2024年01月30日

良好な景況感が継続。価格ピーク時期に対する見解はやや後ろ倒しに。~期待はホテルと産業関係施設(データセンターなど)。リスク要因として、建築コストと米国政治・外交への関心が高まる~第20回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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アンケートの概要

株式会社ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、2004年より不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」を実施している。本アンケートは、今回で20回目となり111名から回答を得た。
 

- 調査対象;不動産・建設、商社、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産鑑定、
  不動産ファンド運用、不動産投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版、
  不動産に関連する格付、などに携わる実務家および専門家。
- アンケート送付数;200名
- 回答者数;111名(回収率;55.5%)
- 調査時期;2024年1月17日から1月23日
- 調査方法;Eメールによる調査票の送付・回収


アンケート回答者の属性(所属先内訳)は、「不動産仲介・管理・鑑定」(23%)が最も多く、次いで、「不動産・建設・商社」(21%)、「不動産ファンド運用・不動産投資顧問」(19%)、「金融・保険」(19%)、「その他不動産関連サービス(不動産調査・研究・出版、不動産に関する格付など)」(18%)、であった。回答者の属性に大きな偏りは見られず、本アンケートは不動産市況の実態に関して、属性による偏りを概ね排除していると考えられる。
 
[アンケート回答者の属性(所属先内訳)]

アンケートの結果

アンケートの結果

1.不動産投資市場の景況感
(1) 現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約6割、「平常・普通」が約3割、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が約1割となった(図表-1)。前回調査(2023年初)から大きな変化はなく、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が半数以上を占める結果となった。
図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感
(2) 6ヵ月後の景況見通し
「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が約6割、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が約2割、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が約2割を占めた(図表-2)。

前回調査では、「変わらない」との回答が約5割、「好転」との回答が約1割、「悪化」との回答が約4割を占めたが、今回は「好転」と「変わらない」が増加、「悪化」が減少した。
図表-2 不動産投資市場全体の6ヶ月後の景況見通し
この結果、「景況見通しDI1」は、前年調査の▲29.3%から▲1.8%へとマイナス幅が大幅に縮小し、悲観的な見方が弱まった(図表-3)。
図表-3 「景況見通しDI」(6ヶ月後)
 
1 「景況見通しDI」の算出式;(「やや良くなる」+「良くなる」)-(「やや悪くなる」+「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]
2.投資セクター選好
(1) 概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「ホテル」(65%)との回答が最も多く、次いで「産業関係施設(データセンターなど)」(52%)、「賃貸マンション」(41%)との回答が多かった(図表-4)。

「ホテル」に関して、アフターコロナにおける行動制限解除などを受けて、宿泊需要が急速に回復している。日本政府観光局によると、2023年の訪日外客数は約2,500万人とコロナ禍前の8割程度まで回復しており、ホテルへの関心が高まっている。

「産業関連施設」に含まれるデータセンターは、各種クラウドやAI、動画等のコンテンツ配信等を支える基盤であり、社会インフラとしての重要度が増している。経済産業省資料2では、「我が国のデータセンター市場は、コンテンツ配信やクラウド化の進展等の旺盛な需要を背景とし、ハイパースケールデータセンターが市場拡大を牽引しており、今後もこの傾向が続く見込み」としており、データセンター投資への関心が高まっている。

一方、「アウトレットモール」(2%)、「郊外型ショッピングセンター」(1%)を期待する回答は、下位に留まった。
 図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(上位3つまで回答)
 
2 経済産業省・総務省「デジタルインフラ(DC 等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ 2.0」(2023年5月)
(2) 前回調査との比較 [期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、「ホテル」(45%→65%)、「産業関係施設(データセンターなど)」(36%→52%)であった。一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター(期待が後退した投資セクター)は、「物流施設」(38%→23%)であった(図表-5)。
図表-5 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(前回調査との比較)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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