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気候変動と死亡数の関係-2022年データで回帰式を更新し、併せて改良を図ってみると…
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
3――関係式のまとめ
1|関係式は、504本の回帰式とする
関係式は、死亡数と人口のデータをもとに死亡率(目的変数)を求めて左辺に置き、これを右辺の気候指数(説明変数)を用いて回帰計算する手法で、回帰式として導出する。回帰式は、性別(2つ)、年齢群団(21個)、死因(6つ)、暑熱期とそれ以外の時期(2つ)ごとに設定し、全部で504本作成する。
2|死亡率は、性別、年齢群団、死因、地域区分、月別に設定
死亡率の分子の死亡数のデータには、「人口動態統計」(厚生労働省)を用いる。一方、分母の人口のデータには、「国勢調査」「人口推計」(いずれも総務省)を用いる。性別、年齢群団、死因、地域区分、月別のデータとなるよう、適宜、按分処理等のデータ補整を行う。なお、傷病ごとの死因分類の詳細については、別紙図表を参照いただきたい。
回帰式の設定に用いる死亡率は、2009-10, 12-19年の10年分のデータとする。
3|気候指数は、全国を11の地域区分に分けて設定する
気候指数は、気象庁の気候区分をもとに作成する。ただし奄美については、九州南部と合わせた「九州南部・奄美」の地域区分とする。その結果、日本全国を11の地域区分に分けて設定する。
なお、極端な気象現象が死亡率に影響を及ぼすまでのタイムラグは生じないものと想定する。
4|回帰式にはロジット変換や対数変換を組み入れる
死亡率はロジット変換、気候指数は対数変換を施したうえで、回帰計算を行う。
ロジット変換は、0~1の範囲で値をとる確率を、実数全体に引き延ばす。一方、逆変換は、実数全体を値域として得られた回帰計算の結果を、0~1の範囲で値をとる確率に変換する。一般に、ロジット変換では、確率が0.5近辺の場合、精度が下がるとされる。今回は、死亡率を回帰するもので、その値は、通常、0.5よりもはるかに小さいことから、変換による精度の低下は限定的と考えられる。
気候指数は負値の場合もありうる。その場合は、そのまま自然対数をとることはできない。そこで、ある定数Cをすべての気候指数に足し算して負値を解消したうえで、自然対数をとることとする。3 具体的には、過去の気候指数の推移を踏まえて、安全な水準として、C=10と置くこととした。
3 1971年1月~2021年12月の月ごとの気候指数を見ていったところ、最小値は、1977年5月に北陸で記録された海面水位指数 -3.142。最大値は、2012年9月に北海道で記録された高温指数5.709であった。負値の解消ということであれば、Cを3.142を上回る定数として設定すればよいこととなる。ただし、今後の変動が過去の変動範囲におさまるという保証はない。
ダミー変数については、地域区分と月の2種類のものを用いることとする。
地域区分については、11の区分であるため、10個のダミー変数を用いることとなる。一方、月については、暑熱期は4個。それ以外の時期は6個のダミー変数を用いる形となる。
6|高温と低温の指数については、2乗の項も用いる
高温と低温の指数については、線形回帰4をやめて、2乗の項も導入する。この取り扱いは、温暖化の健康影響に関する先行研究を踏まえたものである。
2014年に公表された環境省の研究費用を用いた研究の報告書5に掲載されている「温暖化の健康影響 -評価法の精緻化と対応策の構築-」という報告では、「至適気温」と、それを踏まえた回帰式の立式について、次の説明がなされている。
「厚労省から死亡小票データ、気象庁から気象データを入手して、日別の最高気温と死亡数の関連を観察すると(中略)V字型になる。暑くても寒くても死亡数は増加するので、中間付近に死亡数が最も少ない気温(=至適気温)があり、この気温を超えた、ある気温での死亡数から至適気温での死亡数を引いた部分を超過死亡と定義した。(以下略)」
4 説明変数と被説明変数の関係を1次関数で当てはめること。
5 「地球温暖化『日本への影響』-新たなシナリオに基づく総合的影響予測と適応策-」(環境省環境研究総合推進費 戦略研究開発領域 S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書, S-8 温暖化影響・適応研究プロジェクトチーム)
回帰式には、時間項を設定する。
一般に、死亡率は時間に応じた改善トレンドを有している。これには、死亡率に影響を与える医療技術や医薬品・医療機器等の進歩をはじめ、社会全体の健康増進意識の高まりや、健康診断等の予防医療の普及。住居や職場等の衛生環境の改善。禁煙・節酒を含む、食生活バランスの見直し。適度な運動等により体を動かすことや、適切な休息・睡眠をとることが重要性であることの認識の浸透など、さまざまな時間的要因が寄与しているものと考えられる。
回帰式に時間項を設定することで、こうした気候の要因とは別に死亡率に、改善のトレンドを与える要素を反映して、説明力を高めることが可能となる。
8|回帰式は暑熱期とそれ以外の時期に応じて使い分ける
回帰式は、暑熱期とそれ以外の時期に応じて、次の通り、2つの式を使い分けることとなる。
また、ダミー変数については、地域区分(Da1~Da10)と月(Dm1~Dm11)の2種類のものを用いる。
このうち、Da1~Da10については、北海道はDa1のみ1。東北はDa2のみ1。関東甲信はDa3のみ1。北陸はDa4のみ1。東海はDa5のみ1。近畿はDa6のみ1。中国はDa7のみ1。四国はDa8のみ1。九州北部はDa9のみ1。九州南部・奄美はDa10のみ1。それ以外はすべて0とする。
また、Dm1~Dm11については、1月はDm1のみ1。2月はDm2のみ1。3月はDm3のみ1。4月はDm4のみ1。5月はDm5のみ1。6月はDm6のみ1。7月はDm7のみ1。8月はDm8のみ1。10月はDm10のみ1。11月はDm11のみ1。それ以外はすべて0とする。(Dm9およびdm9は無し。)
その結果、具体例を挙げると、回帰式の4行目は以下のようになる。
(例)
近畿の6月 → 暑熱期の回帰式において、 I + da6 + dm6
四国の9月 → 〃 I + da8
沖縄の9月 → 〃 I
北海道の3月 → それ以外の時期の回帰式において、I + da1 + dm3
関東甲信の12月 → 〃 I + da3
沖縄の12月 → 〃 I
つまり、2つの回帰式において、定数と、地域区分ダミー、月ダミーにより、気候指数以外の、地域区分や月の違いにともなう死亡率の違いを表すこととなる。
第1節に述べたとおり、回帰式は、全部で504本(=2×21×6×2)作成することとなる。
回帰式には、2009-10, 12-19年(10年分)の1月~12月の実績データを入力する。地域区分は11区分ある。このため、暑熱期の回帰式には10×11×5の550個のデータ、それ以外の時期の回帰式には、10×11×7の770個のデータがあることとなる。7
まとめると、これらのデータをもとに、504本の回帰式の係数を導出していく。それを通じ死亡率と気候指数の関係性を明らかにしていく。これが、本稿での回帰分析の内容となる。
6 回帰計算にあたり、統計ソフトとして、IBM SPSS Statistics バージョン29.0.1.0 を使用する。
7 ただし、一部の月では、データが欠落している場合がありうる。さらに、若齢では、異常無(老衰等)の死因で、死亡率がゼロとなり、ロジット変換できない場合もありうる。こうしたデータがないものや、ロジット変換できないものが出現した場合は、それを除外して回帰分析の作業を進めることとする。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
公式SNSアカウント
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