2024年02月07日

東京オフィス市場は賃料が下げ止まり。宿泊需要はコロナ禍前を上回る-不動産クォータリー・レビュー2023年第4四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

文字サイズ

(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第3四半期は前年比でシングルタイプが+3.1%、コンパクトタイプが+4.3%、ファミリータイプが+3.2%と、全ての住居タイプで前年比プラスとなった。(図表-12)。
図表-12 東京23区のマンション賃料
また、LMC社によると、都心5区のマンション募集賃料(12月末時点、前年比)を区別にみると、渋谷区(+8.8%)、港区(+5.6%)、中央区(+3.5%)、新宿区(+3.3%)、千代田区(+2.0%)となり、上昇基調が続いている(図表-13)。
図表-13 東京都心5区のマンション賃料(区別)
住民基本台帳人口移動報告によると、2023年10-12月の東京23区の転入超過数は+1,691人、2023年通年では+53,899人と、2019年(+ 64,176人)対比84%の水準まで回復した(図表-14)。
図表-14 東京23区の転入超過数(月次累計値)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費や高額消費が好調な百貨店を中心に売上が増加している。商業動態統計などによると、2023年10-12月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.5%、コンビニエンスストアが+2.1%、スーパーが+2.2%となった(図表-15)。12月単月では、百貨店が+5.8%(22カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+4.2%(22カ月連続プラス)、スーパーが+1.1%(15カ月連続プラス)となっている。
図表-15 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場は、旺盛なインバウンド需要に牽引されて宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回った。宿泊旅行統計調査によると、2023年10-12月累計の延べ宿泊者数は2019年同期比+7.7%となり、このうち日本人が+3.0%、外国人が+27.3%となった(図表-16)。また、STR社によると、12月のホテルRevPARは2019年対比で全国が+33.7%、東京が+37.1%、大阪が+48.3%となった。
図表-16 延べ宿泊者数の推移(2019年同月比)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率の上昇が続いている。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2023年12月末)は9.3%(前期比+0.4%)となった(図表-17)。今期は、新規供給が10.4万坪(前期23.4万坪)と減少したものの、新規需要が7.3万坪と過去2年で最も低い水準となったことで、空室率が上昇した。近畿圏についても空室率は6.0%(前期比+1.5%)に上昇した。

また、一五不動産情報サービスによると、2023年10月の東京圏の募集賃料は4,600円/月坪(前期比+1.8%)に上昇した。
図表-17 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4.J -REIT(不動産投信)市場

4.J -REIT(不動産投信)市場

2023年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は9月末比▲2.8%下落した。業種別指数では、オフィスが▲2.9%、住宅が▲6.6%、商業・物流等が▲1.8%の下落となった(図表-18)。日本銀行の金融政策修正の影響を見極めるべく、投資家の様子見姿勢が強まるなか、需給面ではJ-REIT特化型投信からの資金流出がマイナスに寄与した。12月末時点のバリュエーションは、純資産11.8兆円に保有物件の含み益5.4兆円を加えた17.2兆円に対して時価総額は15.4兆円でNAV倍率5は0.89倍、分配金利回りは4.3%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.7%となっている。
図表-18 東証REIT指数の推移(2022年12月末=100)
J-REITによる第4四半期の物件取得額(引渡しベース)は1,986億円(前年同期比▲34%)、2023年累計では1兆1,043億円(前年比+25%)となり、2年ぶりに1兆円の大台を超えた。アセットタイプ別の取得割合は、オフィスビル(33%)・物流施設(22%)・ホテル(19%)・住宅(16%)・商業施設(7%)・底地ほか(2%)となり、インバウンド需要の回復を背景にホテルの比率(2%→19%)が高まる一方で、前年トップを占めた物流施設の比率(38%→22%)が大きく低下した(図表-19)。
図表-19  J-REITによるアセットタイプ別取得割合
2023年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲4.6%となり2年連続で下落した(図表-20)。日銀の緩和政策修正を見据えた長期金利の先高観が重くのしかかり、年間を通じて弱含みで推移。平成バブル以来33年ぶりの高値を付けて活況を呈した株式市場(+25.1%上昇)とは対照的に、停滞色の強い1年であった。市場規模については、2年連続で新規上場がなく、2件の合併によって上場銘柄数は61社から58社に、市場時価総額は15.4兆円(前年比▲3%)に減少した。一方、運用資産額(取得額ベース)は物件取得額の回復を受けて22.8兆円(前年比+4%)に増加した。続いて、業績面では、ホテル収益の回復や不動産売却益の計上が寄与し、市場全体の1口当たり予想分配金は前年比+5%増加し、1口当たりNAVも保有不動産の価格上昇を反映して+2%増加した。また、投資法人債の発行金額は625億円(前年比▲9%)となり前年に続いて減少した。市場金利が上昇するなか、発行期間(平均7.0年→5.8年)を短縮することで利率の上昇(平均0.53%→0.81%)を抑制し財務への影響を軽減する動きがみられた。
図表-20 2023年のJ-REIT市場(まとめ) 
 
5 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2024年02月07日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【東京オフィス市場は賃料が下げ止まり。宿泊需要はコロナ禍前を上回る-不動産クォータリー・レビュー2023年第4四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

東京オフィス市場は賃料が下げ止まり。宿泊需要はコロナ禍前を上回る-不動産クォータリー・レビュー2023年第4四半期のレポート Topへ