コラム
2024年01月30日

天気予報の効用-天気予報はどういうときに役に立つか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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◇ 予報の適中率が下がると予報の効用が失われることもある

次に、予報の適中率が下がった場合を見てみよう。基本ケースに対して、適中率が10ポイント下がって、70%になったとしよう。他の条件はそのままにして、計算すると、次のようになる。
(4) 予報の適中率が70%に低下
この場合、①は1000円、②は500円、③は550円となる。③が②を上回っており、天気予報の効用はないことになる。これは、適中率が低い天気予報に頼るくらいならば、常に対策をとったほうがよい、という結果だ。

◇ 予報が降水なしに偏っていると予報の効用がなくなることもある

つづいて、予報が降水なしに偏っていた場合はどうか。降水予報確率が36%に下がったとしよう。適中率は基本ケースと同じ80%のままで、他の条件もそのままにして計算すると、次のようになる。
(5) 予報が降水なしに偏っていた場合
この場合、①は1000円、②は500円、③は520円となる。③が②を上回っており、天気予報の効用はないことになる。適中率は高くても偏っている予報に頼ると、常に対策をとる場合よりも大きな費用や損失が発生することになる、という結果だ。

◇ 1回当たりの対策費が小さい場合には予報の効用がなくなることがある

1回当たり対策費について条件を変えてみよう。1回当たり対策費が基本ケースの10分の1、つまり50円だったとしよう。他の条件は基本ケースのままにして計算すると、次のようになる。
降水の有無に関する表 (… 基本ケースと同じ)
この場合、①は1000円、②は50円、③は225円となる。③が②を上回っており、天気予報の効用はないことになる。1回当たり対策費が少額になると、予報に頼るよりも、常に対策をとってしまったほうが費用や損失が小さくなる、という結果だ。

◇ 対策をしないで降水があった場合の損失が大きい場合には予報の効用がなくなることがある

さらに、対策をしないで降水があった場合の損失について条件を変えてみよう。対策なしで降水ありの損失を基本ケースの10倍、つまり20000円とする。他の条件は基本ケースのままにして計算すると、次のようになる。
降水の有無に関する表 (… 基本ケースと同じ)
この場合、①は6000円、②は500円、③は1390円となる。③が②を上回っており、天気予報の効用はないことになる。対策をしないで降水があった場合の損失が大きい場合、予報に頼るよりも、常に対策をとってしまったほうが費用や損失が小さくなる、という結果だ。
 
以上、モデルを用いて、いくつかのケースをみていった。
 
天気予報は、上手に用いればその効用を得ることができる。しかし、使い方を誤ると、無用な費用がかかったり、予報が外れた場合の損失が発生したりして、効用が失われることもある。
 
天気予報をスマートに利用するにはどうすべきか、日々考えていくべきといえるだろう。

(参考文献)

「過去の気象データ・ダウンロード」(気象庁HP)
https://www.data.jma.go.jp/risk/obsdl/index.php
 
「天気予報の精度検証結果」(気象庁ホームページ)
https://www.data.jma.go.jp/yoho/kensho/yohohyoka_top.html
 
「数値予報研修テキストで用いた表記と統計的検証に用いる代表的な指標」(数値予報解説資料(数値予報研修テキスト), 第52巻(令和元年度)最近の数値予報システムとガイダンスの改良について, 付録D, 気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwptext/52/Appendix_D.pdf
 
「気象統計」高橋浩一郎著(氣象学講座 第8巻, 地人書館, 1956年)

(参考)  天気予報の効用があるために、適中率Aが満たすべき条件
 
 
(①-③について)
 
①-③=(a×(L-E) -b×E)/n
=(a×(L-E)-(F×n-a)×E)/n
=(F×n×(L-E)-(F×n-a)×L)/n
=(F×n×(L-E)-(-A-R+F+1)/2×n×L)/n
=(F×(L-E)-(-A-R+F+1)/2×L > 0
 
よって、
①>③ ⇔ A/2×L > - F×(L-E)+(-R+F+1)/2×L
⇔ A > -2/L× F×(L-E)+(-R+F+1)
⇔ A > (-R+F+1)-2×F×(1-E/L)
⇔ A > 1 - R - (1-2×E/L)×F
 
 
(②-③について)
 
②-③=(c×(E-L)+d×E)/n
=((R×n-a)×(E-L)+d×E)/n
=(-(R×n-a)×L+(R×n-a+d)×E)/n
=(-(-A+R-F+1)/2×n×L+(1-F)×n×E)/n
=-(-A+R-F+1)/2×L+(1-F)×E > 0
 
よって、
②>③ ⇔ A/2×L > - (1-F)×E+(R-F+1)/2×L
⇔ A > -2/L×(1-F)×E+(R-F+1)
⇔ A > (1+R-F)-2×(1-F)×E/L
⇔ A > (1-2×E/L) + R - (1-2×E/L)×F
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2024年01月30日「研究員の眼」)

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