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良好な景況感が継続。価格ピーク時期に対する見解はやや後ろ倒しに。~期待はホテルと産業関係施設(データセンターなど)。リスク要因として、建築コストと米国政治・外交への関心が高まる~第20回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア」について質問したところ、「東京都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)」(59%)との回答が最も多く、次いで「福岡市」(20%)、「札幌市」(14%)、「東京都区部(都心5区を除く)」(11%)との回答が多かった(図表-6)。
ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、日本の「収益不動産(約289.5兆円)」の約4割が東京都に集積しており、市場規模の観点から投資エリアとしての優位性は高い3。しかし、「都心5区」の順位は首位を維持した一方、「東京都区部(都心5区を除く)」は4位に後退しており、東京の中でエリアによる選別が進んでいる可能性がある。
また、地方都市では、「福岡市」(2021年13%→2024年20%)と「札幌市」(同2%→14%)の回答が増加している。これらの市では、容積率緩和等で築年数が経過したオフィスビルの建て替えを促す施策4を背景に、大規模開発が進行中である。また、圏域内で半導体関連投資が拡大しており5、期待が高まっているものと考えられる。
3 吉田資・室 剛朗・藤野 玲於奈『わが国の不動産投資市場規模(2023年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年7月18日)
4 福岡市では、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネティッドボーナス」が進行中である。また、札幌市は、都心部を対象地域とした「都心における開発誘導方針」等を策定し、容積緩和やビルの建て替えに関する補助制度を整備している。
5 九州地方では、半導体関連の設備投資や企業進出が増加しており、それに伴い福岡市でオフィス開設等の動きがみられる。また、札幌市は、2023年2月に近隣の千歳市で半導体メーカー「ラピダス」の工場設立を発表され、不動産需要の高まりが期待されている。
(1) 概況
「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「建築コスト」(68%)との回答が最も多く、次いで、「国内金利」(59%)、「欧米経済」(27%)との回答が多かった (図表-7)。
「建築コスト」に関して、資材価格の高騰や労務費の上昇などにより、建築費指数6は「事務所」で前年比+5%、「住宅」で前年比+6%と上昇が続いており、建築コストの上昇リスクが強く意識されているようだ。
「国内金利」に関して、日本銀行は、今年1月の金融政策決定会合で、金融緩和政策の現状維持を決定した。ニッセイ基礎研究所は、今年春にも長短金利操作(YCC)の撤廃とマイナス金利の解除が行われて金融政策の正常化が進むと予想している7。今後、金融政策の変更等に伴う金利上昇が想定され、不動産投資市場への影響が懸念されている。
6 建築物価調査会「建築費指数」(2023年12月)
7 上野剛志『2024年はどんな年?金融市場のテーマと展望』(ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター、2023年12月1日)
前回調査から回答割合が10%以上増加したリスク要因は、「建築コスト」(40%→68%)と「米国政治・外交」(4%→22%)であった(図表-8)。
「米国政治・外交」に関して、今年11月の大統領選挙に向けて、米国の政治的分断が一層深まる可能性がある8との指摘がある。こうした米国内の対立が、グローバル経済などに影響を及ぼす懸念もあり、不動産投資市場のリスク要因として指摘する回答が増えていると推察される。
一方、前回調査から回答割合が10%以上減少したリスク要因は、「国内景気」(39%→17%)と「地政学リスク(ウクライナ情勢、中東情勢など)」(25%→15%)であった(図表-8)。
「国内景気」に関して、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(2023年12月調査)によれば、「大企業の業況判断DI」は、製造業で3四半期連続改善の「+12」、非製造業で7四半期連続改善の「+30」と景況感の改善を示す結果となっており、「国内景気」への懸念が後退したものと考えられる。
8 日本貿易振興機構「米調査会社、2024年の10大リスク発表、最大リスクは米国の政治的分断」ビジネス短信、2024年1月10日
「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2023年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(35%)との回答が最も多く、次いで「2024年」(30%)、「2025年」(25%)との回答が多かった(図表-9)。
前回調査では、「2023年」(43%)との回答が最も多く、次いで「2022年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(39%)との回答が多く、2023年中にピークアウトするとの見方が約8割を占めていた。
日本不動産研究所「不動産投資家調査(2023年10月時点)」によると、投資家が東京の不動産に期待する利回りは、オフィスが3.2%(前年比±0.0%)、住宅が3.8%(同▲0.1%)に低下した。また、日経不動産マーケット情報の集計によると、2023年の不動産取引額は前年比+4%増加の3兆5,724億円となり、不動産投資市場は堅調に推移した。
以上の情勢を鑑みて、価格のピーク時期に対する見解がやや後ろ倒ししたものと考えられる。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年01月30日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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