2024年01月19日

マンションと大規模修繕(5)~住民の高齢化と2回目大規模修繕時の年齢構成

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

文字サイズ

1.マンションには2つの老いがある

マンションには「経年劣化による建物の老い」と、「区分所有者の高齢化」の2つの老いがある。この2つは切っても切り離せない。なぜなら新築マンションの入居者は同様な世代であることが多く、多くのケースは長期間住む予定で購入している。年月が流れ、住民が高齢になり、高齢者がそのマンションに永住するつもりであると、費用をかけてまで建物を改善する動機に乏しくなる。そうすると、現状維持で良いと考える人が多くなり、建物が老朽化しやすいからである。

国土交通省の平成30年度「マンション総合調査」によると、マンション居住者の永住意識は高まっており、62.8%が「永住するつもりである」と回答した。また、建物経年が古いほど、マンション所有者に占める世帯主の年齢が70歳以上の住戸の割合が高く、築10年未満で5.1%、築10年以上20年未満で12.4%、築20年以上30年未満で21.9%、築30年以上40年未満で37.6%、築40年以上で47.2%となった(図表1)。マンションの築年が経過すれば、マンション所有者も高齢化する。高齢化は全てのマンションに共通する問題である。
図表1 世帯主が70歳以上の住戸の割合

2.現在、新築のマンションはどの程度高齢化していくのか

2.現在、新築のマンションはどの程度高齢化していくのか

しかしながら、新築マンションを買ったばかりの人は、マンションの高齢化についてイメージを持ちにくいかもしれない。では、外壁の修繕やエレベーターの取り換え等、費用支出が大きく重要な意思決定が必要となる2回目の大規模修繕時の住民の年齢構成はどうなるだろうか。マンションが新築時点で全戸販売された後、一部の住戸は中古マンションとして売却されると考えられるため、(1)新築時点の所有者の年齢、(2)売却された住戸を購入した新たな所有者(中古マンションの購入者)の年齢、(3)一部の住戸が中古マンションとして売却される時期、(4)中古マンションとして売却される一部の住戸の割合から概算する。

(1) 新築時点の所有者の年齢
国土交通省「令和4年 住宅市場動向調査」1によると、2022年度の新築マンション購入者の年齢は平均44.8歳、年代別の内訳は30歳未満の人が7.3%、30代が35.4%、40代が24.3%、50代が12.2%、60歳以上が18.1%、無回答が2.8% 、平均は44.8歳であった。2010年度は若年層が比較的多かったが、2014年頃から安定推移しており(図表2)、2022年度の割合を採用する。

(2) 売却された住戸を購入した新たな所有者(中古マンションの購入者)の年齢
前述(1)の調査によると、2022年度の中古マンションの購入者の年齢は平均47.4歳、年代別の内訳は30歳未満の人が6.3%、30代が28.2%、40代が29.6%、50代16.9%、60歳以上が16.9%、無回答が2.0%、平均は46.3歳であった2。2013年頃から比較的安定して推移している(図表3)。こちらも最新の2022年度の数値を採用する。
図表2 世帯主の年齢層(購入された新築マンション)/図表3 世帯主の年齢層(購入された中古マンション)
(3) 一部の住戸が売却される時期
東日本不動産流通機構によると、中古マンションの成約物件の築年数は年々長期化傾向にあり 、2023年平均は23.8年である。つまり、平均的なマンション住民の入れ替え時期は24年程度と考えられる。

(4) 売却される一部の住戸の割合
各年の首都圏中古マンション成約件数を分子、同年から24年前の首都圏新築マンションの発売戸数を分母とし、首都圏のマンションの入替率を概算する。2023年は21.4%(前年から▲4.9%)、過去20年平均は29.4%、過去10年平均は28.5%、直近5年平均は23.2%となった(図表4)。ただし中古マンションの在庫は増加しており3、入替率は低下傾向である。将来の入れ替え率は現在よりも低くなると予想され、20%程度が妥当と考える。


(5) 2回目の大規模修繕時の所有者の年齢構成の予想
大規模修繕は12年毎に推奨され、2回目は築24年頃である。マンション住民の入替時期(取引が成立した中古マンションの築年数)も平均的に築24年である。一方、大規模修繕工事は実施より2、3年前から話し合いを始める必要がある。マンション購入時の年齢構成は10歳単位のため、きりよく築20年目に所有者が新築時から20%が入れ替わった状態で4年後の大規模修繕工事の話し合うと想定し、その際のマンション所有者年齢構成を考える。

すると、マンション所有者の年齢、年代別の内訳は30歳未満の人が1.3%、30代が5.8%、40代が12.0%、50代が32.6%、60代が23.4%、70代が10.0%、80歳以上が14.9%、平均は約61歳となった(図表5)。2回目の大規模修繕時には60代以上の人が半分程度という試算になる。
図表4 新築マンションの所有者入替わり率(暦年)/図表5 大規模修繕2回目時のマンション住民の年齢構成
 
1 調査対象マンションの地域別構成比は、北海道が5.3%、東北が10.7%、関東が26.1%(うち東京圏は21.4%)、北陸・中部が17.7%、近畿が17.2%(うち京阪神圏は13.2%)、中国・四国が12.9%、九州・沖縄が8.2%
2 計算には、標記のうち無回答はないものとして全体を100%に修正した割合を用いる。
3 渡邊布味子『首都圏中古マンション市場の動向(2023年11月)~お手頃価格の中古マンションを見つけるのは困難に』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2023年12月21日)

3.所有者の高齢化が進む前に、大規模修繕実施の合意形成を

3.所有者の高齢化が進む前に、大規模修繕実施の合意形成を

以上のように、所有者の高齢化は築年の経過よりも少し遅れて進むと推定されるが、高齢化と老朽化が同時に進むことには違いない。また、図表1との今回の結果を比べると、同じ築年のマンションでも将来時点の計測では高齢化が進むことになりそうだ。一般的にマンションの立地は、各都市・エリアの中でも人口が集中して住宅需要が強く、地域の特性が類似している。この結果に当てはまるマンションは多いのではないだろうか。

多額の費用が掛かる大規模修繕は、そのマンションを長く使い続ける予定の人のほうが、購入当初は費用を支出する動機を持ちやすい。しかし、24年目の大規模修繕2回目の時期になればなんとかなると考えて議論を先送りすると、実際の工事時期には実施そのものが現状維持を希望する一部の高齢の所有者によって、大規模修繕計画等が反対されてしまうかもしれない。

マンションは一つのコミュニティであり、住民同士の対立が続けば住みやすさは損なわれる。そうなる前、マンションの築年が浅い時期から、住民間の合意形成を容易にする環境を作り、大規模修繕実施への意識を高めことは重要である。可能であれば、事前に大規模修繕工事の発注・業者選定のルールを決めておくと、よりスムーズに合意形成が進むのではないだろうか。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2024年01月19日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【マンションと大規模修繕(5)~住民の高齢化と2回目大規模修繕時の年齢構成】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

マンションと大規模修繕(5)~住民の高齢化と2回目大規模修繕時の年齢構成のレポート Topへ