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気候変動と死亡数の関係-2022年データで回帰式を更新し、併せて改良を図ってみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――実績と回帰計算結果の比較
1|死亡数 : 回帰計算結果は、死亡数実績を概ね再現できている
まず、全体の死亡数の推移をもとに、過去の実績の再現がどの程度できているか、を見ていく。
回帰計算によって得られた死亡率をもとに、死亡数を計算する。その上で、男性・女性・男女計の各地域区分ごとおよび日本全国について、死亡数の過去の実績と回帰計算の結果を比較してみると、 (別紙)図表(PDF)22~27ページの「死亡数 実績・回帰比較」のとおりとなった。
各地域とも、長期的には、死亡数の実績と回帰計算の結果は、緩やかな右肩上がり示している。2010年代以降の各年について、概ね、両者は近接している。ただし、2022年の日本全体(男女計)は、実績156.8万人に対して回帰計算結果149.5万人(対実績 -4.7%)と乖離が発生している。これは、コロナ禍による死亡数の増加が、回帰モデルでは再現できなかったためと考えられる。コロナ禍や大震災の影響を除けば、回帰計算結果は、死亡数実績を概ね再現できていると言える。
なお、前回のレポートで見られた、「近年、男性は回帰が実績をやや上回り、反対に、女性は回帰が実績をやや下回っている」との傾向は、今回は生じていない。これは、回帰式の入力データを全期間ではなく、2009-10, 12-19年の10年分に限定したことにより、男性に多い新生物の改善や、女性で増えている異常無(老衰等)といった近年の傾向が、回帰式に反映されているためと見られる。
前回のレポートと今回のレポートの比較を行った結果は、下表の通りとなった。今回は、2009-10, 12-19年 の10年分の死亡数実績との差が、前回に比べて、大幅に縮小していることがうかがえる。
つぎに死亡率の推移を見てみる。男性・女性80-84歳について、死因別に全国の実績と回帰結果の比較をすると、以下の図表のとおりとなった。(0~4歳、40~44歳、80~84歳の年齢群団の死因別、地域区分の比較は、 (別紙)図表(PDF) 28~99ページの「死亡率 実績・回帰比較」に掲載。)
今回の計算の大きな変更点として、回帰式の学習データを2009-10, 12-19年の10年間として、大震災やコロナ禍の影響を除外した、最近の気候変動と死亡率の関係をもとに回帰計算を行っていることが挙げられる。これにより、最近の死亡率の再現性を高めて、将来の推測に役立てる目的がある。
実績と回帰の死亡率を比較すると、死因によっては、2000年代まで大きく乖離している場合もある。しかし、2010年代以降の近年では、両者は近接して推移している。近年については、回帰計算の再現性が確保できているものとみられる。以下では、2010年代以降の比較について見ていく。
(2) 男女別
男女別に見たときに、実績死亡率の再現に大きな差異は見い出せない。前回のレポートでは、男性や、関東甲信、東海、近畿の女性では、新生物の実績死亡率の低下が再現できていなかったが、今回はこの点の改善がみられる。また、男性や、北海道、関東甲信の女性では呼吸器系疾患の実績死亡率の低下が再現できていなかったが、今回はこの点も改良されている。
(3) 年齢群団別
若齢(0~4歳)、中齢(40~44歳)、高齢(80~84歳)のいずれも、概ね実績死亡率が再現できている。
なお、0~4歳、40~44歳の異常無(老衰等)の実績に示されているように、同死因は、1979~94年において中齢以下の実績データがゼロで、回帰計算結果との乖離している。今回、回帰式の入力データを全期間ではなく、2009-10, 12-19年の10年分に限定したことにより、その影響を受けずに回帰計算が行われる形となっている。
(4) 死因別
死因別には、どの死因も再現が比較的よくできている。
前回のレポートでは、新生物で、男性や関東甲信、東海の女性に見られる実績死亡率の低下が再現できていなかった。今回はこの低下が表現できている。循環器系疾患については、男女、各地域とも、よく再現できている。呼吸器系疾患で、前回は、男性や、北海道、関東甲信の女性に見られる呼吸器系疾患の実績死亡率の低下が再現できていなかった。今回は、この低下も表現できている。
一方、前回は異常無(老衰等)については、上昇傾向が表現できていなかったが、今回は、これも再現できている。なお、外因(熱中症含)の実績については、基本的には再現できているが、2011年の東日本大震災の跳ね上がりについては表現できていない。8さらに、その他の死因については、基本的には再現できているが、2020年以降のコロナ禍による死亡率の変動については表現できていない。
8 大震災発生時の実績死亡率は、各地域区分で跳ね上がりが生じている。これは、月別の死亡数の計算の際に、人口動態統計下巻第3表から得られる日本全国の数値をもとに、当該月の割合を掛け算していることに起因している。大震災のあった年には、死亡数が多かった震災から数ヵ月間に死亡が偏るような形で、按分処理をしているためである。年間を通じてみれば、死亡数や死亡率は実績とほぼ一致している。
地域区分別には、北海道から沖縄まで、概ね再現ができている。
総じて、回帰計算結果は、死亡率実績も概ね再現できていると言える。
つづいて、得られた回帰式における気候指数の影響を確認しておく。一般に、回帰式の各説明変数の係数が大きければ、それだけその変数が変化した場合の目的変数の変化も大きいこととなる。ただし、回帰式の各説明変数の単位が異なるため、係数をそのまま比較しても意味をなさない。
そこで、各回帰式ごとに、係数を標準化9して比較可能とする。(標準化した後の変数は、「標準偏回帰係数」と呼ばれる。) その上で、気候指数の標準偏回帰係数の和の絶対値を分子に、その数値と時間項の標準偏回帰係数の絶対値と各ダミー変数の標準偏回帰係数の絶対値の和を分母にとる。そして、その分数の値を、気候指数が死亡率に与える影響割合とみなすこととした。10
回帰式は全部で504本あり、この影響割合の値はその本数の数だけ得られる。(各影響割合は、 (別紙)図表(PDF) 102~129ページの「回帰計算結果」に記載。) 2018~22年の死亡数の実績をもとに、この割合の値を加重平均した。
その結果、男性は2.0%、女性は1.9%となり、男性のほうが女性よりも気候指数の影響割合がやや大きかった。男女計で見ると、気候指数の影響割合は1.9%となった。気候指数の影響割合は、2%程度とみられる。
9 標準化は、係数に、当該説明変数の標準偏差を掛け算し、目的変数の標準偏差で割り算して行う。
10 今回は、説明変数間の相関関係を考慮せずに簡易な計算を行った。
(2024年01月18日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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