なかでも、特に注目されるのが11月の米大統領選だ。足元では、現職のバイデン大統領とトランプ前大統領が対決する構図となる公算が高まっている。トランプ氏の政策の全容はまだ不明だが、仮に同氏が勝利した場合には、税・財政や対外政策、移民政策やエネルギー政策といった幅広い領域で現行政策の大幅な転換を目指す可能性が高い。

その際の市場への影響は現状では決め打ちしづらいが、政策の予見可能性が大幅に低下することは避けられそうもないため、市場が不安定化する可能性が高い。
(4)NISA拡充の影響
そして、最後の注目点はNISAの拡充となる。今年1月から、旧一般NISAに該当する「成長投資枠」の年間投資枠が旧制度比で2倍に、つみたてNISAに該当する「つみたて投資枠」の枠が3倍に引き上げられた。

既にこれに起因したマネーフローが生じているとみられるが、NISA拡充によって家計の投資が促進される場合には、当該投資マネーが国内株に向かえば直接的な日本株高圧力に、海外株に向かえば円安圧力になる(その場合は間接的に日本株にとってもプラスに働く)。

3―メインシナリオ

以上、今年の主な注目材料を列挙してきたが、最後に主な材料と市場の行方について、中心的なシナリオを考えたい。その際、最も重要な材料は昨年の市場動向を大きく左右した米国の経済・物価情勢と金融政策の行方と目される。

これまで、米国経済の堅調さを支えてきたコロナ禍での強制貯蓄は既に枯渇しており、コロナ禍で猶予されてきた学生ローンの返済も既に再開されている。既往の急速な利上げの効果も顕在化してくると考えられることから、今後の米経済は景気後退こそ避けられるものの減速に向かい、今年春にかけて低滞すると予想される。その後は、インフレ鈍化や利下げを受けて、景気が緩やかに持ち直すと見ている。

この間の物価上昇率は景気の減速などを通じて、緩やかな低下基調を辿り、FRBは年の半ばに利下げを開始、以降緩やかに利下げを継続すると見込んでいる。

日銀の金融政策については、24年春闘での高めの賃上げ実現を確認したうえで、4月に正常化へ舵を切ると見ている。その際には、YCCの撤廃とともに、マイナス金利政策を解除し、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。

ただし、日銀が大幅な金利上昇を促すほど経済・物価について自信を強めることは想定しづらいため、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留まるだろう。長期金利の上限目途や指値オペの枠組み、国債買入れは継続され、金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担うと想定している。

以上の想定を基に今年の今後の相場展開を考えると、まず、日本の長期金利は春に日銀の政策正常化に伴って上昇するものの、既述の通り、日銀は金利の抑制姿勢を続けるだろう。さらに、年半ばからのFRBによる利下げを受けて、米長期金利が低下に向かうことも日本の長期金利の抑制材料となる。水準としては、一時的に1%を超える場面も想定されるものの、年末にかけて1%を若干下回る水準を中心に推移すると予想している。

ドル円については、FRBによる段階的な利下げを主因として円高ドル安に向かうと予想している。ただし、FF金利先物市場では、足元において既に今年の利下げが5~6回(1回当たり0.25%換算)も実施されることを前のめり的に織り込んでいるため(12月FOMCでは3回の利下げが示唆されていた)、当面はドルが高止まりしやすいうえ、一時的には過度の利下げ観測の後退に伴うドル高も想定される。その後春以降は、利下げの現実味が高まるにつれてドルが緩やかに下落していくイメージだ。利下げ開始後も先々の利下げを織り込む形で米長期金利の低下が進み、緩やかな円高ドル安基調が続くと見ている。なお、日銀が金融政策の正常化に舵を切ることも円高要因になるものの、既述の通り、日銀は金利の抑制姿勢を続けると見られるため、影響は限定的になる。一方、NISA拡充に伴う海外への資金フローは円高の勢いを一定程度抑え続けるだろう。これらの結果、年末の水準は1ドル136円前後になると見込んでいる。

最後に、日本株については、遠からず一旦下落する可能性が高いと見ている。年初の急上昇で割安感がなくなったうえ、FRBが政策金利を高水準で維持するなか、米景気の減速感が顕在化してくるためだ。春以降は米国の段階的な利下げ織り込みに伴う米株上昇が追い風になるが、円高と日銀の金融政策正常化が株価の重石になる。現時点では、年末の日経平均株価は35000円台と予想している。

以上が中心的なシナリオとなるが、主要国での選挙や米景気・物価の先行きなどを巡り、不確実性が高い点は否めない。今年もリスクを綿密に点検していく姿勢が重要になるだろう。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年02月07日「基礎研マンスリー」)

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